今でもあなたが好きです


※夢主→十四松→彼女


子供の頃からずっと一緒だった六ツ子。その六ツ子の五男、松野十四松の事が私は好きだった。2人で馬鹿みたいに遊んでいる時間がずっと続くと思ってたけど、それも私の恋心と一緒に終わった。十四松に好きな人ができたからだ。

「まーだ落ち込んでんの〜?」
「…おそ松、なんでそう思うわけ」
「なまえ分かりやすいんだよなあ、空見て黄昏れちゃったりなんかしてさ」

お前、子供の頃から十四松の事大好きだっただろ、とズバリ言い当てられて、思わずジト目で相手を見た。茶化すわけでもない、神妙な顔をしたおそ松と目が合う。この男、普段は適当で馬鹿でちゃらんぽらんではあるが、時々こうやって「長男」の顔をすることがある。長い付き合いの私も何度か見た事はあって、こういう時は慰めてくれる時か、真面目に叱ってくれる時だった。おそ松は私の事も兄弟のように扱ってくれてる、今回は前者なのかな。

「好きだったけど、しょうがないね」
「素直じゃないよな、ほんと馬鹿」
「むっ!好きな人が出来たんじゃ、しょうがなくない?というか、いつも思ってたけどトト子ちゃんと扱い違くない?」
「お前な、トト子ちゃんと同じ土俵に立とうなんて百億年はえーよ」

わかってるけど。わかってるけど煮え切らないこの気持ちが、あんたに分かりますかっての。これ見よがしに溜め息をついて、仰向けに倒れこむ。慰めにきてくれたんじゃなかったのか!

「松野家六ツ子達は、十四松は、ずっとトト子ちゃんの事を追っかけてると思ってた」
「んー…トト子ちゃんは好きな人と言うより、マジで俺たちのアイドルなんだよなあ」

憧れであって現実的な人ではない、なんとなくそれは理解してる。だからこそ、他に女っ気のない十四松に対して安心しきってたのかもしれない。

「その点お前はガキの頃から俺たちと走り回って、女って言うより兄弟に近かったもんな〜」

覗き込んできたおそ松の顔は、いつものニヤニヤ顔に戻っていた。持続力がなく気分屋で、直ぐにコロコロと態度も表情も変わるのがこの男の特徴だ。「長男」の顔はどこにいってしまったのか。

「特に十四松相手じゃ、女として見ろってのは難しいだろ」
「……童貞燻らせてるくせに」
「はあー!?お前それ言っちゃう?お前だって俺たち童貞と同類だろうが!男と付き合ってるの見た事ねえぞ」
「うわサイテー、女の子にそういう事言うかな?だってそもそも、ずっと十四松が好きだったんだからこれは必然的でしょ!」
「開き直んなよ、お前が仕掛けた戦争だからな!」

「………」
「………」

まあこう言い合ってはいるけど、私達に悪気はない。もちろん喧嘩してるつもりも全くない。じゃれ合いみたいなものだ。おそ松とはずっとそんな関係で、周りは止めたり囃し立てたりが当たり前だった。でも今は2人だけで、話の内容もずっと隠してきた(と思い込んでた)好きな人の事だから、何だか気まずさも少しあった。

「…なまえさあ、十四松とヤッておけば良かったと思う?」
「うわサイテー」
「いやマジで」
「いや私もマジで言ってるからね」

早くも本日二回目の最低発言。少しの沈黙を破って出てきた言葉がこれだよ。気まずさを感じてたのは私だけだったのかもしれない。本当にこれだからおそ松は、と軽蔑の眼差しを送るも効果はない。脱童貞で真面目にwin-winじゃね?などとぬかす、こいつはとうとう頭がおかしくなったのだろうか?

「あのねえ、まず脱したいからって理由は道徳的になしでしょ」
「言い切るね〜」
「言い切るよ」

だってもしそんな事して十四松に“本当に好きな人”が出来た時、お互い後悔するんじゃない。そう言って軽く笑うと、おそ松が私の隣に倒れこんだ。2人して仰向けで並びながら、空を見上げる。

「俺はありだけど」
「言い切るね〜」
「俺だったら絶対にそんな後悔しないって言い切れるね」

自信満々で言う姿に、何それと問いかける。どこからそんな根拠ない自信が出てくるのか。

「つまりさ、始めての相手がその“本当に好きな人”なら後悔なんてしないだろ。」

この男の言いたい事が良くわからない。隣に寝転ぶ顔を伺っても表情は見えなかった。

「だから俺は“本当に好きな人”になってもらうまで待つよ」
「そんな人がいたの」
「そう、だからお前が十四松から目を逸らすまで待つって言ってんの」
「………えっ?」

何て言った?一瞬聞き間違いかと自分の耳を疑った。よっ、と反動を付けて起き上がるおそ松を見ると、いつものニタニタ顔でこちらを見下ろしている。

「俺、待つのは馴れてるんでね、もうかれこれ十年以上は待ってるから。」

やっと意味がわかったころにはおそ松は眠りについていた。私は目が覚めたらどんな顔をすればいいのか、そればかり頭に浮かんで、呑気に眠ることなんて出来なかった。

 

永遠に愛す唯一の人5題(2016.05.14)




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