談話室に帰る頃になると、ロンとの言い争いがくだらないものに思えてきて私は一息ついた。談話室の暖炉の前に腰掛けたハリーはどこか、いい意味で上の空だ。何かいい事でもあったのかもしれない。
ロンへの怒りが消え去った頭は、闇の魔術に対する防衛術の会合──もとい、ダンブルドア軍団の初会合の内容をしっかりと整理することができた。よかった事も、悪かった事も。今後に向けての改善点も、ばっちり整理する事ができている。
それでも一つ、白いシャツについた一点の染みのように私の心を占めている問題があった。

「ねえ、ハリー」
「うん?」
「ケニーって、三大魔法学校対抗試合の時も、あんなにすごかったの?」
「うん?どうだったかな、すごかったかも。でも、レグルスもすごいんだね。僕、知らなかったよ」

今のハリーの頭は正常に機能していない事が、今の会話だけでよく分かった。プライマリースクールの子の方が、まだマシな答えを返してくれるだろう。ロンはというと、眠そうに隣で欠伸をしている。
溜息をついて、とりあえず自分自身の頭の中で整理してみる事にした。
ケニーが戦うところを、私は初めて見た。もちろんレグルスもだ。あまりの技の素晴らしさに、圧倒された。二人とは学年が違うから、実戦訓練を一緒に受けた事もなかったから。けど、それでも、私には分かる。
二人の戦闘能力は、あまりに異常だ。
七年生と言っても学生が、あんなに無言呪文を使いこなしているのはおかしい。無言呪文は、熟練の魔法使いでも自身が使い慣れているいくつかをこなすのが精々とされているからだ。

それらの無言呪文が、すべて攻撃呪文や防御呪文だった事もおかしい。秀才のレグルスならまだしも、ケニーが?あのいたずら好きで、フレッドやジョージ、リーと笑っているばかりだった彼を知っていたら、咄嗟の判断で動かなければならない状況で、ああも人を傷つけかねない呪文ばかり操ると思えない。

それに、レグルスは──レグルスは、私が見た事も聞いた事もないような、高度な呪文を全て無言呪文でケニーに放っていた。特に最後の呪文は、いったいどんな呪文を使ったのか分からなかった。どの文献でも見た事がないと思う。もしかすると、闇の魔術なのかも──そんな風にさえ考えてしまう。彼の実力なら闇の魔術でさえも使えそうだなんて。
ケニーがその呪文のほとんどを盾の呪文で防ぎきっていたのは空恐ろしささえ感じた。盾の呪文はそもそも、習得するのも困難なのだ。完璧に呪文を防ぐのなんて、尚更だ。それを無言呪文でやってのけるなんて、彼は一体どこでそれを修得したんだろうか。変身術にしても、三大魔法学校対抗試合の第一の課題の時より精度はぐんと上がっていた。

それに何より、戦闘訓練をしていた時の、二人の纏う空気が変わった。だからこそ皆見入っていたのかもしれないけど。
レグルスが普段纏っている、落ち着いた穏やか空気はどこにも無かった。眼差しがどこまでも冷たくて、杖先からほとばしる魔力は絶大で、油断したらその圧倒的な空気に呑まれてしまいそうなほどだった。
ケニーだって、普段の飄々とした態度はすっかりなりを潜めていた。真剣な眼差しで口を引き結んでいて、立ち振る舞いからも杖の動きからも、彼が本気で戦っているんだって伝わった。

二人の動きはどこまでも洗練されていて、とてもじゃないけれどその辺の学生は二人に太刀打ちできないって、そう思った。実力はあの場にいた誰よりも飛びぬけているって、素人目にも分かった。
それに、二人共、お互いに自分達の戦闘スタイルを熟知しているみたいだった。
お互いにじっと隙を伺っていて、杖をあげた一瞬とか、身を翻した一瞬とか、そういうタイミングで呪文を叩き込んでいた。

──まるで何度も何度も、幾度も幾度も、何年間もずっとずっとそうやって、二人で戦いの訓練を続けていたかのように。

「(…私の、考えすぎかしら)」

考えすぎにしては、私は自分自身の考えに筋が通っているように思う。ただ、理由が分からないだけで。
そうだ。そもそも、二人がそこまでして戦闘スキルを磨く理由が無いのだ。

「(理由さえわかれば、スッキリするのに)」

闇祓いになるのが長年の夢だから、とか?
…二人共、ふくろう試験には受験したすべての科目でパスしたらしい。二人の実力なら、そう苦労しなくてもなれそうだけれど。たったそれだけのためにそこまでするだろうか。
…ちょっと違う気がする。

──会合を通して、14年前まで、君たちの両親やその家族の命を脅かしていた闇の帝王が復活したんだという事を、頭の片隅にでも刻んで欲しい

「(…例のあの人が、関係しているのかしら?)」

二人が例のあの人について何か言っていたのは、聞いた事が無い。でも二人は、例のあの人が復活してからも、いやに冷静だった気がする。…ケニーが当事者だからかもしれないけど。被害者的な意味で。

「(例のあの人の復活が、予想できたわけでも無いのに)」

例え予想できたとしても、二人にそこまでして例のあの人の手から守りたいものがあるのだろうか。レグルスの言うように、自分自身や彼らの大切な人たち?でも二人は孤児のはず。
レグルスはマグル生まれだから、狙われるのかもしれないけど。もしかしてそれの警戒…にしてはやりすぎよね。

「(ああもう、分からないわ!)」

この間ハリーは、「二人は何度も僕らを助けてくれている」と言っていた。実際そうだ、私達は危ないところを何度も助けてもらっている。寂しくて泣きたくなるような時も、慰めてもらっている。
でもそれらだって、よくよく考えてみれば、あまりにタイミングが良すぎる。
空気を読むってレベルじゃあ──

「ハーマイオニー?」

ロンの眠そうな声でぱっと顔を上げる。暖炉で燃え盛っていた火はほとんど小さくなっていた。

「僕らそろそろ寝るけど、どうする?」
「あ…ええ。私も寝るわ」

欠伸を零しながら男子寮へと上がって行った背中を見送る。まとまらない考えは、私の中でぐるぐると渦を巻いていた。

ケニーとレグルス。二人を疑ってるわけじゃない。もちろん敵なわけはないし、信じているのだけど。
言葉が見つからないから、敢えてこう表現させてもらう。

「(──あの二人は、怪しいのよ)」

何がどうってわけじゃない。ただ、どうも何かが引っ掛かる。
それが何なのか、この頃の私には分からなかった。



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