君のとなりで


「ねえ、明日は何の日?」
『あー明日?明日はー…何かの日だったか?記念日とかか?』
「もー洋ちゃんてばー。まあいいや!明日、楽しみにしててね!」
『?おう。…んじゃ切るな。』
「うん。ばいばい。」

ガチャッ ツー ツー

さっきまで洋ちゃんの声が聞こえていた携帯も、今は機械音が鳴るだけになっていた。今日は5月16日。明日は5月17日。5月17日といえば洋ちゃんの誕生日。本人はとぼけるているのか本当に忘れてしまっているのか微妙な態度だったが、兎に角明日は洋ちゃんにお祝いをしてあげたい!

「そうは言っても、私が住んでるの千葉だしなあ…。」

そう、ここは千葉県。私と洋ちゃんは所謂遠距離恋愛と言うものである。と言っても洋ちゃんがいるのは東京だから、会いに行こうと思えば十分に行ける距離。ただ、洋ちゃんには「絶対に来るな」と言われている。というのも、洋ちゃん曰く彼女というだけでからかわれるのだそうだ。

「でもさー、誕生日くらい一緒に居たいよねー。月に1回会えるかどうかな状態だしさー。」

洋ちゃんの通う青道高校野球部は甲子園にも行ったことのある強豪校。そんな中でレギュラーを勝ち取るため、日々の鍛錬が欠かせないのだそうだ。その結果、オフの日も自主練習する事が多いらしくなかなか会えない。月に1度会えればいい方だ。

「前回あったのはー…3月末かあ。もう1ヶ月以上会ってない!」

机の上に置いてあるカレンダーを捲りながら机に突っ伏する。洋ちゃんが恋しい。付き合って初めての誕生日だし、やっぱり直接会ってお祝いしたい。

「…よし、行くしかない。うん、行こう!」

思い立ったら即行動!会えないなら会いに行けばいい!例え洋ちゃんが嫌がっても、行かなかったことに後悔するよりはマシ!早く明日になれ!




















「おー倉持ー!お前今日誕生日じゃね?」
「御幸ー知ってんならプレゼントよこしやがれ!ヒャハハ!」
「しゃーねーなージュース一本だかんな!」
「なんだよケチくせーなー!」
「はっはっはー!貰えるだけ有難いと思え!」

御幸に言われて気付いた。今日、5月17日は俺の誕生日だ。昨日ゆりが言ってたのはこれの事か。あー、くっそ。折角彼女出来たってのに誕生日も練習かよ…。あいつ、今頃何してんだろ。























『……次は○○、○○です。お降りの方はお忘れ物にご注意ください。』
「(もうすぐ、洋ちゃんに会える!)」

青道高校の最寄り駅に電車が到着した。今の時間は19時半。きっと練習も終わって今は…何してるんだろ?ご飯の時間と被ってたら会えない!?あー!ちゃんと聞いてくればよかった!
と、取り敢えず、メールしてみよ。

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TO:洋ちゃん
本文:今何してる?
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ピピピッピピピッ


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FROM:洋ちゃん
本文:めし
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あ、デスヨネー。どうしよっかなー。取り敢えず青道まで行ってから考えよう。その間に食べ終わってるかもだし!
電気は付いてるけど少し暗い道を歩く。私も青道に入ってたらこの道を洋ちゃんと歩けたのかな?両親が反対して地元の高校に進学したけど、やっぱ学校に彼氏がいる高校生活を送ってみたかったな。

ピピピッピピピッ

「うおっメール?!」

いきなりなるからびっくりしたー!


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FROM:洋ちゃん
本文:飯終わった。
お前は何してんの?
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「ふふっ。今青道高校の前にいるっていったら洋ちゃんどんな顔するんだろう。」


プルルルルル プルルルルル

『もしもし?』
「あ、洋ちゃん?ごめんね急に電話して。」
『あー…いや、平気。それよりどうした?』
「んー、いやね、洋ちゃん元気かなーと思って!」
『ヒャハハ!なんだそれ!お前昨日も電話したじゃねーか!…おい、なんだよ!やめろよ!』
「?洋ちゃん?どしたの?」
『いや、ちょっとチームメイトの奴がな。無理矢理携帯取ろうとしてきて…って、マジやめろ!おい御幸ふざけんな!』
『はーいこんばんはー!倉持の友達で御幸です!君は倉持の彼女さん?』
「え、あ、こんばんは…初めまして佐原ゆり、です…。」
『ゆりちゃんっていうのかー!いやー可愛い名前だね!どう?倉持やめて俺にしない?』
『おい御幸!!それ以上はマジで許さねえぞ!!』
『おーおー倉持くん今日はなんだかイライラしてるのかなー?』
『て、てめえ…』
「あ、あのっ!あの…電話、切りますね!さよなら!」
『え、おい!ゆり!』

ブチッ ツーツーツー

「…せっかく、お祝いしようと思ったのに。」

私、何やってるんだろう。1人で舞い上がって彼氏の学校まで押しかけて。それでいて彼氏には会えない。なんなんだろ。

「本当、なんなんだろ……ふ、ぅ…っ。」

なんでこんなに悲しいんだろう。洋ちゃんに会いに来ただけなのに。ただ、会いたかった。それだけなのに…なんで…。

「馬鹿野郎。こんな時間にこんな場所にいたら風邪引くだろうが。」

あれ、洋ちゃんの声だ。それにこの匂い、洋ちゃんの匂いだ。いつも抱きしめてくれた時に香る洋ちゃんの匂い。なんでだろ、背中もあったかい。

「おい無視かよ…って、お前何泣いてんだよ。まさか、何かあったのか!?」
「よ、洋ちゃん…ぅ、ふぇ…っ、ぅぅ…っ。」
「いや、俺の顔みて泣かれても…。兎に角、泣き止め。な?」

だって、洋ちゃんの顔見たら安心したんだもん。なんて言えない。それよりも涙が止まらなくて、そんな私を抱きしめてくれてる洋ちゃん。優しく背中をぽんぽんってしてくれてる。

「ふぅ…っ、ご、ごめんね、洋ちゃん…っ」
「いや、別にいい。それよりお前なんでここにいるんだ?」
「それは…洋ちゃんに会いたかったから…。」
「あのさぁ…気持ちは嬉しいんだけどよ、こんな夜遅くにこんな場所歩いて襲われたらどうすんだよ…お前可愛いんだからもう少し危機感とか持ってくれないと困るんだけど?」
「なっかっ…!」
「いやそこ照れるとこじゃねーし!取り敢えず何もなかったから良かったものの!何かあったら取り返しつかねーんだからな!」
「う…ごめんなさい…。でも、よく私がここにいるって分かったね。洋ちゃん超能力でも使ったの?」
「んなわけあるかアホ!音だよ。受話器から聞こえてくる音。電話してる時ちょうど救急車通ったろ?その音で気付いた。」
「あ、そういえば通ったかも…。」

あの時は洋ちゃんに電話することに必死であんまり覚えてない。でも、洋ちゃんはそんな小さい出来事で私を見つけ出してくれるんだ。

「やっぱ、かっこいいなあ。」
「はっ!?」
「…えっ、…わーわーわー!!今のなし!なしだよ!!」
「なしはなしー!ヒャハハ!やっといつものお前らしくなったな!」
「う…。ご、ごめんね、突然来て。本当はね、洋ちゃんをびっくりさせたかったの。」
「大丈夫だ、今も十分びっくりしてる!」
「そうじゃなくて!そうじゃなくて…あのね……洋ちゃん、お誕生日おめでとう。」
「っ…。」

…あれ、反応なし…?反応なしなの?

「よ、洋ちゃん…?」
「……あー、待て。待て待て。ったく、なんなんだよお前…あー。」

そう言って顔を両手で多いしゃがみ込む洋ちゃん。隠し切れてない耳が真っ赤に見える。

「もしかして洋ちゃん、照れてる…?」
「んだよ、わりーかよ!…まさか、そのためにわざわざ来てくれるなんて思ってなかったからよ…。」
「ね、洋ちゃん。こっち見て?」
「あ?」

未だ照れているのか、まだ少し赤い顔をこちらに向ける洋ちゃん。ふふっ、かわいい。

「洋ちゃん、大好き。」

ちゅっ。




(…お前、もう何もするな。)
(えっ、洋ちゃん!?)
(…チッ、黙れ。)
(…まったく、ちょっとだけだからね?)
(っせー。黙れ。)
(洋ちゃん頭撫でられるの好きだもんね。)
(…チッ……ゆり、ありがとな。)