7月上旬


丹波先輩の一件があってから、今まで以上に純との間に距離を感じるようになった。学校ですれ違っても言葉を交わさない。メールを送っても返信がまちまち。同じ学校に通っているはずなのに遠い存在になってしまった。






「グラウンド、見に行ってみようかな…。」

5時間目の授業が終わり、長ったらしいホームルームの最中にふと言葉を漏らす。ここ最近の純の態度からなんとなくグラウンドから足が遠のいていたのだ。あと1週間もすれば夏の予選が始まってしまうため、練習している姿を見るなら最後のチャンスになる。

「よし、行こう。」

思い立ったが吉日と言うし、ここは腹を括って見に行ってしまおう。純に気付かれないように遠くの木陰から見ていればきっと大丈夫。高校生活最後の甲子園に向けて頑張る姿をこの目に焼き付けよう。





















「あれ?ゆり先輩!お疲れ様っす!これからどこ行くんすか?」
「あ、栄純だ、お疲れ!これからグラウンドに行くとこ。夏大が始まる前に野球部の練習風景見とこうと思ってさ!」
「おお!だったら変なプレーは見せらんないっすね!俺頑張ります!!」
「うん!頑張れ栄純!」

グラウンドへ向かうために外靴に履き替えて歩いていると栄純に声を掛けられた。いつの間にか1軍入りを果たした栄純。2年生にも投手はいるけど、丹波先輩が投げられない以上きっと降谷くんや栄純にも登板の可能性があるはず。栄純なら「投げられるチャンス!」ってポジティブに考えそうだけど。…でも、3年生にとっては最後の夏大なんだから、しっかりしてもらわないと。





「ねえ、栄純。」
「ん?なんすか?」
「もし…もし、夏大で登板する事があったら、3年生の分まで頑張ってね…。」

明るく伝えようと思っていたのに、なんだか声が暗くなってしまった。栄純の顔を見れば少しこわばった顔で戸惑うように目線を泳がせていた。

「あ、ご、ごめんね、栄純。困らせるつもりはなくて…。」
「先輩…。」
「大会前に、変なこと言ってごめん。」
「先輩。」
「ほんとごめん、さっきの事忘れて。」
「ゆり先輩っ!」

栄純の大きな声にハッとする。

「ゆり先輩、安心してつかぁーさい!俺が責任もって青道高校野球部を完全勝利に導いてみせます!!!この!!!沢村栄純が!!!ガーッハッハッハ!ガーッハッハッハ!」
「栄純…。」

私の方が年上なのに栄純に励まされてしまった…。なんだか心がくすぐったい。

「栄純、ありがと。」

栄純の優しさに触れて自然と笑顔になれた。ありがとう、栄純。青道高校野球部を、純を、甲子園まで導いて…!



















(澄み切った青空に、真っ白なボールが飛んでいく。)
(どこまでも、どこまでも、飛んでいく。)