4月上旬


その日はとても暑かった。
4月だというのに太陽はカンカン照りで、まるで雪だるまのように溶けてしまうのではないかと錯覚してしまうほどの猛烈な暑さだった。目の前にある桜の木にはピンク色の花が咲いている。風が吹けば花びらがひらひらと、踊るように散っていく。

さて、そんな事はどうでも良く、私にはこれから待ち受ける試練と戦う準備をしなくてはならない。

「なんでこうなるかなー…。」

目の前に貼り出された大きな紙には、1学年分の名前がずらりと書かれている。新学年が始まる今日、クラス替えという一大イベントに胸を踊らせながら登校してきた私、佐原ゆりは自分の名前を見つけるや否や落胆することとなった。そう、彼らの名前を見つけてしまったのだ。我が高校が誇る野球部の名前だ。しかも、わりと厄介事を引き起こしてくれちゃう人たちのを。新学期そうそう運がない。1年生の夏休みまでは良かった。しかし、冬休みに入るころには、あいつらは既に厄介事を引き連れてくるやつとなっていた。
ちょうど、今の様に。

「おう!佐原!お前一緒のクラスなんだってなー!俺と一緒のクラスとかありがたく思えよー!ヒャッハー!」

彼こそが厄介事の元凶の1人、いつもヒャッハー!と言っているヒャッハー星人こと倉持洋一だ。彼は、まあ良いやつと言えば良いやつだが、あえて意地悪をしてきたりするのが本当に面倒くさい。そしてすぐ蹴ってくる!

「おいおい倉持ー。またゆりちゃん引いてるぞ?可哀想に。ゆりちゃん同じクラスなんだってな!よろしくな!」

そして彼は厄介事のもう1人の元凶、御幸一也。私は彼ほど性格の悪い人間に出会ったことがない。羊の皮をかぶった狼とはまさにこいつの事。周りの女の子達からはイケメンと人気があるが、私は是非ともこいつの本性がバレて皆から嫌な視線を送られれば良いと思う。

「あーうん、まあ…一年間よろしく。」
「なんだなんだー?やる気あんのかよお前。どうせお前も友達いないんだから俺らと仲良くする以外ねーだろー?」
「お前もってなんだよ、倉持。友達いないのはお前だろ。それよりゆりちゃん。うるさいこいつは置いといて教室に行こうぜ?早く行かないと遅刻になっちまう!」
「うん、あー、わかった…行こっか…。」

人の気も知らず、こいつらは私の周りで騒ぎまくる。それはもう女子から睨まれるくらいにはね。こいつらに絡まれる様になってからは、私と彼らとの関係を知らない女子からのあたりが強い。ま、そんなこと気にする私じゃないのが唯一の救いかな。

「おーい!佐原ー!置いてっちまうぞー!早くしろよー!」
「はいはいわかったから大声で呼ばないで!ただでさえ目立つのにこれ以上目立たせないでよ!」
「まあまあ、ゆりちゃんそんなこと言わず。怒ると可愛い顔が台無しだぞ?」
「御幸も!周り煽るのやめてよ!」

ああ、もう…これ以上野球部ファンの女子に絡まれたらどうするのよ!くっそ!一度痛い目みればいいんだばーか!


かくして、私の最悪な1年間が幕を開けたのだった。



(ほら行くぞー!ダッシュだ!ダッシュー!)
(別に走らなくて良いぞ。倉持が適当に言ってるだけだから。)
(あとで言いつけてやる…。)