ある日森の中
「あー、今日も静かだなあ…」
ドサッと音を立てて庭先の芝へ寝転ぶ。私の家は街から離れた森の中にあって毎日とても静か。でも静か過ぎてとても退屈です。誰でもいいから家に訪ねてきてくれないかな。そもそもこんな森の中まで遊びにくる人なんかいないだろうけど。だいぶ離れた所にスクラップ場があるくらいで何もないんだから当然だよね。
「………………ふあ」
ーガサガサ、ガンッ!
「っ!?」
静かすぎてあくびが出かけた所に突然の物音。何だ何だ?びっくりしてあくび飲み込んじゃったよ。まだガサガサ言っている音の方へ近づいてみる。裏庭の方からだ。うさぎでも入り込んだかな?…いや、この物音からして、もっと大きな生き物かもしれない。クマとかだったらどうしようと用心しつつ、そーっと足音を忍ばせて物音の主を確認してみる。
「えっ!?」
「!!誰と!?」
そこに居たのはクマではなく、クモだった。しかも普通の蜘蛛なんか比じゃないほどデカいんだけど何なのこれ!あまりにびっくりして声で気付かれたという驚きよりも何より、今この蜘蛛喋った?
「き、きゃあああー!馬鹿でっかい蜘蛛!喋った蜘蛛!」
「蜘蛛!?どこね!どこで見たとね!?」
「ぎゃああああ!あなた、あなたです!!」
大きな節足でザカザカザカと駈け寄られると余計に恐い!蜘蛛どこって言ってるけど、この蜘蛛、自分が蜘蛛だって自覚ないのか。あなたです、って言ったら凄くがっかりしたみたい。
「なんだボス達の事じゃなかとね…」
「…ぼす?…あ、あの、あなた蜘蛛じゃないんですか?」
最初は驚いたけど、意思疎通が取れることから少し落ち着いた目でよくよく見てみると確かに蜘蛛じゃない。そもそも形こそ昆虫みたいだけど、こんなに大きな蜘蛛がいるわけがないし、なにより表面が無機物…機械のように見える。不躾にジロジロ見過ぎたかな。文字通り固くて冷たそうな顔が、視線から逃げるように横を向いた。
「……アンタには関係ないばい」
そう言って、はああ〜と大きなため息を吐きながらへたり込む蜘蛛さん。小さく「エネルギーが足りないばい」って聞こえたけど、エネルギーって?この様子からしてもしかしてお腹でも空いてるのかな。まあ普通の蜘蛛と比べて巨大なこの体なら、いくら食べても中々満腹にはならなそうだけど。まさか人間は食べないと思うけど、あんまりお腹を空かせてるのも不憫で可哀想。
「あの〜、この森にはあなたが食べて満足するような大きな虫はいないですよ」
「…虫は食べんとよ」
「ま、まさか…!」
やっぱり肉食!?思わず一歩後退する。落ち着いて私、ゆっくり焦らずにーーー
「必要なのはエネルギーばい」
「えっ」
「凝縮されたエネルギーのボックスが必要ばい、アンタどこかで見たことなか?」
言いながら身振り手振りで四角を作ってみせる蜘蛛さん。な、なんだ、どうやら食べられる心配はないみたい。
話してみると温厚そうだし、勝手に恐がっちゃって申し訳ないな。でもエネルギー食べるってどういう事だろう。充電みたいなもの?電気を発する生き物がいるなら、電気を欲する生き物がいても不思議ではない…のか?
「そのエネルギーのボックスってのは見たことないけど、あれはどうですか?」
「あれ?なんね?」
「風車でおこす風力発電機です」
家の裏手にある大きな風車、これで家の電気をまかなってるんだから結構なエネルギーがあるはず。
「地球のそげなちっぽけな機械のエネルギーなんて腹の足しにもならんばい」
地球のというその言葉はどういうことなんだろう。そこに引っかかりを感じるけど
「でも蜘蛛さん、見るからにヘロヘロじゃないですか」
「う…」
「食べる物がないなら、食べないよりマシですよ!」
「うぐ…」
ここからどうやってエネルギーを摂取するのか分からないけど、ほらほら!と促す。渋々と言った様子で風車へ向かったのを見ると、どうやら食べてくれる気にはなったみたいで安心した。家の庭で倒れられても困っちゃうしね。
なにやら私にはよく分からない行動をしているのを観察していると、あまり時間もかからずに戻ってきた。食事が終わったのか、少し足取りがしっかりしてる感じがする。
「どうですか、少しは足しになりました?」
「…塵も積もれば山となる…訳にもいかんかったばい」
「あはは、なんとか大丈夫そうですね」
「………」
「どうかしましたか?」
あ!もしかしてお腹痛いとか!?蜘蛛さんが何とも言えない表情してるし変なも食べさせちゃったかな!?
「なしてお前さん…いや…何でもなか」
「?」
「もう行くばい」
「はい、お友達探すの頑張って下さいね」
少しでも元気になったみたいで良かった良かった。ガサガサと草をかき分けて庭から出ていく姿を見送る。ん?少し先で立ち止まってこっちをチラチラと振り返ってるけど、どうしたんだろう。何かモゴモゴ言おうとしてるみたい。耳を澄ます。
「…あ、ありが、とう」
ばいばいばい。蜘蛛さんはそう言うと森の中に消えていった。
(2015.12.24)