ケニー・アディントンとは何者か。
グリフィンドールで、ムードメーカーで、よき先輩で。三大魔法学校対抗試合の代表選手で、最近はダンブルドアの後継者なんて派手な名前で呼ばれるようにもなって。
それでも、彼が、潰れてしまいそうになるほどの重い名に負けない十分な実力を兼ね備えているのを知っている。それを僕は、何度も目の当たりにしてきた。
でも、それが何だっていうんだろう。いざ冷静になってみると──僕は彼の事を、彼自身の事を、驚くほどよく知らなかったのだ。




「彼は何がしたいのかな」

僕は彼を知らない。
たとえば、勇猛果敢なグリフィンドールらしいと思っていたのに、彼は「不器用な臆病者」らしい。たとえば、僕は彼に裏切られたと思っていたのに、曰く「彼が彼である限り」彼は僕らを裏切らないらしい。
その行動に根拠がなくても、突拍子もない言動をくり返していても、ちゃんと理由があるんだとか。説明されるままに、はいそうですかと素直に頷くのは釈然としない。今もまだもやもやした気持ちが消えないって事は、僕はまだ、ケニーの事を快く思ってないままなんだろう。
レグルスのようにケニーと長く接していれば、その理由にも察しがつくんだろうか。理由を知っていれば、ケニーを許す事ができるのだろうか。
問うてみた。

「さあねえ。そもそも」
「真意なんてあんのか?」

ダイアゴン横丁で、今も営業を続けている飲食店は少ない。世情の脅威にも負けずになんとか経営している、そういったパブの奥のテーブル席を陣取って、僕とフレッドやジョージは遅めの昼食にありついていた。量が大雑把だったらしく、塩まみれのポテトを軽く振ってから口に放り込んでみたけれど、振りが甘かったようで、かなり塩辛い。

「君たちは気にならないのかい?」
「そりゃあ実際のところどうなんだって問いただしてみたいけど。なあ」
「普段どこほっつき歩いてんだかわかりゃしねえんだもんな」
「あ、こないだホグズミードにいたって、ロンの手紙に書いてあったぜ」
「なるほど。それじゃ今頃はロンドンか?」

彼の居所は騎士団でも掴んでいない、らしい。たぶん魔法省も。大人が捕まえられない彼を、果たして僕らが捕まえられるんだろうか。
捕まえたいとは思う。どうにか捕まえて、真意を聞き出したい。グリモールド・プレイスでの会話を思い出す。

「(あれだけ煽られて、それでも裏切られたと思い続ける方が無理だ)」

ケニー・アディントンには何かある。何かあるんだって、レグルスは遠回しに教えてくれた。教えてくれたってことはたぶん、レグルスもケニーのその何かを探り当てて欲しいんじゃないんだろうか?
秘密にしておきたいなら、あんな思わせぶりな態度はとらない。すると彼はきっと──。
かぶりを振った。

「レグルスの言い分を信用するなら、ケニーは僕らを見捨てたんじゃなくて、僕らが自ら見限るように、仕向けたんだろうね」
「理由は?」
「そこまでは分からない」

目の前で、ため息にため息が重なった。

「それじゃふりだしに戻るじゃないか」
「戻ってないよ。少なくとも、僕らは騙されてたんだって自覚ができた──本当の意味でね」

冷たいアイスティーは、そろそろお役御免かな。指先についた水滴を振り払うと、僕はフレッドとジョージを交互に見た。

「僕らが彼との関係を断ち切るべきだと思うのは、ケニーの思うつぼなんだ。その逆をいけばいい。そうすれば、ケニーの裏をかける」
「逆ってーと…レグルスみたいな思考回路になればいいのか?」
「"何があってもどんなことがあっても、あいつを信じる?"」
「それこそ、盲目にはなれないってやつだぜ」

大真面目な顔をして友人の真似をしたフレッドの横で、ジョージがやれやれといった様子で肩をすくめた。

「セドリック、お前の言う事は尤もだと思う。俺達だってリーだって、他の奴らだって、あいつが嫌いなわけじゃない」
「でもさ、裏をかいてどうすんだよ。その先は?」
「レグルスの言う事が本当だって、納得できるんなら俺達だって満足さ。でも万が一、レグルスでさえ騙されてたらどうするんだよ」

口を挟む隙もなく問い詰められて、僕は口を開きかけて──結局閉じた。二人がまだ、彼を許していない事が伝わったからだ。
親友に裏切られるというのはきっと、そんなに単純じゃないんだろう。
信じていたから許せなくて、でも心のどこかでは信じていたくて。きっとまた、昔みたいに笑い合えると思っている。そうしたいのに、プライドが許さない。
グリフィンドールらしいなと、思った。

「…僕は、真実が知りたいだけさ」

結局のところ、僕も信じていたいのだ。
友人と笑う彼を、後輩の陰口に憤る彼を。DAで指導者たりえた彼を、時にかぼちゃを被る彼を、僕を導き諭してくれた、ケニー・アディントンを。信じていたいから真実が知りたい。僕が信じた彼を疑いたくないから、なんて。なんて独りよがりなのだろう。

「まあなんにせよ、ケニーをとっ捕まえる隙がなけりゃ意味ないけどな」

すっかり冷めたソーセージをフォークの先で突っつきながら、フレッドが笑った。

「せめて拠点にしてる家とか、分かればいいんだけど」
「一番知ってそうなのはダンブルドアか」
「でもダンブルドアって今旅に出てるんだろ?捕まるか?」
「ていうか二人共一緒なんじゃねえ?」
「Bonjour」

聞き慣れないフランス語が僕らの議論を遮る。僕の後ろを指差して、フレッドがあ、と口を開けた。僕も振り返る。

「お久しぶーりでーすね?」
「よう、フラー」

学生時代よりもいっそう輝く魅力を放つ彼女に、ほうっと息を漏らしたのはどの客だろうか。僕だって、この夏に頻繁に会っていなければきっと衝撃で固まっていただろう。耐性って、わりと大事だ。
よく見ると彼女は仕事着らしい制服に身を包んでいた。

「遅めのランチかい?」
「そうでーす。人手が足りなくて…みんなみんな、恐ろしくて、やめていきまーす」

僕の隣に遠慮なく腰掛けたフラーはツンと鼻をそびやかした。

「ガード魔ンでさえも、か」
「みんな、自分の愛すーる家族が大事でーす。気持ちは、分かりまーす!私も、ビルを守りたーいですから?」
「あ、もういいよその辺は」
「お腹いっぱいだからホント」

頬を染めてのろけだしそうな彼女に、フレッドとジョージは両手を上げてストップをかけた。僕もブンブンと首を縦に振る。伊達にこの夏、一つ屋根の下でラブラブっぷりを当てつけられたわけじゃない。

「二人はともかーく、あなたはここーで何を?」
「ちょっと、ね」

ビルと付き合ってるから、フラーも不死鳥の騎士団の事情は知っている。それに確か、三大魔法学校対抗試合でフラーとケニーはなんだかんだ、よく話す仲になっていたような。
言ってもいいんじゃないんだろうか。フレッドとジョージと目配せして、僕らは事情を説明する事にした。





「──って事があってさ」
「フゥーン…」

僕のグラスの氷はすっかり溶けきってしまったらしい。ほとんど水だけになったアイスティーを飲み干す。一息ついている間に、フラーはすらりとした長い脚を組み直した。

「ケニーなら、よくうちに来まーすね?」

一瞬彼女が何を言ったのか理解できなかった。

「…は?」
「おととーいも、会いまーした。今年の夏から、何回か…」
「ちょっ、待ってどういう事だ!?」

椅子を蹴り飛ばす勢いでフレッドとジョージがいきり立つ。フラーは二人の様子にびっくりしていたけれど、生憎僕らには彼女に気を配る余裕がない。わらにも縋る思いで詰め寄った。

「うちって、どういう事だ?」
「くそっビルのやつ言ってくれれば…」
「ケニーは、ビルには会ってませーん?」
「えっ」

二股だとか三角関係だとか、あらゆる不穏な単語が頭の中を駆け巡った。フレッドとジョージの頭の中もそうだと思う。僕らの表情が石のように固まったのを見て、フラーも察しがついたらしい。真っ赤になって立ち上がった。

「違いまーす!私のとこーろにというのーは、仕事場だということでーす!」
「あ、ああそうなの…」
「危うく、今夜ビルを慰めにいくところだったぜ…」
「とっておきのワインを開けに行くころだったぜ…」
「失礼でーす!私とビルは、ちゃんと愛し合っていまーす!」

こんなところで真昼間から愛を叫ばないでほしい恥ずかしいから、と口にできないのがつらい。周りから突き刺さる視線をなんとか無視しながら、僕はふくれっ面をしているフラーに問いかけた。本題はこっちだ。

「その、ケニーの話だけど詳しく聞いていいかな」

やっと掴んだ糸口はすぐ傍にあったらしい──双子の、だけどね。




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