世話焼き委員長
「おはようございまーす!」
風紀委員が門前に並び、風紀の乱れをチェックする中、時間ギリギリになってから校門に滑り込んできた生徒がいた。彼女はそのまま門を通過し校舎へ走り抜けて行こうとするも、すぐさま自分と校舎の間に大きな壁ができて仕方なく足をとめるはめとなる。
「あ、蟇郡先輩!おはようございます」
「おはようございますではない。また貴様か!」
「またって何ですか。遅刻はしてませんよ!」
先輩が解放してくれれば、と続けるこの生徒と風紀委員長のやりとりは最早恒例だった。いままで無星の生徒でこの蟇郡にここまでズカズカと物を言える人間はあの満艦飾と転校生くらいなものだったが、実はここにも一人いた。あまりの畏れ多さに周りの生徒もビクビクと様子を伺う。
「確かに遅刻はしていない。だが!毎日こうでは本能寺学園の規律が保たれん!何より皐月様に…」
「わー!分かりました分かりました!」
生徒会長の話となると目の前の事が見えなくなるのがこの風紀委員長だ。無星の彼女は蟇郡にバレないよう、ふう、と溜息をついた。皐月様を尊敬しているのは、この学園にいれば当たり前の事だ。この無星のこの生徒だって漏れなくそうだ、しかしそうと思っていても心のどこかがモヤモヤして気持ちが晴れなかった。
「明日はもっと早く登校します」
「それは昨日もその前も聞いた言葉だが」
小柄な彼女は山の様に大きな蟇郡の脇をすりぬけ(彼に比べれば誰だって小柄だが、比喩ではないかもしれない)いざ校舎へ向かおうとする。しかし「まて!」と一喝されたかと思うと、あっと言う間に頭を鷲掴みにされ、くるりと180度回転させられてしまった。向き合う形となった彼女の視界には、自分の背丈に合わせて片膝を付き屈んでいる蟇郡の姿が入ってくる。普段見下ろされているだけあってとても新鮮だと悠長に考えている頭の片隅で、捕まった事に内心焦っていた。
「な、なんですか?もう行かないとチャイムがー…」
「そうではない。タイぐらいちゃんと結んで行け」
斜めになっていた不恰好なタイをシュッ、と手早く結び直す。蟇郡の大きな手からは想像もできないほど丁寧だ。汚れた白い制服の膝を叩きながら立ち上がると、満足そうに「うむ」と頷いていた。
「明日は必ず余裕を持って登校しろ」
そう言われるや否や、彼女は返事をする間もなく向きを変え一目散に校舎へ駆け込んだ。走っているからか、やけに脈打つ胸を抑えて決心する。
(明日はもっと制服を着崩して登校しよう)
(2015.08.28)