day.2


side.k


「あー疲れた…。」

某大手企業に勤めて早5年。時間はあっという間に過ぎちまうもので、人生の半分以上を共に過ごしてきた野球とも疎遠になった。

高校3年生の夏が終わっていよいよ進路をどうするかという時、迷いに迷ってプロ志望届の提出をやめた。監督や部長、礼ちゃんやチームメイトに散々考え直せと言われ、鳴にも文句を言われたが気持ちを曲げることはなかった。周りからはそりゃもーブーイングの嵐で、プロになればがっぽり稼いで美人なアナウンサーと結婚できるのにもったいねえとか言われたりもした。
でも、俺にとって野球は人生の全てじゃなかったと思う。あくまでも、親父の背中を追いかけてただけだった気がする。だから、プロになろうとは思えなかった。

プロの道を捨てるという事は、就職か進学かを選ばなきゃなんねーんだけど、俺は大学進学を選んだ。幸い普段からノートはマメにとってたから受験前に地獄を見ることもなく、わりとすんなり合格を決めた。
大学入学後は特に何をするでもなく、学校の授業とバイトに追われる日々。あっという間に4年が過ぎて無事就活戦争にも勝ち今に至る。

「ビールでも買って帰ろ。」

社会人になってからは仕事一本に絞り、同期に負けないように真面目に働いている。お陰で同期より早く役職ももらえたし、出世街道まっしぐらだ。けれど誤算もあった。あまりに仕事に打ち込み過ぎて彼女という存在を作ろうと思えなくなってしまった。まあ野球やってた時も彼女なんて作らなかったし、そういう性格なんだということで落ち着いた。その結果、こうやって毎晩コンビニでビールを買い、自宅で晩酌をするのが唯一の癒しの時間だ。











ピピッー

マンションのエントランスを通り、エレベーターに乗り込む。駅から徒歩10分のタワーマンションの20階が俺の家だ。誰かと住む予定がある訳じゃないが、何となく買っとくかって気持ちで買ってみた。購入するときは正直金額的にもかなり迷ったが、駅近で館内設備も充実しているし何より部屋から見える景色が最高でとても気に入っている。

さて、今日も部屋の大窓から見える景色をつまみに晩酌でもするかな〜。そう思いながら家の鍵を開け、玄関の戸を引いて部屋の明かりをつける。





















「………え、誰?」



えっと、ここ、俺の部屋のはずだけど…人がいる…?念のため玄関にあるプレートを確認すれば「2001 御幸」と記載されているから俺の部屋で間違いないはずだ。俺には彼女も妹もいないし、朝家を出るときにも部屋の中に人なんていなかった。というかよっぽどのことがない限り俺は他人を部屋にはあげねえ…。
これはあれか?幽霊的なやつか?一度電気を消して点け直せばいなくなってるか…?そう思って電気のスイッチをパチパチと消しては点けてを繰り返してみるが一向にいなくなる気配はない。むしろ電気が点く度に目を細め、眩しそうな顔すらしている。

「(えっと…取り敢えず警察に…)」

タワーマンションなだけあってエントランスには受付スタッフもきちんといるし、鍵がなければ俺の部屋どころかエレベーターすら動かないはずだ。それなのにこいつはなぜか俺の部屋にいる。この際どうやって侵入したかは置いといて、兎にも角にも警察へ連絡しようとスマホを取り出した所で部屋の中にいる人から声を掛けられた。






「あ、あの…!」

未だ部屋の中でじっと立っている彼女は、俺の顔と床を交互に見ながら意を決したように次の言葉を発した。

「えっと…ル、ルームシェアの方、ですか…?」

「…はい?」





































ここ、俺の家なんだけど…?