最近、オレの彼女の様子がおかしい。というのも、スマホを近くに置くようになったし、オレにバレないように夜中こっそり何かしていたりする。いやオレもスマホでゲームしたりするから人のこと言えないんすけど、気になる。
何やらスマホの通知などが鳴ると、焦ってオレに見えないようにする。その反応が単純に驚いてるのではなく、顔を真っ赤にして焦っているだけだから、何かオレにバレたら恥ずかしいことがあるんだろう。
彼女のことだから浮気とかではないことはわかっている。でもやっぱり気になるじゃないすか。
「ナマエさん、オレにもかまってくださいよぉ」
そう言って座りながら彼女のお腹に手を回すと、画面が見えないように伏せてこちらを向くことも増えた。
そうこうしているうちに、核心的な質問を聞けず、オレはライブツアーに行くことになってしまった。
*
『今ホテルに戻ってきたところです。電話してもいいすか?』
しばらく待っても既読がつかない。いつもならすぐに返信が来るはずだが、彼女も忙しいかもしれないと思い先にシャワーを浴びに行った。
髪を乾かそうとした時、ピロンと通知音が鳴った。
『遅くなってごめんね! 一段落ついたから大丈夫!』
こんな遅くまで仕事だったのか、大変だっただろう。
『もしもし』
『もしもしジュンくん? 遅くなってごめんね……』
『いや、仕事だったんでしょう? お疲れ様っす』
『……あ、うん。そうそう、お仕事だったの』
ん? なんだ、この歯切れの悪い返事は。彼女に限って何か起こるとは思っていない。信頼しているからだ。しかし何か引っかかる。
彼女の話に相槌を打ちながら聞いていると、彼女にその不安が伝わってしまったようで、心配される。
『……ジュンくん聞いてる?』
『あ、はい。聞いてますよ』
『疲れてるんじゃない……? 無理しないで明日のために寝よう?』
よかった。いつも通りの彼女だ。オレのことを心配してくれる労りの言葉と優しい声。
『それじゃあ、あんたの言葉に甘えて今日はこのへんで切ります。明日で最終日っすから終わってから打ち上げとかあるかもしれないんで先に寝ててくださいね』
『うん、わかった。明日もがんばってね』
『ありがとうございます。おやすみなさい』
『おやすみ』
明日久しぶりに彼女に会える。お土産は喜んでもらえるだろうか、ひと月ぶりに会う彼女は何か変わってるだろうか。今から楽しみで仕方なかった。
*
長いツアーが終わり、遅い時間に家へ帰ると、彼女は既に眠りについていた。眠い中も待っていたのだろう。スマホの明かりがついたまま、彼女の横に置いてあった。
待て。今なら見れるんじゃないか、アレを。そう思ったオレは彼女を起こさないようにそっとスマホに手を伸ばした。
そこには男のキャラクターが現れるスマホゲーム、所謂ソーシャルゲームがあった。
「ゲーム?」
思ってもいなかったその画面に思わず声が出る。すると、彼女がうなり声を上げて瞼をぱちりと開け、大きな瞳がオレをとらえた。
「ジュンくん……?」
「今、帰りました」
「うん、おかえり。……って! どうして私のスマホ持っているの!」
彼女が素早くオレの手からスマホを奪った。気まずい雰囲気が流れる。
「……見た?」
「あー、はい。見ました」
「そっか……」
「最近やってたのってそれだったんすね」
「う、うん……」
再び気まずい空気が流れ、オレはどう反応すればいいのかわからなかった。二次元とはいえ、男だらけのゲームを彼女がやっていることに対してどんな感情を持てばいいのかわからない。
そんな沈黙を破ったのは彼女だった。
「……だって、このキャラクター。ジュンくんに似てるんだもん」
「え?」
どういうことかわからないオレは、ハテナマークを頭に浮かべる。オレに似てる?
「顔も性格も、声も。ジュンくんに似ているの」
そう言って画面を差し出され、改めて見てみる。似てる、のかもしれない。オレにはよくわからないが、彼女がそうだと言うのだからそうなんだろう。
「だからつい欲しくなっちゃうの」と付け加え、恥じらう彼女。なんすかそれ。可愛すぎる。
「本物のオレじゃダメなんすか?」
つい意地悪を言いニヤニヤしてしまう。
「……ダメ」
「はい? 何ですか」
「言わない!」
そう言ってそっぽを向く彼女にムッとする。ゲームのキャラクターに嫉妬をするなんて、我ながら格好悪い。
「オレじゃダメな理由、あるんですか」
「そういうことじゃなくて。ジュンくんが忙しい時とか、寂しい時に見てるの」
「へぇ、オレよりもその男の方がいいんですか」
「ち、違うの。ジュンくんがいない時にもジュンくんと一緒にいるって思えるから嬉しいの……」
ごにょごにょとだんだん小さい声になっていく。はぁ? 可愛すぎる。オレとずっと一緒にいたいと言われているようなもので、嬉しくないはずがない。
「あんたはどこまでオレを好きにさせるんすか……」
ハァーとため息をつきながらしゃがむと、「どうしたの?」と焦っている声が頭上から聞こえてきた。嬉しくなってにやけが収まらないオレは、立ち上がり、ベッドの端に座る。
本物のオレがいるのにと思う反面、忙しくて寂しい思いをさせていることに申し訳なくなった。オレといる時はいつも笑顔で楽しそうにしているが、無理をさせているのではという不安もあった。彼女の本当の気持ちが知れて嬉しい。
「いつも、オレのそばにいてありがとうございます」
彼女の頬に手を当てて、優しく撫でると目を細め、オレの手に彼女のそれを重ねてくる。その表情一つひとつが愛おしくて胸がいっぱいになる。
可愛くて、愛おしくて思わず食べてしまいたい。そんな衝動に駆られる。「覚悟してくださいよ」と言って腰を引き寄せ、彼女の長い髪をよけて首元をあらわにすれば、そこに強く嚙みついた。
突然のことに彼女は困惑していたが、オレの背中に優しく手を置いた。
いつものことだが、噛んだ後に噛み跡を舐めるとビクッと動いて恥じらうような表情をする。その一連の行動が愛しくて、オレの腕の中に彼女を収める。
すっぽりと収まる彼女が可愛くて、オレのものだと言わんばかりに強く抱きしめる。弱々しい声で、「苦しいよ」とでとどこか優しい声で言う声が可愛くて、今のオレには逆効果だ。
「どうしてほしいっすか?」
顔が爆発するんじゃねえかってほど真っ赤になってる彼女が可愛くて、つい意地悪してしまう。
「可愛いっすね」
そう言うともっと赤くなる彼女が可愛くて耳元で何度も可愛い可愛いと囁いて、たまに首を噛んだり、耳を甘噛みする。唇にキスを落としたかと思ったら下唇を優しく噛んだりする。
それを続けているとあんたが応えてくれるから、嬉しくてまたぎゅっと抱きしめる。最初は恥ずかしがって顔も見れずにいたのに、今では応えてまでくれる。ここまで続けた甲斐がある。
あんたが好きでたまらないので嫌って言ってもやめないっすからね。オレだけに夢中になってください。