今日は寒波の影響で外出するのが危険だと判断した私たちは、家でゆっくり過ごすことになった。
窓を開けていないのに隙間風が入り込んでいて、家の中でも冷えこんでいた。足先から手先まで冷たくて体が硬まりそうだ。
テーブルを挟んで座る彼は真剣な表情でパソコンに向かっている。靴下も履いてない足は寒くないのかな。
「茨くん、部屋寒くない?」
「ええ、寒いですね」
そこで会話はぷつりと切れる。「寒くない?」に含まれる意味を、彼はいくつか候補を挙げることができるし、何が最適解なんて賢い彼ならば知っているはずだ。
「寒いねぇ」
「そうですね」
私が負けじと返したところで、彼の単調な返事は変わらない。カタカタと無機質な音だけが部屋に響いている。
何か作業をしている彼の邪魔をしてはいけないという気持ちもありつつ、彼に少しだけ悪戯をしたくなる。構ってくれない彼が悪いんだ。
「……寒いよね。茨くんの足、冷たそう」
そう言って彼の足に私の足が触れる。すると、突然立ち上がった彼が、部屋を出ていった。突然の出来事に驚いた私は固まることしかできない。何も言わずに去ってしまったので戸惑う。彼の綺麗な顔から放たれる無表情は、美しいからこそ怖さが増す。もしかして、しつこく絡みすぎた……?
作業していたものを置いたまま部屋を後にしたので何かを思い出して取りに行ったのかもしれない。
5分ほど経っただろうか。しばらく寝室の方でガタガタと物音がしていたが未だに戻ってくる気配はない。様子を見に行こうとドアを開けて部屋を出ようとした途端、ガチャリとドアが開いた。
「わ!」
彼が現れたと思えばすぐに視界は遮られ、瞬く間に暗くなった。瞬時にわかったのは、彼が寝室の棚から毛布を出して持ってきてくれたということだった。
「ちょっとっ、茨くん。こんなにいらないよ」
「寒いんでしょう? これぐらいしなくては風邪を引いてしまいますよ」
淡々とそう語る彼に、頭の中ははてなマークでいっぱいだ。もしかすると怒らせちゃったのかもしれない。
そんなことを考えていると、毛布の上から締め付けられるような感覚がした。顔に覆う布のせいで何をされているのかわからない。抜け出そうと懸命に布を掻き分けるが、どのくらい被せてくれたんだろうか。なかなか明かりが見えない。
いったい彼は何枚持ってきたのか。徐々に顔に纏う毛布は少なくなっていく。
「ぷはっ」
ようやく抜け出せたかと思えば、彼の顔が至近距離にあった。目をぱちくりとさせると、彼は腕を離して一歩距離を取った。私を取り巻いていた毛布は全て落ちてしまう。
「え、茨くん? もしかして、抱きしめてくれてーー」
「あなたが寒いって言ったからですよ! 抱きしめたいとか、そういう訳じゃないですから」
ふいっとそっぽを向く彼が可愛くて、きゅんっと胸の奥が締め付けられた。私が発した言葉の意味を、しっかりと汲み取ってくれていたみたいだ。
「茨くん、もう一回」
おねだりをしてもこちらを向いてはくれない。
「嫌です」
「お願い! 寒いから、風邪ひいちゃうかも……?」
眉間に皺を少しだけ寄せていて、怒っているかのように思えるが、これは照れている顔だ。眼鏡のフレームをくいっとあげると、視線は合わせずに私を引き寄せた。
「これで、寒くないでしょう」
予想よりも強い抱擁に、ドキドキと心臓が高鳴る。彼を見上げると、耳まで真っ赤にしていた。彼の赤く染まる頬は、体温が上がっているようで彼の抱擁はいつもより温かく感じた。 prev back next