その乙女、世界を跨ぎ越える
ㅤ
心地の悪い夢を見ているようだった。
視界に広がるのは飾り気のない────でも質素な雰囲気はなく、寧ろ派手さがなくて品のある慎ましさ漂う部屋。……私は、こんな部屋で過ごしていない。もっとシンプルで女子力よりもオタク色に染まった部屋のはずだ。
「……見覚えがないんだけど──え?」
聞き覚えのある声が私の口から漏れる。自分の声ではないけれど、その声は確かに1日に数時間は聞いていた声。私がハマっている乙女ゲーム『 尾も白い恋をして 』に出てくる悪役令嬢の久遠寺零魔の声だ。一体全体、なんだって言うんだ。夢だと思って頬をつねってみる。……痛い。うん、痛い。
「ということは、夢じゃない……のか」