day.1


この世に生を受けて21年。人並みに挫折を味わいながら平凡に生きてきた。両親は優しいし、友人もそれなりにいる。大学生になると同時に一人暮らしも始め、親が全部やってくれる楽さを痛感しながら一人暮らしの自由な感覚を楽しんでいた。
そんな普通な生活を送っていた私が人生最後に見た景色は、横断歩道を歩く私に迫る大型トラックとこの世の終わりと言わんばかりに顔を歪めた運転手と悲鳴をあげる私の友人だった。

トラック運転手の脇見運転による交通事故。

そう、私は死んだのだ。
下を見ればトラックにはねられ血塗れになった私と泣きながら私の名前を叫ぶ友人の姿があった。

「ああ、もう少し生きたかったなあ。」

事故現場に到着した救急車に運ばれる自分の遺体を見ながら呟けば、だんだんと意識が遠くなり始める。きっと魂も死ぬんだ。肉体も魂も死んで、私は完全にこの世から消滅するんだ。

お父さん、お母さん、2人より先に死んでごめんね。こんな親不孝な娘でごめんね。人並みに結婚したかったし子供も産みたかった。2人に孫だよーって子供の顔を見せてあげたかった。未来の旦那と年老いてよぼよぼになって手を繋ぎながら「幸せだねえ」って笑いたかった。

人並みに普通に生きるのがこんなに難しい事だったなんて知らなかった。























ハッと目が覚めた。辺りを見渡しても何も見えず、真っ暗な場所にいる。ここはどこ?天国?地獄?それとも他の場所?軽くパニックになりながら歩こうとすると足の指をガンッと何かにぶつけた。

「いっ…っ!」

悶絶である。それはもう耐えがたいくらいの痛みである。何も見えないからと油断して足を大きく振り上げてしまったがために全力で足の指をぶつけてしまった。痛い…。
手を左右上下に動かし足をぶつけた物体に触ると、それはどうやら椅子だったらしい。死んだ後の世界には椅子があるんだなあ、なんて呑気なことを考える。私が思い描いていた死後の世界は、ふわふわした雲の上に楽園が広がり天使の羽をパタパタさせながら自由に動き回って永遠に遊び続ける、というイメージだった。
だからこそ、真っ暗な場所で何も見えず歩き出したら椅子に足をぶつける、という生きている時に経験した事を死んだ後も繰り返す事にびっくりした。

「足の痛みも引いてきたし、明るい場所を探してみるか…。」

ずっと同じ場所に立ち止まっていても何も進まないので、一先ず周りを歩いてみる事にした。





「うーん…。」

時間にして10分くらいだろうか。真っ暗な空間を歩き回ってみたが何かおかしい。椅子の他に何かないかと探ってみたら、机にソファ、ベッドなどなど、いわゆる普通の部屋にあるものが存在した。しかも生活感がある。
なんだろう、死後の世界ってルームシェアとかなのかな?だから生活感があるのかな?分からない…。死んだはずの私は今どこにいるんだろう。



ガチャンッー



それは突然の事だった。どこからともなく鳴り響いた音と共に何かの気配が入ってきた。もしやルームシェアの相手!?ということは、私と同じ死んだ人なのでは!?やったー!これでここでの暮らし方が分かる!早速挨拶しなくちゃ!良い人だといいなー!
そんな事を考えているとパッと明かりが点いて、スーツに身を包んだ男の人と目が合う。



「………え、誰?」






















どうしよう、死後の世界では男女ごちゃ混ぜでルームシェアするっぽい。