「なぁ、あの子君に気があるみたいだな」
「え?あの子って?」
「ルルだよ。ルル・ダンブルドア」

ハリーは慣れない制服のネクタイをひっぱりながら、ロンの言葉に目をしばたいた。
買ったときは校章が入っているだけのグレーだったネクタイは、いつの間にか寮のカラーである赤と黄のストライプに変わっていた。

「ルルって、あの不思議な子?」
「そう、長い黒髪の」
「何でそう思うの?」

ハリーはゴブレットのミルクを素早く飲み干してそう問いかけた。

「だって彼女、昨日の晩飯の間中、君を見つめてたぜ」

昨日の晩は皿の前の料理を手当たり次第胃に収めることでお互い忙しかった筈なのに、ロンがそんなところに気づいていたとは驚いた。
ハリーだって気がついてはいた。

目の前に座っていた少女、ルルが、ちょっと不自然なくらい熱心にハリーを見ていたことくらい。
でも今朝の状況を見れば、昨晩の彼女も別段不自然だったとは思えないかもしれない。

「どれ?あれ?」
「赤毛のそばかすの向かい」
「メガネの子?」

「あれがポッター?」

そこかしこで囁かれる声には、寮を出た時からうんざりとしていた。

「きっと他の連中と同じだよ」
「そうかなぁ」

ハリー自身もそうは思っていなかったが、とにかく早くここを抜け出したくて、トーストを口に押し込んで立ち上がった。
大広間にたどり着くまでも大変だったのだ。きっと教室にたどり着くのも大変に違いない、と思ったハリーの予感は当たった。


***



「ねぇ?どの子?」
「栗色の、くせ毛の隣」
「黒髪の子よね?」

「ダンブルドアの?」

一方、ハリーと似たような状況に陥っていたルルは、廊下で暢気にあくびをしていた。

「ちょっと大丈夫?起きてる?」
「…あぁ」
「でも、他に早起きの人がいてよかったわ。別に、一人で来たって平気だったけれど」
「夢見が悪くてな」

健全に早起きしたハーマイオニーと食堂で会い、朝食を一緒にとり、最初の授業の教室まで一緒にやって来た。
だが、早く来すぎたようでまだ教室が空いておらず、廊下で待ちぼうけを食うはめになったのだ。

「先生、いらっしゃらないわね」
「だから、もっとゆっくりでいいと言っただろ・・・」
「だって・・・!」

ルルのあくび混じりの文句に、ハーマイオニーは反論する。
それからホグワーツ城の中がいかに複雑で不可解で何百の動く階段と仕掛け扉がうんたらかんたらと熱弁するのを居眠り混じりで聞いていた。

「私ちゃんと入学前に参考書を読んで・・・って聞いてるの!?ルルッ!」
「ん、悪い、聞いてなかった」
「もう、あなたってばマイペースね!」
「朝は弱いんだ」

正直に言ったのだがハーマイオニーはまだぷりぷりと怒っていた。
じきにフリットウィック先生がやってきて、「早いね」と言って教室のドアを開けてくれた。

率先して一番前の席に陣取るハーマイオニーに引きずられるようにして隣に座らされる。
じきに他の一年生もパラパラと教室に集まり始めた。
皆一様に後ろの席から埋まっていって、彼が、ハリーが教室にやってきた時には、席はもうルルたちの後ろしか空いていなかった。


***


ルルの姿を見つけて、駆け寄ったのはロンだった。

「やぁ、おはよ・・・」
「おはよう!」

だがルルはちょっとこちらがたじろくぐらい満面の笑みで、間違いなくハリーに挨拶をしてきた。
おはようと言いかけたロンは視界に入れていないようだった(ロンの方がハリーより背が高いのに、だ)

そんなルルを、隣のハーマイオニーがおかしな物でも見るかのような目で見ている。

「朝から元気だね」

ロンが気を持ち直すように、ルルにそう話しかけた。話しかけられてルルは、初めてそちらに気がついたかのようにロンに顔を向けた。

「君は誰だ?」

きょとんとした彼女の顔に比べて、ロンは怒ったような呆れたような顔をして、真っ赤になった
。そんなロンの様子で、ルルも気がついたらしい。
確かにロンは昨夜、彼女のはす向かいに座っていたのだ。

「すまない、私は人の顔を覚えるのがとても苦手なんだ」
「苦手っていうレベル?」

横からハーマイオニーが呆れたような口を挟む。

「名前を教えてくれるか?覚えるから」

それでもすまなそうに微笑まれれば、断る気にはならなかったらしい。
ロンが手短に「ロン・ウィーズリー」と自己紹介すると、ロンの顔をじっと見ながら彼女も「ルルだ」と自己紹介をした。

ファミリーネームを名乗らないのはわざとかな、とハリーは少しだけ、彼女に親近感を覚えていた。






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