企画より




僕らはただの共犯者だ。

ただ、互いの利害が一致しているから一緒にいるだけ。必要なだけの情報を開示し、それを提供し合い、自分の欲しい物を掴むために最適な選択肢を増やしていく。この奇妙な関係を具体的な言葉にして表現する事はなかったけれど、そういうものだと理解していた。この関係に満足していたからだ。僕も、おそらく彼も。
利用し合っているだけだ。僕は彼の知識を。彼は僕の経験を。

そこには何の感情もなかった。だから、彼が僕の願いの障害と成り得るのならば、彼を切り捨てるつもりだった。彼が音をあげるのならば、さっさと見限るつもりだった。僕は、彼を利用しているに過ぎないのだから。
だから──情なんて、湧かないはずだった。

だから僕は、









なぜ避けなかった。

「あっ!」

どしゃ降りの雨の中。鋭い叫びの一瞬後に、骨が砕け散るものすごい音がした。
耳障りな音を発しながら、もう一撃とばかりに上空へ跳ね上がったブラッジャー。黒い影に照準を定めて、僕はすぐに動いた。

「フィニート・インカンターテム!」

咄嗟に唱えた呪文でブラッジャーを吹き飛ばす。残骸を蹴とばしながら、僕は蒼白になったハリーの傍へとしゃがみこんだ。

「レグルス──ケニーが──」
「分かってる」

雨水が前髪から滴る。それが煩わしくて、前髪を軽く払った。
ブラッジャーが背中にあたったのを、確かに見た。ブラッジャーは選手を箒から叩き落としはするが、骨を折るほどの痛手を負わせるはずはない。箒から落ちた後にきちんと受け身をとらなければ骨は折るが。
なんにせよ、競技用に魔力を抑えられているはずのブラッジャーがこんな真似をするはずがない。
魔力を抑えられていないブラッジャーが当たったら、人体にはどれだけの影響があるのだろうか。一撃で死ぬなんてそんな事はない、はずだ。はずだと信じたい。
再び落ちてきた前髪をぐしゃりと乱した。心臓がどくどくと煩い。考えがまとまらない。なぜ僕はこんなに、焦っている。

「私の出番ですね!まずはハリー、君だ」

陽気な声がそう言った。白い光が、視界の端を彩る。その光の下にあったハリーの腕が、まるでゴム細工のようにだらりとぶら下がっていた。

「あっ」

ロックハートの顔には間違いなく動揺が浮かんでいた。

「そう。まあ、時にはこんな事も起こりますね。でも、要するに骨は折れていない。それが肝心だ」
「もっと酷いぞ。骨が…」
「誰にだって間違いはある。次は大丈夫さ」

その先はとても口にできないとばかりに、オリバー・ウッドが呻いた。誰がどう見ても、ハリーの腕からは骨が抜け落ちている。
これが、仮にも教師のする事なのだろうか。しかも自信満々で。僕はあまりの事で、失望やら怒りやら何やらがすぐに言葉にならなかった。
というか次って何だ、次って。こいつはまだ何かやらかすつもりなのだろうか。怒りからくる熱で思考が浅くなる。僕の目が、いそいそと杖を構えるロックハートを捉えた。

「…指先一本でも動かしてみろ」

いつの間に僕は杖を取り出したんだろうか。他人事のようにそう思いながら、僕は呟いた。

「今度は僕が、貴方の頭蓋から直接脳みそを抜き取ってやる」

誰かが何か言っていたが、そんな事に構ってはいられなかった。
担架を出して、浮遊呪文をかけたケニーをその上に乗せる。背中への衝撃は容体を悪化させるかもしれないから、ほんの少し浮かせたまま。





マダム・ポンフリーの処置は素早く的確で、手遅れになるだとか、聖マンゴ魔法疾患病院へ搬送だなんていう非常事態に陥る事はなかった。
命に別状はない。別状はない、のだけれど。

「どれだけ身勝手で無謀な事をしたか分かってるんだろうね?」

こっちの気も知らないでへらへらと笑っていた顔をびきりと固まらせているケニーを見据えてそう唸ってみせる。

「う…い、いや、咄嗟で。つい」
「つい?ついで骨を折るのか。へえ、そう」

モゴモゴと言い訳を口にする彼の態度が腹立たしい。反省の色も無ければ後悔すらしていない。ついだとか、そういった言葉で誤魔化しても自己犠牲を行ったのに変わりはない。犠牲が名誉だと思ってるのかこいつは。

「君の杖は飾りらしいから、今ここでへし折ってあげようか」
「申し訳ありませんでした!」

ベッドに横たわったまま目を堅く閉じてそう叫んだケニーが痛みで顔を歪めたので、僅かに溜飲が下がる。痛みが教訓になればそれでいい。これで彼は、もう下手な無茶はしないだろう。
馬鹿を通り越して、呆れさえも通り越して、文句のつけようがない。本来とは真逆の意味で。僕らがどれだけ心配したのか、あいつは分かっているんだろうか。

「(…心配?)」

マダム・ポンフリーを呼びに行こうとしていた足をぴたりと止める。
心配していたのか。僕が、彼を?

「(まさか、)」

彼に対して一切の情は湧かないと思っていた。情を抱くつもりもなかった。そんな事はできない。してはいけない。
僕はいずれ彼を切り捨てるのかもしれないのだから。それなのに、無駄な思い入れをして何になる。そもそも、最初に彼を利用しようとしたのは、僕じゃないか。
そこまで考えて、脳髄がスッと冷えた。

そうだ。僕は彼を利用しているんだ。だったら彼がどうなろうと心配する必要なんて、無いじゃないか。
ふっきれた頭で、再び一歩を踏み出す。どうして僕が、彼が倒れたのを見てあんなにも動揺してしまったのか──その疑問に背を向けて、思考を止めた。

 だから僕は、




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