企画より
「ステューピファイ!」
すっかり見慣れた赤い光が自分の杖先から飛び出した。飛んで行った方向から、同じように赤い光が飛んでくる。避けて頬から飛んだ汗が、麻痺呪文にぶつかって弾け飛んだ。しゃがんで避けて、別の呪いを飛ばしても同じように弾かれる。僕の喉が枯れてきたのにもかかわらず、相手は一度も喋ってはいない。
いちかばちか、懐に飛び込んでみせると彼はひどく驚いた顔をした。足払いをかけて勢いで立ち上がり、武装解除の呪文を唱える。高く舞い上がった杖は僕の手のひらにまでは来なかったけれど、跳ね飛ばす事には成功した。
気の抜けた会話が聞こえてくる。
「こけたな」
「頭からいったぞ」
「つーわけだフレッド。さっさと3ガリオン渡せ」
「ちっくしょ、大丈夫だと思ったのにな」
「…何をしてる」
ひっくり返ったレグルスが地を這うような声を出した。のに、金貨を交換し合っている四人は全く気にしていないらしい。金貨を受け取ったケニーはにやにやと笑みを浮かべている。
「いやー、魔法にね?頼らなかったら勝てるかなって思ってさあ」
「セドリックが肉弾戦に持ち込んで、レグを負かせるかっていう題目で」
「ケニーが負けるに賭けて、俺が勝てるに賭けたのさ」
「一応言っとくけど、俺とジョージは何もしてないからな!」
「まあでも、止めなかったけどな」
示し合わせたようにセリフを紡ぐ四人は、何か特別な糸を通じてシグナルでも送り合っているんだろうか。悪びれもせずに言い訳するレグルスの杖は、金貨を丁重に収めているケニーに向かって突きつけられた。なんだか尋常じゃない雰囲気を感じて、慌てて二人の間に立ちふさがる。
「レグルス、待ってくれ!彼らの提案を受けたのは僕だし」
「いいやセドリック、君は微塵も悪くない。悪いのは」
肩口を赤い閃光がかすめる。顔がひきつるのを感じた。そうだ、彼はいつだって誰にだって容赦なんてしない。特にケニーには。
背後で盾の呪文が呪いをはじく独特の音が聞こえた。一歩で自分を追い越してもう一度とばかりに杖をふりかざしたレグルスを、腹の立つ笑い声をあげながらケニーが野次る。
「ふはははは!いつから杖だけが勝敗を決めると錯覚していた!?」
「だ、ま、れ!その減らず口を閉じろ!!」
飛び火しそうな呪いの攻防を見て悲鳴をあげた下級生が慌ててこちらに逃げてくる。口で言い合いをしながら、器用に呪いを飛ばし合ったり防いだりしている二人を見て苦笑した。
ケニーとレグルス。ああやって本気で呪文の飛ばし合いをされると、仲がいいのか悪いのか、分からなくなる時がセドリックにはあった。もちろん、二人の間にゆるぎない信頼関係があるのは分かっている。でも、たとえ悪ふざけでも、友達同士で本気で呪いを掛け合うという事が、セドリックには理解できない。あの二人に限ると、麻痺呪文なんてかわいいものだ。当たりどころが悪ければ気絶では済まない、そういった類の呪文を彼らは互いに操っている。しかも無言呪文で。
むしろ、小さな失望さえ感じていた。ケニーたちも、他のグリフィンドール生と変わらないのだ、と。
「今度はケニーとレグルスか」
「そうだな…ジョージ、どうだい?」
「んー、レグルスのゴリ推しで終了に3ガリオン」
「じゃあ俺はケニーのメンタル攻撃に杖を落とすで3ガリオン、だ」
彼らを止めるべき友人たちは二回目の賭けに乗じているらしい。さすがに見咎めて、セドリックは喉を潤していたコップを机に置いた。
「君たち」
「なんだいセドリック」
がちゃがちゃとサイフを探っているジョージとリーに代わって、フレッドが聞き返してきた。彼の背後ではバンバンとけたたましい音をたてながら攻防が続いている。
「あれ、止めようとは思わないのか?」
「あんなに面白そうな事してるのに、なんで止めなきゃならないんだい?」
「…なんで、って」
太陽が西に沈む理由を問われているような顔でフレッドは聞き返してきた。フレッドはいたずらっぽく微笑んで、争っている二人を指差す。
「頭やわらかくしようぜ、セドリック。あいつらは好きにケンカできて俺達は小遣い稼ぎができる。一石二鳥だろ?」
「もし怪我でもしたら、危ないじゃないか」
「あいつらに限ってそれはねーよ」
自信たっぷりにフレッドが笑った。気持ちは分かる。ケニーとレグルスの実力は、DAの会合で嫌というほど味わっていたからだ。周りにいる下級生に被害が及ばないように、魔法の威力を指先ひとつで調整しているんだろう。ということはつまり、当たったところで大したダメージは至らない。分かっていて、それでもセドリックは顔をしかめた。
「…うん。そうだね」
思っていても口には出さない。争いの火種を生むくらいなら口を噤む。セドリックは様々な感情を飲み込んで、いつのまにか争いをやめていた二人を見た。
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