5月下旬


それは、本当に奇跡のような出来事。


ええ、本当に。























「あ、ゆりせんぱーい!」
「お!えーじゅんだ!朝から会えるなんてラッキーだ!」
「ですよね!先輩おはようございまっす!」
「うん、おはよー!」

朝から元気いっぱいに挨拶する栄純。朝練終わりとは思えない元気さにちょっとびっくりする。

「栄純くん、知り合い?」
「おう春っち!こちらはゆり先輩だ!」
「初めまして、小湊春市です!よろしくお願いします!」
「春っちくん初めましてー!佐原ゆりです!よろしくね!髪の毛の色、綺麗だねー。…触ってもいい?」
「え、あ、…はい。ピンクって珍しいですよね。」

前髪で顔の半分が隠されて見えないけど、私に髪の毛を触られて照れているのか、見える肌がほんのり赤く染まっている。なんと言うかわいさ!

「春っちくんはピンクの髪の毛嫌い?」

ふと、疑問に思ったことを口にする。地毛でピンクという子は早々いないだろう。故に仲間はずれにされたりすることが多々ある。春っちくんの言葉には、そういう意味合いがありそうな気がした。

「いえ、兄貴と同じ髪色なので大好きです!それに、ピンクだと目立つので見つけられやすいです!」
「そっか!お兄さんと同じ色なのかー!いいねえ!兄弟愛!」
「ちょっと先輩!春っちとばっか話してないで、俺とも話してくださいよー!!」
「えー。えーじゅんはいつも話してるじゃん。今日は春っちくんとお話したいのー。」
「な、な、なんですってー!?春っち!!!俺のゆり先輩だぞ!!勝手にとるなよ!!!」
「えぇっ!?とってなんかないよっ!」

ありゃりゃ。私があまりにも春っちくんを構うから栄純が怒ってしまった。別に栄純の物になったつもりはないけども、ここは栄純を甘えさせてあげるか。

「えーじゅん、おいで。」
「な、なんすか…。」
「いーから、ほら。」
「わ、わかったすよー。」

そういって春っちくんの側を離れて私に近寄ってくる。なんとまあ、素直で可愛い。私は思わず栄純の頭を撫でる。癖っ毛でふわふわしていて少し固めの髪質で、手のひらに毛先がちくちくささる。それすらも愛おしくてグシャグシャと頭をかき混ぜる。

「ちょっ、先輩!!!髪の毛!グシャグシャ!」
「あははっ、ははっ!えーじゅん髪の毛やばい!」
「先輩それ以上はダメっすからー!!!」

ダメとかヤメロとか言う割りに手を引き離そうとしない栄純。やっぱり可愛い!

「そろそろ行かないと、遅刻するよ。」
「あ、降谷くん。…っと、そうだね。ゆり先輩、そろそろ行かないと間に合わなくなるので…。」
「おっけー!じゃあね、えーじゅん!」
「っ、先輩のバカ!!!髪の毛直す時間ないじゃねーすか!!」
「そのままでも可愛いからいいよ!」
「よくねーっすから!次会ったら先輩にもやってやるっすから!!!」
「はいはーいっ!じゃねー!」
「さようなら!」
「昼休み覚悟しとくっすよ!!!」

あれ、そう言えば最後春っちくんに話しかけてた彼…降谷、くん?どっかで見たことある気がするんだよね…。どこだろ。







(あれ、おーい!ゆりちゃーん!)
(あ、御幸!おはよー!)
(おう、おはよ。こんな時間にこんなとこで何してるんだ?)
(えーじゅんと遊んで春っちくんの髪の毛触らせてもらった!)
(へぇ、小湊が…。)
(あと降谷くんって子にあった!彼どっかで見たことある気がする…。)
(まあ、あいつも野球部だからな)
(そうじゃなくて!んーなんだっけー…んー…)
(あ、わかった!あいつから貰った写メだ!)