企画より


ケニーとレグルス・アディントン──私はこの二人に大きな恩がある。シリウスだってそうだろう。私も親友も、彼らへの感謝の気持ちを、何かの形で少しずつ、返していく事ができればと思っていた。
もちろんそれは、たかが誕生日プレゼントなんかで返せる大きさではない。それでも何もしないままではいられない。でも、だからこそ、ごく軽い気持ちで尋ねたつもりだったのに。

「俺が9月26日で、こいつが8月12日だよ」

聞き覚えのある日付に思わず息が詰まった。取り繕う事ができずに、動揺をそのまま声に出してしまったのを恥じた。でも、私達の動揺の理由を、彼らは知らない。現にケニーなんかは不思議そうな顔をしていたし、レグルスも私達の動揺を悟りながらも、何も言わないでいてくれた。
なんとかその場を繋いで、彼らを上の階へと促した。足音が消えていく。

「9月、26日…」

それは14年前を最後に、一度も祝う事ができずにいる誕生日。本当は、13年前も祝うチャンスがあった。だけど、私達は互いに向けた猜疑心から、世界の情勢を言い訳にして、ゴドリックの谷にあるあの家に集まる事は無かった。それを後悔しているのは私だけではないと思っている。

「ケニーと、一緒だ」

シリウスが重苦しく吐露する。もちろんケニーというのは、たった今ベッドに送り出した少年の事ではない。ケニー・ポッター。13年前に死んだ、ハリーの兄であった男の子の事だ。
気持ちの整理はつけたけれど、蓋をしたはずの思い出を揺さぶられる度にどうしようもなく思ってしまう。どうしてジェームズとリリー、ケニーは死んでしまったのか。なぜ、ハリーを一人残して逝ってしまったのか。記憶の中で、彼らはいつでも優しく微笑んでいるというのに。

「ケニーの事を、最初に知った時…」

シリウスがぼんやりと視線を泳がせながら呟くので、顔を上げた。

「ケニーが成長していたら、あんな風だったのかと思ったよ」
「シリウス…」
「ああ、もちろん、分かっている。所詮は夢物語さ」

使いこまれた古い椅子に座り直したシリウスは杖を取り出して、くるくると回した。なみなみとウィスキーが入ったグラスが二つ、空中から現れる。どうやら、長い話になりそうだ。なんとなくそう思って、シリウスの向かいに腰かけた。

「だが──彼がレグルス…フレッドやジョージと共に笑い合っているのを見ると、あの子にもああいう未来が待っていたはずなのにと、悔やまずにはいられない」
「分かるよ」

ケニーが生きていたら。ホグワーツの生徒たちの笑顔を見る度に、幾度となくそう考えた。
彼は、どんな顔でホグワーツの入学許可証を受け取っただろう。どの寮に組分けされていたんだろう。クィディッチはやっただろうか。得意科目は、苦手な科目は?いたずらはやっただろうか。友人はできるだろうか、いや、できるに違いない。こんな私にでさえ心を開いてくれるような、優しい子だった。
ふと思い出す。

「そういえば、去年。ケニーがジェームズに見えた事があったんだ」
「なに?」
「ホグワーツで、初めて五年生を教えた時の事さ」

頬が緩むのが自分でも分かった。ダンブルドアの誘いを受けてホグワーツに戻る事を、最初はひどく渋った──自分の抱える病気の事を考えれば、当たり前の躊躇だ。結果はやはり残念なものになったけれど、「教えてよかった」という気持ちまで消えるわけじゃない。グラスを呷って、息をついた。

「授業で決闘の練習をさせたら、彼は相手の生徒に黙らせ呪文を使われた。それまですごくいい勝負だったんだけど、勝敗は誰の目にもはっきりしていたと思うよ」

目を閉じながら、その時の情景を脳裏に思い描いていく。
相手は確か、ハッフルパフの生徒だった。ケニーが使う呪文は攻撃的な呪文ではなくて、滑らせたり縛り上げたり…まるで、いたずらに使うようなものばかり。そんなところも、私の思い出を刺激した。

「私も決闘は終わりだと思った。けど、彼は私を制して不敵に笑った──そして、相手の生徒を無言呪文で武装解除したんだ」
「無言呪文?5年生がか?」
「驚いただろう?でも、それだけじゃないんだ」

あの時、私を制した時の彼。掌をかざして、不敵に笑った、顔。

「あの顔、とてもジェームズに似てた。いたずらが大成功した時のジェームズにね」
「………」
「5年生が無言呪文を使いこなしているのも驚くべき事なんだけど、それよりも僕は、赤の他人であるはずの彼がジェームズに見えた事がひどく衝撃的だった」

でも、実際話しかけてみると、彼はジェームズのように実力をひけらかすような事はしなかった。一方でいたずらに傾倒気味だったり、お調子者な一面もあったりする。ジェームズに似ているようで似ていない──いや、あんな男がこの世に二人もいたら、ホグワーツはてんやわんやになっていただろう。そう思うと、少し笑えた。

「本当はね、授業が始まる前から目で追ってたんだ」
「ほう?」
「あの子と同じ名前で、同じ年齢だよ?君だったらどうだい?」
「まあ、目を付けるかな」

生きていたら、あの場にいたのかもしれないって。そう思うと、勝手に目が追いかけていた。いつから追いかけていたのか分からなくて恥ずかしいから、彼には絶対に言わないけどね。シリウスも笑った。

「でも、ああ…彼は、ケニーはジェームズとは違う」
「どうして?」
「ジェームズはあんな風に自分を謙遜したりしないし、遠慮も知らない」

何かを思い出してか、シリウスは笑いながら言った。

「ケニーはジェームズそっくりだった。ハリーと同じ…それ以上に、あいつによく似ていただろう」
「…そうだね」

何かを言いかけて、でも言葉を飲み込む。かつて幾度となくそうしてきたように。グラスを呷って、そして中身が空である事に気が付いた。




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