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SSに置く程じゃない短めの話

▼2023/05/04:この鈍色の世界で

「もう、何も隠さずとも良いのでは」
 
「貴女が言えることぉ?」
 
 
『寝てなかったの隠さないと甘えられなかったって私、知ってるんだからね』と肩を竦めた。
目の前の話し相手は深い溜め息を吐き出して、グラスの中で身を溶かし始めている黒氷をストローでつつく様に牛乳へ馴染ませていく。
なんでそんな事を知ってるんだ、と言いたかったが自分と彼女の仲が深いものに変わった事はこのハルファで久々に顔を併せた数名以外の顔は周知の事実なのだから別に気にする程でも無い。
 
‪──‬それよりも、問題は。
 
 
「今は私の話ではないんです。
 
メネさんにいい加減、旧ハガルで起きた話を正直にしろと言ってるんですよ」
 
 
セレナが眉間に皺を刻む、それと反対にエリィゼルタ‪──‬否、エールメリスは目線を逸らした。
まただ、人の話には首を突っ込みたがる癖に自分の事には踏み入られたくないこの人の悪い癖なのだ。
そして自分たちが『今どういう状況』であるかを受け入れたがらない証拠でもある。
 
 
「メネくんは…WこっちWの事とは無関係だもの、それこそ話す必要なんて…」
 
「関係が無い、だから話さないなんてただのエゴですよ、母上。
 
……話してもらえない事は寂しい事だって、身に染みてるだろう。貴女は」
 
 
 
この鈍色の世界で
(いつ、こうして言葉を交わせなくなるかも分からないというのに)
 
 

▼2023/04/30:血染めのリリィ

『過去を、未来を変える事は簡単な事じゃないんだよ?』
 
‪──‬そんな事、知ってる。
 
『この世界にだって…帰って来られる保証も無いって、分かってる?』
 
‪──‬分かってますよ、勿論。
 
『……本当に、行っちゃうんだね』
 
‪──‬…ええ。私をここまで育ててくれて、有難う御座いました。どうか、お元気で。
 
W……さようなら、マトイさん。W
 
 

 
 
「………、……」
 
「おや、やっと目が覚めた様だね。何だか寝言を洩らしていた様だけど、嫌な夢でも見ていたのかい?」
 
「……ルーサーさん」
 
 
クヴァリスキャンプ付近に建てられた大きなロッジで迎えた、何度目かの朝だった。
重い瞼を開けて声のした方向へ視線を向けると窓側で寄り掛かり、恐らくは三男か祖父の物であろう一冊の本を読んでいる男が一人。
セレナは寝起き特有の鈍い動作で半身を起こすと、緩く首を振ってみせた。
‪──‬懐かしく、腹立たしい、そんな夢を見てしまったがすぐに忘れようと思って忘れられる様なものではない。
 
 
「…時間逆行してくる前に、居た世界の…夢ですよ」
 
「それはさぞかし、思い「出したくない様なモノです」おっと」
 
 
ギロリと効果音がつく様な睨みを喰らい、ルーサーは咄嗟に両手を上げて『冗談さ』と肩を竦ませる。
まるでこれ以上首を突っ込んだり茶化すと彼女の場合は本当に自分を仕留め兼ねないから。
 
 
血染めのリリィ
(‪マトイさんを、ずっと好きになれなかったのは‪──‬何処か自分の生き写しの様にしか見えなかったから)
 


▼2023/04/21:瑠璃色慕情

‪‬そういえば、セレナさんは何処の時間軸から来たのだろうかと‪──‬ホーリーは純粋な疑問を抱いていた。
オラクルではアローンがタイムスリップして来たのだから自分が知らないW時間Wの彼女の可能性が、ある。
それを考えると安易にあの大陸の事や会話など出来る筈が無く、どうしたものかと口には出さないものの‪──‬数日前からそんな悩みを、抱えて過ごしているのだ。
彼女の事だから記憶が無くても合わせてくれるとは思うが自分の前でだけでも嘘偽りを吐き出さなくてもいい、そういう態度はもうしなくていい事を分かってもらえたら。
不用意に壁を作らなかったり、新地への調査へ名乗り出さない辺り確信を得てはいるのだが‪──‬あと一押し、何か欲しい。
しかし直接話題に出す訳にもいかないのであり、どうしたものかと身嗜みを整える為の鏡の前で首を傾げると、白いリボンと共に飾られているWそれWの存在を思い出した。
 
 
「(‪コレでカマ、かけてみましょうかねぇ)」
 
 

 
 
「セレナさん、ちょっと聞きたい事が」
 
 
後日、皆が数グループに分かれてエアリオへ食材や素材を探しに行ってる中──‬セレナとホーリーの非常時組だけとなっていた、今や見慣れたその車内でホーリーが口を開いた。
愛用するクリエシオンの手入れをしていた目の前の彼女が『どうしました?』と顔を上げてくれたから、ホーリーは自らの後頭部へ手を伸ばす。
そう、WコレWを使うのがきっと、一番分かりやすい。
 
 
「これ、知ってます?」
 
 
そう言って、ホーリーはリボンと共に結び着けている‪──‬‬‬白百合の飾りを目の前の人物へ見せた。
そう、これはハルファへ来る前の……あの大陸で‪セレナから誕生日プレゼントにと渡された物。
付けっぱなしで来ていた事に気付き、コレを使ってカマをかけてみればすぐに分かるとあの時気付いたのだ。
……そして、それを渡した当の本人はと言うと‪──‬。
 
 
「うん…?………ん、んんんん!?!!?」
 
 
掛けていたグラスを外して飾りを凝視した後、大きな音を立てて盛大に椅子から転げ落ちた。
それも真っ赤な顔で。
そして、その反応と叫び声にホーリーは満面の笑みを浮かべたのは数分後の話。
 
 
 
瑠璃色慕情
(な、な、なんで持って来てんだよそれ!!!)
 
「なんでと言われても、付けてたんですよぅ」
「付けっ…そういえば渡した次の日から外してる方を見るのが稀でしたねぇ…ああもう、まさかカマかけられるなんて誰が気付くと…」
「ある程度確証は持ててましたが、コレを見せる方が分かりやすいと気付いたので」
「………否定出来ないのが悔しいんですけど」
 


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