怖い顔してるね

ワンライ お題「怖い顔してるね」



 お酒を飲むのは久しぶりだった。とりわけ好きでもないし強くもないから、飲む機会もそんなにない。宴会に私が参列するのも珍しいことであるからか、刀たちは酒を片手にかわるがわる私の様子を見に来た。
 普段から酒を飲まないせいで何を飲むかと訊かれてもこれといって思いつかない。面倒になって、隣に座っていた加州清光の肩を叩いた。
「清光、一口ちょうだい」
「これ飲みかけだよ?」
「わたしは気にしないけど。清光が嫌なら・・・・・・」
「んーん。俺も気にしない」
 はい、と差し出されたグラスを受け取る。口元にグラスを寄せると、思った以上に強いアルコールのにおいが鼻腔をつんと刺した。まあいいや、と飲み口に口をつけようとすると、その液体が唇に触れる前に何者かによってグラスが取り上げられた。
「だめだ。こんな強い酒」
「げ、長義」
 清光の言葉でその諭すような声の正体が判明した。少し棘のある声を追って顔を上げると、怒ったような顔の山姥切長義がため息を吐いた。
 どきりと胸が高鳴る。顔と耳が熱を持ち、急速に体温が上がるのがわかった。自分でも嫌になるほどわかりやすく、私は長義に惚れていた。

 長義が監査官としての任を終えて私の刀になった当初から、他の刀とは違う感じがしていた。それは監査官として事前に交流があったからか、初期刀の山姥切に対する態度のせいか、はっきりとした要因はわからないけれど。特別に意識していた彼にはいいところばかりを見せたかったのに、生憎としばらく演練で負けが続いた。今思えば運が悪かったのだ。そんなことにすら気づかず思い詰めていた私に、長義は呆れたように言った。
「そんな顔ばかりしていたら、勝てる戦も勝てないな」
「そんな顔ってどんな顔?」
「怖い顔、かな」
 苦笑した長義は私の頬を優しく引っ張った。仕方がないなとでも言いたげに眉を下げたその表情で、私は恋に落ちたのだ。
 彼の何気ない優しさにも胸が高鳴り、些細なことにも妬いた。臆病故に吐露できない恋心は、膨れ上がる一方だった。
 長義は私の胸中を知ってか知らずか、たぶん知っているのだろうけど、私の近くに膝をついて低い声で言った。
「もう部屋に戻った方が良い。俺もついていくから」
「でも、まだ飲めるし・・・・・・」
「明日地獄を見ることになってもいいのかな」
 説得する気があるのかないのか、長義はやや強引に私の腕を掴んで引き上げた。審神者の退出を惜しむ声を背に受けながら大広間を後にして暗い廊下を二人で歩いた。
 私室に着くと、長義は立ち止まって私を見た。
 酔っているとはいえ主君の領域を勝手に侵さないところが立場をわきまえた彼らしい。それでいて、いちど戸を開けて侵入を許せば遠慮などなしに敷居をまたぐのだ。
 すとん。戸が閉められて、密室に私と彼と二人きりになった。それでも長義は私の手を放さない。
 抜け出そうとすると、逆に引っ張られて腕の中に抱かれた。清潔な香りに混ざって、少し酒の匂いがする。
 長義に抱かれている。その客観的な事実に脳がくらくらした。
「長義」
「何かな」
 熱に浮かされたようだった。いや実際、火照った類に浮かされていたのかもしれない。長義の「何かな」という言葉の響きが、まるで私の想いを受け入れているかのように聞こえた。
「・・・・・・・好き」
 私の想いなど見透かしている長義にとっては予想通りの告白だったに違いない。満足そうな「それでよし」という声の後で、唇が奪われた。
「俺も、君が好きだ」
 驚きはなかった。彼も私と同じくらいわかりやすいから、薄々その気持ちには気づいていた。それでも、真正面からぶつけられる愛情に耐性があるかどうかというのは別問題である。
顔を赤くしてたじろぐ私に、長義は眉を下げて、私の好きな表情で笑った。

BACK / TOP