*ルビあり
◇◇◇◇◇◇◇
ドクハゼという国がある。
その国は小国で、戦力はなく、運だけで生き延びてきた国だった。
大国であるドクタケやタソガレドキからも眼中になく、調子に乗るなよという意味と、兵達の士気の調整のために、戦を軽く仕掛けられるほど見下されていた。
その国は運だけではなく、大国の気まぐれに命を繋いでいるような国でもあった。
だが、ある日を境に――その国は大国が警戒するほどに台頭した。
周辺国はその謎を解き明かすため、多くの忍びを送り込んだ。
――それは大国、タソガレドキも同じだった。
侵入に長けた黒鷲隊の小頭である押都が任務を言い渡され、ドクハゼ城に侵入することに成功した。
だが、問題なく侵入できたのは最初だけで、奥に続く度に難易度が上がる。
それはどこの国でも同じなのだが――その警戒レベルが異常なほど高いのが押都は気になった。
以前のドクハゼ城ならば、城主の寝室まで片手間で侵入することができるほど警備にまで力を入れることができなかった国だったのだ。
だが、逆にそれが相手にとって仇となっているのも気づいている。
(警固堅いのは当然だが……それが仇になったな…警戒が高い方へ進めば目的に辿り着く…これでは敵を道案内しているようなものだ)
やはり所詮は元々とはいえど弱小国か――そう嘲笑めいて笑いながら、押都は軽々と警備の忍びたちの目を掠めながら奥へ奥へ…警戒が高い方へと音もなく向かっていく。
最近、この国はいくつも戦を仕掛け、勝利してきた。
そのおかげで、金が潤い、忍びも多く雇っているらしい。
以前忍び込んだ時よりも警備兵も忍びも増えていた。
だが、所詮、寄せ集めの雑兵と言えど数の多さは強い武器になる。
目的に近づけば近づくほど敵の数も増えていき、動きにくくなっていく。
数を前にすれば、腕のいい忍びでも敵わない――それを今、体験することになるとは押都も思っていなかっただろう。
(しくじったな…やはり素人と言えど数は侮れないか…)
気づけば、いつの間にか追い詰められてしまっていた。
弱小国だからと油断したのか、それとも穴だらけの素人な警戒網は作戦だったのか。
押都にしては珍しく引き際を見誤った。
組頭からは撤退しても良しという命令を受けているので、撤退してもいいが、ここまで来たならいけるところまで行くかと奥へ奥へと進む。
ここまで大きな怪我を負っているわけでもなく、数では押されているものの忍びや護衛達に負ける気がしないからだろう。
実際、数には負けても実力では負けていない。
そうしている間に、押都はある部屋へと降り立った。
「―――!」
とりあえず追っ手を撒くため、押都は手近な部屋へと降り立った。
だが、そこは寝室だったらしく、御帳台が置かれていた。
気配は1つ。
帳が全て降ろされているということは、中にいる気配は眠りについているのだろう。
気配からして子供のようだが、身動きひとつしないということは深い眠りについているらしい。
一瞬肝を冷やしたが、眠っているのなら気を付けて退室すればいいだけの話だ。
それに、寝ているのなら、このまま追手を撒くまで部屋にいさせてもらうのもいいかもしれない。
どうせこれ以上深追いは無理なのだ。
多少の体力の回復くらいはさせてもらっても罰はあたらないだろう。
(しかし…たかが一国に御帳台とは…この国に皇室筋の娘を娶った話は聞かなかったが…)
ドクハゼ城の殿様といえば、国が栄えるのと同時に、女好きとしても有名になった。
今まで弱小国だったがゆえに、女を自由にすることも叶わなかった分、力を手に入れるのと同時に気も大きくなったのだろう。
三禁を守っている忍びとしては理解できない
性だが、男の
性として、殿の気持ちも分からなくはない。
女を侍らせるのは、男の夢のひとつだ。
だが、ドクハゼ城の殿様は正室や側室を多く迎え入れているが、その中に皇室の血筋を迎え入れたとは聞いていない。
しかし、確かに目の前にあるのは御帳台――基本、天皇や高位の公家、貴族の女性などが使用する、格式高い寝台だ。
一国の城主――それも、最近まで弱小国だった国の城主に用意されるには、違和感しかない品物である。
一瞬、皇族筋を隠しているのかと思ったが、流石に高貴な血筋を迎え入れたのなら、隠しきれるものではないだろう。
(もしや…)
ゴクリと押都は喉を鳴らす。
帳に手を伸ばしたその時―――いくつもの気配がこちらに向かっているのに気づき、押都は伸ばした手を降ろし振り返った。
(まずい)
御帳台に気を取られ、押都はまたしても引き際を逃したようだった。
御帳台を用意されるほどの人物ならば、定期的な巡回や、異変があれば優先的に警備がつくのも当然だ。
そのことが頭から抜けていた自分に、舌打ちする。
天井へ逃げようとしたその時―――押都の手を誰かが掴んだ。
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