8月中旬


部屋で寛いでいたら携帯が鳴り、メールを開くと「明日暇か?」とだけ書かれていた。相変わらずぶっきら棒だなあ、と思いながら、私も簡潔に「ひま」とだけ書いて送り返す。するとまた携帯が鳴って、確認すれば「10時に○○駅集合」とだけ書かれていた。



「とりあえず、指定された時間に来たけど…。」

相変わらずの夏の暑さに嫌気が差しながらも、集合時間より5分ほど早く駅に到着して呼び出した人物を探す。っと、あの電柱のところかな…。俯いてるから顔は分からないが、見慣れたシルエットを見つけて近づいた。

「おまたせ。」
「…っ、おう。」

久しぶりに合うからちょっと緊張…なんて、柄にもなく乙女っぽいことを思いながら声をかけた。目の前にいる男ーー純は、突然現れた私にびっくりしたのか少し目を見開いていて、素っ頓狂な声で返事がかえってくる。どうしたの?と首を傾げれば、ハッと我に返ったのか、行くぞ、とだけ言って歩き出した。

「ちょ、どこ行くの?私何も聞いてない…!」
「お前を呼び出して出掛けるってなったら、コレ以外ねーだろ。」

そう言ってひらり、と長方形の紙を差し出された。そこには今話題の少女漫画のタイトルが書かれていて、そういえばついこの間実写映画が公開されたのを思い出す。

「なるほど。…ふふっ、純は一人で見に行くの恥ずかしかったんだ?」
「っるせえ!別に、か、関係ねーだろっ!」
「あははっ、照れてるー!」
「照れてねえよっ!うっせ、黙れっ!」

顔を真っ赤にして目を吊り上げながら怒鳴り始める純。ああ、いつもの純だなあ、なんて思いながら、私も普段通り純をからかう。そうすると、もっと真っ赤になって声を張り上げ始めた。本当に単純で、面白い。

「はいはーい。大声出したら周りの迷惑ですよー!」
「っ、てめえのせいだろうがっ!」
「あんまり煩いとお姉さんに言っちゃうからねー!」
「あっ、てめっ、卑怯だぞっ!!!」

正直夏の間は、甲子園のテレビ中継を見るんだと思ってた。だから、もうすぐベスト8が出揃う大切な場面を、純が見ないという選択をしたことに驚いた。悔しさから立ち直れていないのか、それとももう野球に興味が無くなったのか…。どちらにしても野球から距離を置いた純を見るのは初めてだった。

なんて、お節介にもほどがあるかな…。純が決めたことだから、それでいい。兎に角今は、映画を見たいという純に付き合ってあげようじゃないか!

「ほらじゅーん!早くー!」
「…わあーったよ。」

しぶしぶという感じで静かになった純と一緒に映画館に向かって歩き出す。いつにも増してつっけんどんな態度なのは、きっと純も私と会うことに緊張のような何かを感じていたからだと思ってそのままにしておいた。

カンカン照りの太陽の下を歩いて映画館に入れば、火照った体を冷ますように冷気が私達を包んだ。思わず「すずしー」と零せば、それは純も一緒だったようで二人で顔を見合わせる。何だかそれが面白くて、くすくすと笑いあった。

「ポップコーンでも買いに行くか。」
「うん。あと、オレンジジュース飲みたい。」
「しょうがねえ、今日は俺が誘ったし奢ってやるよ。」
「え、本当?やったー!じゃあオレンジジュースじゃなくてゴ○バのショコ○キサーにするー!」
「は!?そんな高いもん奢るわけねーだろっ!オレンジュースだ!」
「えー。」
「えー、じゃねえよ!調子のんな!」
「純のケチー。」
「うっせ、バーカ。言ってろ。」

最終的に結構なマジトーンで返されてしまって、しょうがなくオレンジジュースで妥協した。純はと言えば私を置き去りにしてスタスタとレジへ並び、ポップコーンと飲み物を買っている。映画の内容どんな感じなんだろう、と物思いに耽っていると、目の前にずいっと茶色いパッケージの飲み物を差し出された。

「え、これ…。」
「飲みたかったんだろ。…今日は、特別だ。」

そっぽを向いて、照れくさそうに飲み物を差し出す純。多分これは、純なりの仲直りのシルシだ。私はひんやりとしたそれを手にとって、わざと純に目線を合わせる。

「ふふ、ありがと!純大好きー!」

うっ、と恥ずかしそうに驚いた純が可愛くて、ついでに脇腹もつっついたら盛大に怒られた。…それも、真っ赤にした顔を隠すためのカモフラージュだって知ってるけどね。

結局、映画を見終われば純は大興奮で私に話しかけてきた。どのシーンが良かったとか、ヒロイン役の子の演技が良かったとか、兎に角さっきとは別人レベルで一生懸命楽しそうに話している。その姿が子供みたいに可愛くて、私も純に乗っかってがっつり映画の話に花を咲かせた。





(ちょっとは気晴らしになったら良いな)
(なんて、ただの私のお節介)