SS


短い文章を思い出したものはまとめています。増えたり減ったりきまぐれです。主にSS名刺メーカーを打ち直しています。
【不安になる】
「だめだよ」
 後ろから、優美な言葉と共に目を塞がれて抱き寄せられた。背中にたくましい筋肉を感じて、ああこの人も男性なのだと意識させられる。
「君は私以外の男を見てはだめだ」
 普段、彼はこんなあからさまなことを言う人ではない。何か彼の中で不安になるようなことがあったのだろうか、とおそるおそる振り返れば、少し悲しそうな表情をしていた。
 憂鬱そうに、でもそんな自分が耐え難いと言わんばかりの複雑そうな顔。白い肌に映える碧い海色の髪、通った鼻筋、薄い唇、そして長い睫毛が伏せられることによっていっそ作り物のように感じられる。
 触れれば壊れるような、雪像のような完成された存在がそこにいる。
「他の男に目移りしてはいけないよ?だって、君は私を選んだのだから」
 彼はそう言いながら私に腕を回して強く抱きしめる。……でもそれは、ぬいぐるみを抱きしめる幼児の体勢に似ているじゃないか、と私は気が付いた。
「君は早い段階で私に見つかっていたもんね、それが君の運命だったんだ」
 軽快に、歌うように話していた言葉は一度だけ伏せられて「だからもう、二度と君を離しはしない。君と離れたりしない」と告げられる。
 ああ、そうか。この人はいつでもその恐怖と戦っていたのか、と気がつかされた。

「ミクリさん」
 その合図を聞くと、彼はほんの少し目を見開いてから、私の言葉を閉じる。

「いきなりお強請りだなんて、可愛いことをするね」
幾分か機嫌が良くなったらしい彼は、私の顎をくいと持ち上げて自分の目線の高さに誘導した。
「私は早い段階で、ミクリに見つけて貰ったことは、とてもありがたいと思ってるんです。だって貴方より好きになる人はいませんから」
 そう答えるだけで、さっきよりも翠玉に魅入られた。
 少し間を置いてから、ふっ、はっ、ははははっと笑われる。
「君には敵わないな」
「そうですか?」
 私も貴方には敵わない。私の目はいつだって、美しい貴方から離れることは出来ないのだから。

2021/03/12


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