両片想い
ワンライ「我が主よ。これで必要なものは揃ったか?」
「うーん、ちょっと待ってね……」
片手に買い物のリストを携え、もう一方の手に水心子正秀の腕を掴んで、私は万屋を訪れていた。彼は、これから会計を行う予定の食材や物品が入ったずっしりした籠を容易く片手で持ち、私の手元を覗き込んでくる。身長がそれほど変わらないせいで額同士がこつんとぶつかった。
「痛っ」
「す、すまない! 怪我はないか?」
つい反射的に出てしまった声を聞いて、水心子は顔を青くして慌て出した。大したことない衝撃だったのだから、怪我などするはずもないのに。
「大丈夫大丈夫、心配しすぎだよ」
「む……怪我がなかったのなら、いい」
水心子は、どうも私を随分と弱いものだと考えているきらいがある。刀剣男士と比較すればいくらか弱い生き物かもしれないが、まるで壊れ物のような扱いを受けるのは心外だ。
水心子が再びリストを注視し始めたのを感じて、私はさりげなくその紙を折り畳んで見えなくした。あと足りないのは、なんてわざとらしく言いながら水心子の腕を引き寄せる。本当は、彼の言うとおり必要なものは全て揃っている。けれど、この買い物が終われば水心子との時間も終わってしまうと知っていたから、私はできるだけその終わりを先延ばしにしたかったのだ。
水心子正秀という刀剣男士への片想いを自覚してしばらく。想いを伝える勇気はないが、自分でも笑えるほど露骨な言動を取っていると思う。それでも、刀剣男士の彼と人間の私、ときっぱり線を引いてみせた水心子のせいで、この恋が実を結ぶ可能性は絶望的だった。
ふと店の外を見ると、視界の端に仲睦まじく手を繋いだ男女が見えた。刀剣男士と、おそらくその主であろう二人だ。身を寄せあい、笑いあっている。私の理想が、夢に見た幻想が、其処にあった。
「……ねえ、水心子」
「ん? そろそろ別の店に行くのか?」
「そうじゃなくて、刀剣男士と人間の恋愛ってどう思う?」
いきなり踏み込みすぎたかもしれない、と思ったが、その後悔は遅かった。すっと背筋を伸ばした水心子が、嫌になるほど芯の通った真っ直ぐな声色で残酷な言葉を返したからだ。
「考えられないな。刀と人は違う存在なのだ」
そもそも、刀に恋愛など不要だ。
幾度となく心を叩き折られた台詞が、またいくつも紡がれた。刀と人は違う存在。それは事実かもしれないが、けれどこの手に感じる温もりは本物だ。こんなにもあたたかな温度を持った存在が、違うものだとはどうしても思えなかった。
「……そう言うと思った。あーあ、なら私も若いうちに、さっさと適当な男捕まえないと」
ほとんど自棄になって、放り投げるように言った。別に当てつけのつもりはないし、半分くらいは本心だ。まだしばらくは、水心子への片想いを抱え続けていたいけれど。
さ、もう行こっか、とレジのほうに歩みを進めた。
「なっ……! 待て!」
一方的に絡めていた腕が、水心子によってがしっと掴まれた。ぽかんと口を開けたまま振り向くと、深刻な顔をした彼が私を必死に見つめていた。
「そ、それは……駄目だ」
眉根を寄せ、迷いながら言葉を紡ぐ様は、怒っているようにも拗ねているようにも感じられる。
「なに怒ってるの?」
私がどんな恋愛をしようが、水心子が気にすることではないのに。違う存在だと、恋愛などできないと私に痛いほど思い知らせたのは、他でもない彼だ。
「い、いや……それ、は……」
言い淀む水心子正秀の表情は襟元に隠されてよく見えない。けれど僅かに見える耳が赤く染っているような気がして、予想外のことに私の頬も熱くなった。