僕はかぼちゃジュースをズルズルと啜りながら、グリフィンドールのテーブルの一角をぼんやりと見つめていた。ハーマイオニーが「行儀が悪いわよ」だとかなんとか、言っている気がする。でも今は、そんなお小言は右から左にすり抜けていく。
僕はぼんやりしたまま、カメラを片手に何やら熱く語り合っているクリービー兄弟を眺めていた。デニスが何かいいことを言ったらしく、コリンがデニスの頭を思いっきり撫でている。照れ臭いのか、デニスはそれをバシッと跳ね除けていたけど、嬉しそうにしていた 。今日もくるくる絶好調の黒髪をくしゃりと握りしめる。

「ロン、まだ食べるの?」
「腹ペコなんだよ」
「ねえロン」
「なんだい?君も僕に食べすぎだって言うの?」
「ちょっと僕の頭撫でてみてくれない?」

ゴン、ガシャンと何かが落ちた音がした。けど、そっちを見ていない僕にはそれが何か分からない。大方ロンがチキンを皿に落としたんだろうと、頭の隅で思う。たっぷりの沈黙の後、ようやくロンが声を出した。

「………なんで?」
「いいから。ほら、早く」

頭を指差して急かすと、とんでもない不審人物を見ているような目で僕を眺め回したロンは、僕の頭に手を伸ばした。一回ハーマイオニーに叩き落とされたけど(手が油まみれでしょう!)、ロンはぎこちなく僕の頭を撫でた。じっと考るまでもない。

「ロンって頭撫でるのへたくそだね」
「は!?自分が撫でろって言ったんじゃないか!」
「ハーマイオニーもやってみて」
「いいわよ」
「マーリンの髭!」

歯ぎしりしているロンをフォローする人はこの場にはいなかった。今度はハーマイオニーの手が僕の頭に乗る。ふわふわと頭をくすぐる手のひらは心地いい。心地いいのだけれど、違和感があった。

「うーん…違うなあ…」
「何かあるの?ハリー」

撫でられた髪をくしゃりと押さえる僕に、ハーマイオニーが不思議そうに尋ねた。ロンはまだブスッとしていたけど、突然すぎる僕の頼みの理由が気になるらしい。チキンにかぶりつきながら、目は僕の方を見ていた。

「たまになんだけど、誰かに頭を撫でられるのを懐かしいなって思う時があるんだ」
「懐かしい?」
「よく分からないんだけと…なんとなく」

でも、僕のこの考えは矛盾している。
物心つく頃から、誰かに頭を殴られたことはあっても撫でられたことなんてない。なのに、僕はそれを懐かしいと思う。一応今試してみたけど、やっばりしっくりこなかった。
どうして、こんなことを考えるんだろう。モヤモヤした感情が心を占めた。

「単純に、小さい頃に誰かに撫でられまくったとかじゃない?」
「ダーズリーのところにいた時は、撫でられることより殴られることの方が多かったよ」

ロンの質問に今しがた考えていたことをそのまま返すと、じっと考えこんでいたハーマイオニーが口を開いた。

「…あなたの、お父さまやお母さまじゃないかしら」
「父さんと母さん?」
「あなたは覚えていなくても、体が感覚として覚えているのかもしれないわ。私も、覚えていないくらい小さい頃のデジャヴ体験はたまにあるもの」

にっこり微笑むハーマイオニーの言葉に、くしゃりと髪を握りしめる。もし──もし本当にそうだとしたら、とても嬉しい。
両親との思い出は、写真を見て想像を巡らせるか、シリウスやルーピンに思い出話を聞かせてもらうことでしか得られない。でも、僕自身の中にも思い出があるのならば。心の奥底から、熱い雫が湧き出てくるようだった。

「でも、どうして『頭を撫でる』なんだろう」

ようやく食べることを止めたロンが、指を舐めながら言った。

「どういうこと?」
「君の両親が生きてた頃って、君はまだ一歳くらいだろう?だったら抱っことかおんぶとか、もう少し赤ちゃんっぽい思い出でもアリだと思うんだよね」
「…それもそうね」
「そもそもさ、どうして頭を撫でられることに懐かしさを感じたんだい?最近ハグリッドにでも頭撫でられたの?」
「…えーっと」

ロンの指摘は尤もで、言葉に詰まった。
改めて思い返してみると、僕は誰かに頭を撫でられたことがあっただろうか。ハグリッドは僕を抱きしめることが多いけど、頭を撫でたことはなかったかもしれない。周りの大人にも、シリウスにも頭を撫でられたことは、ない。
だったら、僕はどこでハーマイオニーの言う“デジャヴ”ってやつを感じたんだろう。
この時の僕には、まだ分からなかった。




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