ふぅ…

ルルは自分のベッドに座り込むと、息をついた。

組分けも何とか乗り越え、無事に坊やと同じ寮になることができた。

同室の子供たちが、きゃあきゃあとお喋りに興じている。
その輪の横に、先程食堂で話した、栗毛の少女がいた。
彼女は隣のベッドに歩み寄ると、天蓋のカーテンを開ける。

「お隣なのね、どうぞよろしく」
「あぁ、よろしく、ハーマイオニー」

彼女は微笑んでくれた。よかった、どうやら名前を間違えずに覚えていたらしい。

ルルはその晩、お喋りの輪には加わらずに、早々にベッドに入った。
何せ、今日が楽しみすぎて、昨晩はなかなか寝つけなかったのだ。

「坊や…」

ハリーのくしゃくしゃな髪を思い出す。
ふわふわと、毛布が暖かく心地よい。

こんなに柔らかなベッドを、一人で占領して寝るのはいつぶりだろうか。




「おい、てめぇそこどけ」

今寝付いたところだったのに。
むぅ、と睨み付ければ、シリウスが仏頂面で立っていた。

「おい、こら!」

抗議の声をあげても仕方ないと、ルルはもう学習済みだったので、再び目を瞑って無視を決め込んだ。
先にソファに寝そべっていたのは自分の方で、あとから来たこの男に追い出される道理はない。
この男ときたら、理不尽でわがままで、まるで子どものようなのだ。

「てめぇ」

やがてしびれを切らせたのか、寝ていたおしりを、バシリと蹴られる。

「ッ何すんのよ!」

慌てて飛び退いて睨み付ければ、カラカラと笑いながら、空いたソファに腰を沈めた。
全く、何てやつなんだ。

「ルル」

呼ばれて、パッと見上げれば、優しく抱き上げられた。

「ジェームズ!あいつね、けったの!わたしがさきにいたのに!」

「よしよし、かわいそうに」

ジェームズはそう言って、背中を撫でてくれる。
ジェームズは私をすぐ子ども扱いするけれど、今日は甘えることにしよう。

「ちょっとシリウス、うちの子に何してくれるのさ」
「だってそいつ退けっつっても退かねーんだもん。生意気だろ」

さも当然という風にソファにふんぞり返るシリウスに、ジェームズは「誰の家だと思ってるのさ」と冷たい目を向ける。

「よし、じゃあお前コーヒーいらないんだな。ルルはミルクでいいかい?」
「うそうそ!うそだって!」

キッチンへ踵を返すジェームズに、シリウスは立ち上がって追いかけてくる。

「怒るなって、プロングズ」
「怒ってない、呆れてるんだよ」

ジェームズの肩に腕を回して、笑うシリウス。
ジェームズの腕に抱かれたままの私は、窮屈で身を捩る。

「ごめんごめん、ルル」

ジェームズは優しく私を降ろす。

「オイ、この豆いつのだ?」
「さぁ…、その辺はリリーが管理してるから」
「まぁ、コーヒーは腐んねぇだろ」
「君、意外と丈夫だからなぁ。腐っててもわからないかも」

二人は笑ったまま、並んでキッチンに立った。

二人の間には入れない。
彼らだけに許された呼び名。

結婚したリリーだって、たまに妬けるわ、と冗談を言うくらい。
固い絆が、彼らにはある。


ぐにゃりと視界が揺れる。


さわるな、さわるな。


その手を離せ!シリウス―…!





「っハァ!ハァ、ハァ…!」

ルルは最初、自分がどこにいるのかわからなかった。

「…」

ぼやけた視界が次第に定まって、何か布のような物があるのがわかる。
濃い紅色のそれは、ベッドを囲う天蓋だった。

「そうか…」

自分は、ホグワーツにいるのだった。
ルルはぼんやりと、辺りを見回す。
赤が基調の、グリフィンドール寮。

彼らは一体、どんな学生生活を送っていたのだろうか。





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