ハーマイオニーは、入学して初めて出来た友人を、随分変わった子だと評価していた。


まずダンブルドアが後見人なところからして、普通の境遇の子ではないと思ってはいたけれど。(そのことで彼女を贔屓する気も卑下する気もハーマイオニーにはない)

彼女自身も、相当変わっていた。

まず極端に朝が弱く、眠ることが大好きだ。
毎晩寮に帰ると、同室の女の子達は、大抵がベッドに入ったままお喋りに花を咲かせるのだが、彼女は毛布にくるまるのが何よりの至福だという顔をして早々に丸まってしまう。
最もハーマイオニーもお喋りよりは翌日の予習をしたい口なので、これに便乗してお喋りの輪には入らなかった。

それからあまり物を食べない。好き嫌いがどうにも多いようで、食事中の大半はフォークを口に運ぶよりも皿の上で遊ばせている方が多かった。

だがぼんやりしているかと思えば、彼女は絶対に、道に迷わなかった。
新入生の誰もが、授業や食事の度に校内を迷い歩き回るのに必死になっているというのに、ハーマイオニーは彼女と歩いて回る時は、決まって道には迷わなかった。
まるで本能でわかっているかのように、彼女は動く階段や抜け道の絵を物ともせずに、悠々とホグワーツ校内を歩き回った。

そして、何を考えているかわからない濡れたような真っ黒な瞳に、彼を写した時だけ、人が変わるのだ。

きらきらと形容して良い程にその濡れた瞳が輝き、真っ白な頬が一瞬で薔薇色に染まる。
そして幼すぎる外見に似つかわない、聖母のような微笑みをたたえるのだ。
慈しむような、愛おしいものを見るような。
そんな目で、ハリーを見つめるのだ。

だからその日の彼女の行動も、驚きはしたけれど、ハーマイオニーには納得できるものだった。


***


初めての魔法薬の授業の終わりに、ネビルがポカをやらかした。
自分の隣のシェーマスの大鍋を溶かしてしまい、中身を散乱させたのだ。

「君、ポッター、針を入れてはいけないとなぜ言わなかった?
彼が間違えば、自分の方がよく見えると考えたな?グリフィンドールはもう一点減点」

ハリーが言い返そうと口を開きかけ、それをロンが大鍋の陰から小突いて止めるより早く、ルルは自分の大鍋の中身を思いっきりぶちまけたのだ。

「きゃあああ!」
「わああっ!」
「そこ!何をしている」

ルルの魔法薬は、ハーマイオニーと二人で順調な調合を進め、ほぼ完成に近かった。
だから被っても平気だったとは言わないが、ルルがぶちまけたのは石の床だった。

「何をやっているのかね、ミス・ダンブルドア」
「あまりの理不尽な物言いに驚いたんだ。それで手が滑ったようだな」

まるで教師に対する態度ではないルルに、優等生気質のハーマイオニーは度肝を抜かれていた。
ルルの手は逆さにした大鍋の取手をしっかりと掴んでおり、どう見ても手の滑りようがなかった。

「ッ…!!!」

スネイプを声も出ない程怒らせたのは、後にも先にも彼女だけかもしれない。

「それから、私のことをダンブルドアと呼ぶな」
「……」
「アルバス・ダンブルドアにもそうお願いしてある」
「ダンブルドア、先生と呼べ。・・・ミス・ルル」

忌々しげに杖を振ってルルがこぼした薬を取り除き、振り向き様にスネイプが「グリフィンドール五点減点!」と叫んだのは、捨て台詞にしか聞こえなかった。

「元気だせよ、ルル」
「私は元気だ、ロン」

本当に彼女は元気そうだった。二点減点を食らったハリーよりも、だ。
五点減点を食らったルルが、彼を庇ったのは明らかだった。

「大丈夫?坊・・・」
「大丈夫だから、そう呼ばないで」

はっきりと拒絶され、ルルは目に見えて落ち込んでいた。
自分の寮の点数を五点も減らしたことにはちっとも落ち込まないのに、ハリーに言われた一言で、目に見えてしゅんとしていた。

「あなたって、変わってるわ」
「そうか。そんなことを言われたのは初めてだ」

そううそぶく彼女と、友達になれて良かったな、とハーマイオニーは思った。





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