5月中旬


「おしおしおーし!!!」

帰宅途中、野球場の横を通ったら面白い声が聞こえた。ただの部活でこんなに大きな声を出している子は珍しい。ふと立ち止まって、野球場を見る。マウンドに立つ彼はとても大きく見えた。そして、アウトを取る度に大きな声を上げている。まるで純みたいだと思った。これが、私と彼の出会い。


















「えーじゅん!」
「あ、ゆり先輩!!おはようございやすっ!!!」
「相変わらず元気だねー、えーじゅんは!元気が取り柄か!」
「いやいや、いつも通りっすよ!それより何かありやした?先輩が1年の教室に来るなんて珍しいっすね!」

彼こと沢村栄純くんは、今年から青道高校に入学した1年生。純が言ってた面白い1年生でもある。今も栄純の名前を呼んだら小型犬の様にタタタッと走ってきて私に挨拶をしてきた。私には栄純の背後に振りちぎれんばかりに左右に揺れる尻尾が見える。

「御幸からの伝言!栄純に会いたいから私が代わりに伝えに来た!」
「せ、せんぱーい!!!俺も先輩に会えて嬉しいっすよー!いっそ先輩がキャッチャーなら良かったのに!!」
「栄純は本当に御幸の事嫌いだよねー!」
「もちろんっす!まあ、キャッチャーとしては尊敬しなくも無いですけど…人として最低な奴っす!!」
「あははっ!それは言えてる!!」
「何が言えてるんだ?ゆりちゃんよ。」
「えっ…。」
「ゲッ!御幸一也!!」
「だーかーらー、俺センパイ。分かる?あ、バカには分かんねーか!」
「おいバカっていうなよ!お前なんか先輩じゃねー!」

うおーびっくりした!いきなり後ろから声かけて来るんだもん!しかもタイミング完璧!なんなんだこいつは!…もしかして、聞いてた?

「それより、伝言こいつに伝えた?」
「え、まだ。」
「おいおい、何のための代わりだよ。伝えなかったら意味ねーだろ。」
「うっさいなー!これから伝えようと思ってたの!」
「そ、そーだぞ!ゆり先輩をいじめんな!!」
「はいはい、バカは黙ってよーね。」
「だーかーらー!!俺はバカじゃねー!!!」
「誰もお前なんて言ってないだろー。それとも何、お前ってバカなの?」
「ーッ!!!御幸一也ああああ!!!!」
「やーい怒ったー!」
「…はぁ。ほら!御幸も栄純もそこまで!子供みたいなことしないの!」
「す、すいやせん…。」

これじゃどっちが年上なのか分かんないよ。2人を止めたは良いけど、お互い目ではまだ言い合いの続きしてるし。まあ、栄純が完全に遊ばれてるけどね。

「てか、そろそろ戻んなきゃ授業間に合わないよ?」
「え、あーマジだ。っしゃ、戻っか。」
「うん。じゃあ、栄純またね!」
「はい!ゆり先輩!……と、御幸一也。」
「おい嫌そうな顔すんのやめろ。そんな事してっと部活のメニュー増やすかんな!」
「御幸先輩!お疲れさまっした!!!」
「なんという掌返し…。」









(…なあ、なんか忘れてね?)
(え、そうかな?なんだろ…。)
((ーッ伝言!!!))