Agapanthus

朝目が覚めて


 朝、重たい瞼を開けたらそこに彼がいた。

「えっ――」

 彼を起こさないように思わず口を手に当てて塞ぐ。まだ眠っているようだ。
 彼をこんなに至近距離で見ることは珍しい。彼の方はいつも近いが、私は彼の顔をまともに見れない。長い時間見ていると心臓がもたないからだ。いつもそんな私を見て、「お前が見なきゃ意味ないやろアホ」と言われてしまう。
 彼のそんな強い言葉でさえも胸の奥が疼いて仕方ない。惚れた弱み、というやつだろうか。彼以外にアホと言われれば傷ついたり悔しかったりするはずだ。

 こんな機会は滅多にないためゆっくりと綺麗な顔を眺める。一般的にいえば容姿端麗、というほどではないのかもしれない。それでも私には彼の光の束を集めたように輝く髪の色に負けないほど輝いて見える。
 その時、ふと私は寝起きだから髪がぐちゃぐちゃになっているのでは? と不安になった。すぐに整えようと思い、起こさないよう静かに布団から出た。

「どこ行くねん」
「わっ」

 突然腕を引っ張られ、再び布団に戻される。私を抱き枕だと思っているかのように抱きしめた。

「……いつから起きてたの?」
「最初っからや」

 ニヤリといつものように笑う彼にやはり目を合わせられなかった。

「どこ行こうとしてたんや」
 真っ直ぐな瞳でそう言われると彼に嘘をつかない。

「だって……」
「なんや」
「今の私、絶対髪ぐちゃぐちゃ……」

 恥ずかしい私は弱々しい声でそう呟く。くしゃりと髪を触って目を逸らすとケラケラと笑い声が聞こえた。

「笑わないでよ」

 すると笑い声がピタリと止まり静かになる。様子を伺うように彼をチラリと見やるとこちらをじっと見ていた。私の心臓もピタリと止まるような感覚に陥る。

「……どんな格好しとってもかわええよ」

 一瞬で顔に熱が集まり、心臓が打たれた。そんなストレートな殺し文句、耐えられるわけがない。

「そういう冗談、やめてよ……」

 冗談だとは本気で思ってない。いつもは飄々としていて本心を隠しているかのように振る舞う彼が真剣な表情で言うんだ。これは本心からくるものだとわかる。

「冗談やないで。俺を見れんで逸らす目も、生意気な口も、くしゃくしゃな髪を気にするんも何もかも愛しい」
「よ、よくそんな恥ずかしいこと、真剣に言えるね」
「ハァ? お前は俺のこと何とも思ってへんのか?」

 心臓の音はうるさいほど頭に響いている。彼も私の言葉に期待をしてくれたようで、その期待に応えなくてはと思い拙い言葉で伝える。

「し、真子はいつでもかっこいいからズルい……」

 なんやねんそれ、と笑われてしまったが嬉しいのか抱きしめる力は強くなった。彼のそんなひとつひとつの行動が、私を好きだと言っているようで。胸の疼きは抑えられないくらいになっていった。

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