眠り姫
やってしまった。
飛び起きた時にはもう時間は過ぎていた。
少しだけと思って横になったのが間違いだった。
自分が思っていた以上にどうやら疲れていたらしい。
軽い気持ちで19時を過ぎて晩御飯を一人で食べた後に私服のまま横になって、次に目が覚めた時にはすでに日付が変わっていた。
今日10月27日は私の彼氏様の誕生日である。
しかも記念すべき20歳の。
だから日付が変わったと同時にメールを送りたかった。
残念ながら彼氏様は良いのか悪いのか今晩は防衛任務が入っていた。
だからメールだけでもしたかったのだ。
直接はすぐに言えないから、メールだけでも一番に贈りたかった。
携帯の時間を見ると2:38、まだ向こうは任務中だろう。
今送るべきか、この際もう送らないでおくべきか。
きっともう隊の子達にはお祝いの言葉をもらっているんだろうな、と項垂れる。
今日ばかりは自分のしでかしたミスに落ち込んでしまった。
相手はさほど自分の誕生日の事を重要視していないかもしれない。
私の自己満足かもしれない。
けど、それでもお祝いをしたかった。
せっかく特別な関係にいるのに。
今日に向けてプレゼントは用意してあるし、ケーキだって大学の帰りに買うつもりだ。
完璧にお祝いをしたかったのに、スタートダッシュで転んでしまった。
しかし済んでしまったことをいつまでも悔やんでも仕方がない。
今からできることをしよう。
そう思って私は家の鍵を持って部屋を飛び出すのである。
「二宮さん、この後どうします?」
「…そうだな、作戦室に戻って仮眠を取ってから大学に行く」
だれも通らない本部基地までの通路に響く足音と話し声、私はしゃがんでいた体を起こして立ち上がる。
待ちに待った彼氏様の帰還らしい。
今日の防衛任務も無事に終わったようで何よりだ。
無いとは思っていたが、万が一にもないと思うが、緊急脱出していてもう作戦室に戻っていたらどうしようかと思っていたが、杞憂に終わったらしい。
隊の部下と3人で歩いている道をふさぐように立つ私に流石に気づいた彼氏様は少し眉間にしわを寄せてこちらを見ていた。
「匡貴…」
「なんだ」
「お誕生日おめでとう」
「…遅いぞ」
匡貴はため息をついて視線を斜め下にやった。
遅いって、今8時を過ぎたところですけど。
誕生日が始まってまだ8時間しか経っていないけど。
がっかりさせちゃったかなと様子を伺う。
「そんなこと言って、二宮さん誰にも先に祝われたくないからって無視してたじゃないですか〜」
後ろからひょっこり犬飼君が顔を出してそんなことを教えてくれた。
「やっとおれたちも言えますよ、二宮さん誕生日おめでとうございます」
「成人おめでとうございます」
辻くんも礼儀正しく深々とお辞儀をしながら匡貴に伝える。
匡貴は部下2人の言葉に「ああ」とクールに相槌を打った。
私は犬飼君の言葉を自分の中で理解するのに時間がかかった。
誰にも、
先に、
祝われたくない。
ということは、つまり。
「私が一番最初?」
「そうだ」
その一言で私はじわじわ嬉しさがこみあげてきた。
「嬉しい!おめでとう!」
自分の誕生日のように喜んでしまう。
きっとみんながこの何様俺様二宮様な彼氏に気を使ってくれたんだろう。
いつもなら空気の読めなさや、ふてぶてしさに苦言を呈することもあるが、それでも今日は嬉しさが勝った。
「犬飼君も、辻くんも、氷見ちゃんもありがとう!」
「いやいや、俺たちは何にも」
3人にお礼を言う。
絶対この3人が先に言っていると思っていたのだ。
「二宮さん日付が変わったと思ったら携帯をちらちら気にし出して、これは連絡を待ってるなってわかりました」
「はい、よかったです。来てもらえて」
『内部通話でさっきからいろんな人が二宮さんに話しかけようとしてるんですけど、全部拒否してるんですよ〜』
「お前ら、しゃべり過ぎだ」
私にあれこれ教えてくれる3人を匡貴が制す。
本人も少し気恥ずかしさを感じているのだろう。
さっきから目が合わない。
「ね、今からうちおいで!仮眠取るんならベッド使っていいから!その後大学一緒にいこ!」
「早朝からうるさいやつだな」
「そんなこと言って〜」
いつものようにそっけない態度を取られるが、それも含めてつい嬉しくなって、匡貴に抱き着く。
今から残り16時間、素敵な誕生日にして見せるから。
誕生日おめでとう!