4月中旬



『お前今日、練習見に来いよ。』

あの人にそう言われて久し振りに野球部の練習を見に行くことにした。野球部はあまり好きじゃない。でも、あの人の頑張ってる姿を見るのは昔から好きだった。

これが恋だとしたら、もう少し高校生らしい生活を送れるのかな。

まあ無理と言うか、この気持ちが恋ではないこと位百も承知なので大人しく見ることに集中する。

「(…あ、また叫んでる。)」

ボールを投げる度に何かを叫ぶ癖。OBの人たちからは「吼えろー!」とか言われてるし。個人的には、あんなに大きな声を長時間出して喉が枯れないか心配になる。
ぼんやりと練習姿を見ていると後ろから声をかけられた。

「あれ、お前もしかして佐原か?どうしたんだよこんな所で。」
「あ、くらもち…。」

練習中なのに球場の外にいる倉持を疑問に思い、ぐるぐる考えこんでしまっていたらしい。知らぬ間に固まっていたらしく、また声を掛けられる。

「おいおいなに固まってんだよ。寝てんのか?」
「え、あ、起きてるけど。倉持こそこんなとこでなにやってるの?練習は?」
「俺の質問は無視かよ!俺はちょっとな。砂が目に入っちまって洗いに行ってたんだよ。」
「へー。まあ今日風があるから砂埃飛んでるもんね。」
「ったく、外の部活はこういうのが嫌になるぜ。…んで、お前はなんでここにいるんだよ。」
「あー、野球部に知り合いがいてさ。今日見に来いって言われたから来ただけだよ。」
「お前野球部に知り合いいたのかよ!どいつだ?!まさか御幸じゃねーだろうな!」
「内緒。でも御幸じゃない。」

そう、内緒なのである。あの人との約束だし。本人曰く「バレたらからかわれる」のだそうだ。それにしても倉持がうるさい。さっきから「はっ?!」とか「教えろ!」の繰り返し。てか、私と話し始めてから5分は経っている。シャツの袖をあげ腕時計を前に出して倉持を促す。

「それよりさー、練習戻らなくて良いの?」
「え、あ、やっべ!」

腕時計で時間を確認するや否や倉持の顔が真っ青になった。急いでグラウンドへ戻ろうとして、一度振り返る。

「と、取り敢えず明日聞かせろよ!!!言わなかったら御幸に言ってやる!!!」
「はぁ?!ちょっと倉持!!!」
「じゃあなー!」

一方的に会話を切られた…。せっかく人が親切で時間を教えてあげたのに。…まあいいか。それよりも、明日どうやって倉持を切り抜けるか…。大人しくあの人に相談するかな。何かしらの対処はとってくれるだろう!最終的には吼えそうな気がするのは気づかなかったことにしよう…。

「今日も空が青いなー。」

4月半ばだというのに夏の暑さを彷彿とさせる気温。パタパタとシャツを動かして風を起こす。グラウンドからは大きな声が継続的に聞こえてくる。

球児は今日も元気だ。





(だああああ!!くそおおおおお!!!)
(…なんか1人だけ掛け声が違うんだけど。)