運命論に捧ぐ

刀×主/ワンライ(お題「土筆」)


 梅の花が咲いたから春なのではなくて、春になるから梅の花を咲かせるのだ。花を咲かせる、というと、まるで灰をまいて桜を花開かせた好々爺の昔話のようだけれど。

 本丸に四季はない。景趣と呼ばれる擬似的な自然環境を設定することで、そこはあらゆる土地に変化する。地形こそ変わらないものの、実を付け根を張る木々、畑に生える植物、降り注ぐ太陽の光まで自由自在だ。自らと刀剣男士の生活環境をどんな具合に整えるかというのは、全て審神者に委ねられているところである。
 この女審神者の本丸では、暦の上での季節の始まりに合わせて、景趣を切り替えることにしていた。夏の暑さも冬の寒さも決して快適とは言い難いが、四季という古くから日本に馴染み深いものに触れることは刀剣男士たちにとっても良いのではないかと、そう考えたのである。

 その日は立春だった。
 審神者は景趣を梅の花咲くそれに切り替え、刀剣男士たちも長く続いた寒さから解放され、梅の香がたちこめる庭に桜の花びらが舞っていた。
 春になると、畑の作物もその様相を大きくかえる。旬の野菜を多く使った献立はいつもより少し豪華で、料理人も春の訪れに奮い立っているのが見て取れた。
 夕餉に並ぶ見慣れない料理を見て、審神者は厨番の歌仙の袖を引いた。

「ああ、それは土筆の卵とじだよ」
 畑当番が生えていたと持ってきてね。ちょうど何かひと品足したかったから作ってみたんだ。

 歌仙はやや得意気に説明すると、小鉢から箸で少し取って審神者の口に運ぶ。あ、と口を開けてぱくりと頬張った審神者は、小動物のようにもぐもぐと土筆を咀嚼した。

 普段は行儀が悪いと注意している面倒見の良い刀の筆頭であるから、ほかの刀剣男士は小さくない驚きを持ってその光景を見ていた。自分の調子を崩さない三日月や髭切のような刀も、手を止めてぱちくりと目を瞬かせている。加州清光などは箸を取り落として、それを拾うことも忘れていた。
「つくしかぁ。へぇ、たしかに食べれるって聞いたことある!」
「口に合ったかい?」
「美味しい!さすが歌仙だね」

 春は恋を連れてくる。
 梅と桜は愛の色をしている。
 浮ついた春先の空気は、初期刀と審神者の信頼関係を決定的に変えていた。

*

「みをつくし 恋ふるしるしにここまでも めぐり逢ひける えにはふかしな」
「みをつく……なに?つくし?」

 開け放した扉の外から梅の香が風に乗って漂う。歌仙兼定は審神者の部屋に居座って、仕事をする彼女のかたわらで筆をさらさらと滑らせた。

 文系を自称する歌仙とは対照的に、審神者は理系を自負していた。綺麗な絵や花を見ることは好きだけれど、綺麗だなあと思うばかりで歌仙の言うような「雅」にはぴんとこないたちだ。その審神者が源氏物語の和歌に通じているはずもない。きょとんとした顔で復唱を諦め帳簿に印をつけた女に、歌仙はもはや慣れきった態度で和歌を書きつけた短冊を手渡した。

「きみに返歌を期待しているわけじゃないさ」
「そうね、そうしてくれると助かるんだけど」
 女は薄い桜色の短冊を受け取ると、その美しい筆致をまじまじと眺める。歌仙が審神者に歌を贈るのは、これが初めてのことではなかった。
 彼女はありがとうと一言述べて、墨で汚れないように引き出しにおさめる。執務机の引き出しの一番上は、櫛や簪、美しい織物で作った小物などの贈り物が納められた宝箱になっていた。

「どちらにせよ、きみとの恋は大変だろうね」

 宝物の贈り主は、諦めたような優しい笑みでもって審神者を見つめていた。

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