6月上旬


「ゆり、こんな所で何をしているんだ?」
「あ、哲さん!お久しぶりです!」
「ああ、久しぶりだな。それで、お前は何をしているんだ?」
「純を探してるんです!」
「純か…。教室にはいなかったのか?」
「はい、見当たらなくて…。」

今日はどうしても純に用事がある。だから思い切って3年生の教室まで来たものの、お目当ての純はどこかえ出かけてしまったらしい。どうしようかと困っていたら、後ろから哲さんに声を掛けられた。哲さんは唯一私と純が幼馴染だということを知っている。

「携帯で連絡を取ってみてはどうだ?その方が早く見つかるんじゃないか?」
「それは、そうなんですけど…恥ずかしながら、今日は家に携帯を忘れてしまって…。」

そう。携帯で連絡を取れば、わざわざ教室にくる必要もない。しかし、運悪く今日に限って携帯を家に忘れてしまったのだ。学校にいる間で部活が始まる前までに純に話さなければならない。だからこうしてこの場所に来たのである。

「うむ、それは災難だったな。」
「はい…。」
「俺も携帯は持っていないから純に連絡は取れないしな。声を掛けたのに役に立てずすまん。」
「い、いえ!哲さんは気にしないでください!元はと言えば携帯を忘れた私が悪いんですし!」
「…よし、昼休みが終わるまであと10分ある。手分けして探そう。」
「えぇっ!?いやいやいや!そんなの悪いですよ!!」
「俺も授業までは暇だ。2人で探した方が効率が良いだろう。」
「でも、哲さん部活前に疲れちゃいます!」
「大丈夫だ。こんな事、部活に比べたらたいしたことない。…ほら、いくぞ。」
「ちょ、哲さんっ!」

そう言って哲さんは私の腕を掴み、少し早めのスピードで歩き始めた。手分けして、と言っていたのに手を掴まれているため一緒に行動せざるをえない状況。こんなところ誰かに見られたら大変!特に野球部2年の友達いない組!

「て、哲さん!あの、手を掴まれてたら手分けして探せません…!」
「…っ、すまない。無意識にお前の腕を掴んでいたようだ。」
「いえ、謝まらないでください。哲さんは悪いことしてないですから。」
「そうか、ありがとう。それで、どうやって純を探そうか。無闇に歩いても時間が過ぎるだけだ。どこか純が行きそうな場所に心当たりはあるか?」

純の行きそうな場所…。学校では極力会わないようにしてたから、いざ学校での純を聞かれても分からない。同じ学校で過ごしているというのに、純を追ってこの学校にきたというのに、純を知らない。

「ゆり、大丈夫か?」
「…へ?何がですか?」
「なんというか、悲しそうな顔をしている。」

悲しそう。それは何に対する感情なのだろうか。今の一瞬で純がとても遠い存在のように感じた。私にとっての純は何なのだろう…。





「おーい、ゆり!哲!」





結局教室の近くで立ち止まっていた私たちは、帰ってきた純に先に見つけられ後ろから声をかけられた。

「純、どこへ行っていた?ゆりが探していたぞ。」
「はっ?なんだよ、用があったなら連絡しろよな。」
「ご、ごめん、携帯家に忘れちゃってさ!」
「なんだそれ。つーか用ってなんだったんだ?もうすぐチャイム鳴っちまうから、長くなるようなら次の休み時間にでも話そーぜ。」
「えっ、あー…うん、そうする。またね、純!哲さんもありがとうございました!」
「おう、気をつけて帰れよ。」
「おめーは親父か!」

なんとなく、なんとなくだけど感じた違和感。純と一緒にいる違和感。早足で2人のもとを去る。段々と遠くなる2人の声は楽しそうで、本当なら自分もそこにいたはずなのに、今はその輪に入れない。



(ずっと一緒に居たのに知らない。)
(変わらないと思っていたのに。)
(私の知らない純を見ると、胸が苦しい。)