「「トリック・オア・トリート!」」
「「いたずらされたくなきゃ俺達にお菓子を差し出せ!!」」

突然暗くなった大広間の天井は四人が現れたと同時にまた突然明るくなり、派手な花火と爆竹の音が鼓膜をびりびりと震わせた。
オレンジ色のパンプキン頭を筆頭に、黒いフードを被った二人組と首無しの馬に乗った騎士が縦横無尽に大広間を駆け巡っている。話には聞いていたが、こんなにも派手なパフォーマンスは予想していなかった。花火の煙と、人魂の名残がふわふわと漂っている。
大広間をぼんやり白く曇らせている火薬の臭いに懐かしさを噛みしめながら、早くもデザートであるトライフルをよそった。

「懐かしいかの?」

ふと聞こえた声に隣を振り返る。相変わらず、真っ白い髭をたくわえた恩師が目を細めながらこちらを見ていた。なんだか照れくさくなって、視線を大広間の騒ぎの中に戻す。

「私たちは、あんな風でしたか」
「そうでしょうとも」

ダンブルドアとは反対側から厳しい声が耳を付いた。自分たちの時も寮監だったマクゴナガルは声の調子とは裏腹に、彼らを見つめる眼差しは優しい。自分たちの時もこんな感じだったのかと思うと、こそばゆい思いがした。

「貴方たちは四六時中あちこちで悪戯をして回っていましたね?リーマス」
「…えっと」
「あの頃の貴方は、監督生としての責務はあまり果たせていなかったように思いますが」

マクゴナガルのセリフが容赦なくブスブスと背中に突き刺さる。なんとなく笑って誤魔化すと、彼女は眉を下げながらふうと溜息を漏らした。

「フレッドとジョージ・ウィーズリーの双子はともかくとして。あの子たちが周りを巻き込んでこういったことをするのはこのハロウィーンの時だけですよ。ほら」

マクゴナガルがグリフィンドールのテーブルを駆け回っているかぼちゃ頭を指差したので、トライフルを掬っていた手を止めてそちらを見た。

「あの子──ケニー・アディントンなんて、まるでジェームズを見ているようですよ」

ちょうどターゲットにされていた新入生は、どうやらお菓子を持っていなかったらしい。かぼちゃ頭(あれにはかぼちゃ紳士という通称があるそうだ)はわざとらしく指を振ると、新入生に向かって杖を向けた。ポン、と音がして新入生の頭にねこの耳が生える。友達や上級生に笑われて顔を真っ赤にした新入生は、赤いローブでそれを隠してしまった。
…なるほど、マクゴナガルの言う通りだ。彼のセンスはジェームズに似たものがある。

「ケニー、か。あの子も生きていれば今頃あのテーブルにいたんでしょうね」
「リーマス…」

奇しくも、今視線の先にいる生徒と同じ名前を持っていた親友の息子。ケニー・ポッター。
クシャクシャの黒い髪とヘーゼルの瞳は父親そっくりで、彼の名前を決めるとき、シリウスは「もうジェームズ・ポッター・ジュニアでいいんじゃないのか」と言ってリリーに怒られていたことを思い出す。あれこれ考えた末に、彼の名前は僕が考えていた“ケニー”になったのだけれど。ジェームズには悪いが、あの子はきっとリリーの性格を受け継いだのだろう。自分なんかに懐いてくれた、優しい子供だった。
食事にありつくことにしたのか、かぼちゃ紳士はかぼちゃを脱いだ。少々ハネている髪は予想していたものではなく、リコリスの赤。急に現実に戻された気になった。
そうだ。あの子はもう、この世にはいない。

「…そうじゃの。“ケニー”なら、きっとグリフィンドールに選ばれていた事じゃろう。ハリーと同じように」

ダンブルドアが呟いた言葉に導かれるように、視線を横にずらしていく。そこには最後に見た時と寸分変わらない、親友の忘れ形見がいた。
クシャクシャの黒髪はジェームズの。グリーンの瞳はリリーのものだ。友人と楽しそうに話しながら、チョコレートケーキを頬張っているのが見えた。
生徒たちを見ていると、自分があそこにいたことを思い出す。他者に関わってはならない人狼の身でありながら、学校に通えたこと。かけがえのない友人にめぐり合えたこと。そのきっかけを作ってくれた恩師はまたしても自分に手を差し伸べてくれ、今こうして手に職を持つことが出来ている。
持っていたフォークをぎりしと音が鳴るほどに握りしめた。今日は、その友人たちと息子の命日でもある。

「…すみません。暗い雰囲気にしてしまいました」

がやがやと騒がしい大広間から、自分だけ遠ざかったような気がして。そのまま、皿の上にスプーンを置いた。



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