暖かい場所


「ベポ、今日はもう休め」
「アイアイ!キャプテン、おやすみ!」

今日の仕事も済んだ。もう良い時間だしキャプテンに挨拶して、そろそろ寝ようと思ってた。でも寝る前に、おれにだけはもう一つ仕事が残ってるって事を忘れてたんだ。キャプテンと別れてベッドへ潜る。廊下から走ってくる足音が聞こえてきたと思ったら、直ぐに扉が音を立てて開いた。

「ベーポッ!今日一緒に寝かせて!」
「なまえ…またなのかよー」
「だって今夜も寒いんだもん」

やっぱり来た。冷える夜は決まって、なまえがおれで暖を取りにくる。ただでさえ狭いベッドなのに2人も入ったら、もうぎゅうぎゅうだって言ってるのに聞かないんだ。これを追い返すのがおれの1日の締めなんだけど、いつも根負けしてここで寝かせる事になる。今に始まったことじゃないけど、最初に「一緒に寝よう」なんて言われた時は正直、別の意味に勘違いしかけたんだよな。まあどう見てもおれの事を暖房器具として扱ってたから、悲しい事に直ぐに勘違いって気付いたんだけど。

「なんか…期待してすみません…」
「なにが?」
「えっ別に、っておい!勝手に入るなよ!」
「あー、暖かーい」

ちょっと気をそらした隙にベッドに潜り込んでくるなまえ。入り込むだけならまだしも(いや、充分問題だけど)ぎゅっとくっ付くのはどうなんだよ。こうやって警戒心なく暖をとる姿を見ると複雑な気持ちになる。好かれるのはいい事だけど、いつもこうやってマスコット扱いされてる事に正直悩んでるんだからな!人間じゃないけど俺だってオスなのになあ。相手が人間の男…キャプテンとかだったらなまえの対応も違うのかな。そうだよ、おれもキャプテンみたく男らしくならなきゃダメだ!されるがままじゃなくて、もっとこう、強引に?そう考えたと同時に体が勝手に動いて、名前の肩をベッドに押し付けた。

「あれ?ベポどうしたの?」
「…………」
「おーい」
「えーっと、えーと…た、食べちまうぞ!」

…絶対に今のおれ、格好よくない。がおー、なんて間の抜けた声が聞こえてきそうな、ただのクマだ。だいたいこの「食べちまうぞ」も、この前寄った港の酒場で、ベロベロに酔ったシャチが女の子に言っていた文句だろ!おれの馬鹿!全然格好よくない…勢いでやってみたけど、この後どうするのが正解なんだ?大体、おれなまえの上に乗っちゃってるんだけど、これ大丈夫かな?重くないか?キャプテンならもっとスマートにこなせるんだろうな…そもそも男らしくってなんだ?うう、頭がごちゃごちゃしちゃってダメだ…

「あはは…!」

唐突な笑い声で思考が途切れ、顔を上げるとなまえが耐えられないって様子で笑ってる。「どうしたの、似合わない」なんて言われて、今更恥ずかしさがこみ上げてきた。似合わないのはおれが一番良くわかってるよ!なんだか馬鹿らしくなったから、押さえていた細い手首を離して枕に顔を埋める。キャプテンみたいになんてなれるわけない。

「もう!おれの気も知らないで!」
「あはは!ごめんごめん、暴れないでってば」
「おれは怒ってるんだからなー」
「悪かったよベポ、そんなに嫌がられてるとは思ってなくって」
「えっ」

そう言って起き上がったなまえはベッドを軽く直して立ち上がった。さっきまでベッドでわちゃわちゃしていたから、シーツがぐしゃぐしゃだ。

「居心地良くってついベポの所に来ちゃうんだー。私、自分の部屋に戻るね」

もう一度「ごめんね」と謝って戻ろうとする。え、えっ?いつもはなんだかんだ言いながらも、結局はここで寝る事になるのに今日はあっさり引き返すのか?その時ちょっと、いやだいぶ焦ってる自分に気が付いた。

「あの!なまえ!」
「なに?」
「あの、違うんだ…おれが言いたいのは、その…」

白い毛も鋭い爪もないおれの手とは全然違う、その手をそっと掴んで引き止める。こんな事言うのは情けなさすぎるけど、誤解されたままよりマシだ。

「おれ、なまえに怒ってるわけじゃないんだ…」
「ん、どういう事?」
「実は…キャプテンみたく男らしくなりたいって思って、それで」

段々小さくなる声で「上手くいかなくて、自分に怒ってました…」と続けて話す。うう、これじゃ本当にキャプテンとは程遠いよな。自己嫌悪に陥っていると小さな手がおれの手を握り返して、項垂れる顔を覗き込んだ。「そんなこと?」と言った顔は、びっくりする程の満面の笑みだ。

「ベポはベポでしょ!キャプテンみたいにならなくていいんだよ!」

嫌われちゃったかと思った、と笑うなまえに「嫌いなわけないだろ」と慌てて弁明する。そう言ったあと、自分の言葉に胸が詰まったような気分になった。あれ?おれってもしかしてなまえの事、好きなのか?キャプテン達の事も好きだけど、それとはまた違うって言うか…。そこまで考えた所で、再びベッドに暖かさが滑り込んできた。

「じゃあ今日も一緒に寝ていいよね」
「…なまえが嫌じゃなければ」
「嫌なわけないでしょ!」

私はベポ大好きだからね!の言葉にまた胸が詰まった。船長みたいにはなれないけど、俺はしばらくまだこのままでいいや。
おやすみ。

(2015.12.28)




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