兄さんは見た


ドタドタドタ…バンッ!

「おい!弟達!!」

「あ、おかえり〜。おそ松兄さん」
「…どうしたの、そんなに慌てて…」
「おいっ、呑気してる場合じゃねえぞ!トド松一松!」
「ちょっとちょっと、落ち着きなっておそ松兄さん」
「心を鎮めろよマイブラザー…」

「チョロ松カラ松!これが落ち着いていられるか!」

はあはあと切れる息を抑えてコタツの上へ立つ。母さんに見つかったら何だかんだと言われるだろうけど、今はそんな事気にしてる場合じゃねえ!

「お前ら!今日十四松が何してるかしってるか!?」
「何って…どうせ野球でしょ」
「この愚弟共が!!」
「ええ!?なんで罵倒されんの!?」

そろいも揃って野球野球と…お兄ちゃんはそんな弟に育てた覚えはない!憤っていると同じ顔の山から一本の腕が上がった。

「は〜い」
「はい、そこのトド松」
「まさかとは思うけど…女の子と遊んでたりして〜?」
「正解っ!」
「まあそんな訳ないよね、…って、えええ!?」

さすがトッティだな。悔しいが俺たち兄弟の中で一際脱童貞に近い男。そう、俺はこの事を知らせる為に急いで帰ってきたんだ。

「聞いて驚くなよ…十四松の奴、女の子と待ち合わせしてやがったんだ!」
「…どうせ見間違いじゃないの…」
「いいや、断言できる!なぜなら俺は後をつけたからな!あれはデートだ!」
「デ…!?お、おいおい、兄弟を尾行とはクールじゃないな…」
「おそ松兄さん、その話詳しく聞かせてよ!」

「ふふふ、もちろんだ。俺はこの話をする為にパチンコを切り上げてきたんだぜ」


* * *


あれは俺が丁度パチンコ屋から出た所だった。十四松が目の前を凄いスピードで通り過ぎて行ったんだ。

「うー寒、パチも負けたしクソ…ってうお!」
「わああああああああああああああい」
「…ありゃ十四松か?」

見てみるとあいつは駅前の広場で急停止して、すぐそばの女の子に話かけている。俺はまさか十四松がナンパか?なんて思って、面白そうだったから近づいて会話に聞き耳をたてた。

「なまえちゃんごめんねー、待ったー?」
「全然待ってないよ、大丈夫」
「うそ!手が真っ赤じゃーん」

そう言ってなまえちゃんとか言う女の子の手を握るのは間違いなく十四松。俺は目を疑ったよ、あれはトド松なんじゃねーのって思ったね。あいつが女の子と待ち合わせ、つまりデートしてるなんて信じられないだろ!?しかも相手の女の子も、泥塗れで野球をやるような子供じゃない。大学生くらいの普通に可愛い女の子なんだよ!まあまだこの時点では?十四松の彼女かどうかは確定ではないから?俺は気持ちを抑えたよ?でもな、

「なまえちゃん、手袋してこなかったのー?」
「うん、大丈夫だと思ったけど今日は結構寒いねえ」
「じゃあ僕の手袋貸してあげる!ほい!」
「えっそんな悪いよ!」
「僕寒くないからへーきへーき!」

十四松くんが冷えちゃう、僕はへーき。目の前でこのやり取りを何度も見せつけられて平常心でいられる童貞はいるか?ましてや普段からあいつを知っている兄弟なら尚更な。しばらくすると十四松がうんうん唸って何かを考え混んで言った。

「んー、あ!いい事思いついたー!なまえちゃん、ちょっと手袋つけて!」
「でも、」
「いいからいいからー!俺も手袋つけるから!」
「十四松くんも…?」

言われるままに手袋をはめる彼女。十四松の言っている意味が良くわからないみたいだったけど、まあそれは俺も同じだった。手袋を貸すけど自分もつける?意味わかんねえって思って次の行動を見てると、十四松は彼女と向かい合わせになった。

「なまえちゃん、手ぇだしてー」
「こう?」
「ぃよいしょー!!」

ズボッ!

「きゃあっ!」
「わーい!これで暖かいでしょー!」

俺は彼女の上げた声を聞いて、とうとうあいつが何かしでかしたのかと焦ったよ。良く見てみると十四松の奴、彼女の手袋の中に片手ずつ自分の手を突っ込んでんの。向かい合って両手ともお互いの手と手を重ねる形になってるわけだから、距離もめちゃくちゃ近い。正直おまえらそれ動きにくいだろ!って思ったけど彼女も十四松もニコニコしてるだけでさ、すっごい幸せそうなんだわ。あれを見て俺は思ったね、これ完全にデートだなって…


* * *


「と言うわけだ」
「えっ、終わり!?」
「…その後とかどうなったの…」
「マイブラザーとその彼女のディープなラブストーリーはないのか?」
「カラ松兄さん何でそういう言い方するわけ?イッタイよね〜」

俺の話が終わると同時にガヤガヤしだす弟達の言わんとする事はわかる。
デートって言い切るんだからこの後何かあるんだろ?って思ってんだよな。俺だってちょっと期待したけどさ、そこは十四松だぜ?結局あの後2人は、手を繋ぎながら公園に行ってキャッチボールだったよ。

(2015.11.30)




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