転落と誕生

 不注意による転落死。
 私の人生はそんな事で終わった、筈だった。





「次、第七音素の吸収と発散」

 白衣を身にまとった、医師か研究者かがなんの抑揚もなくそう言った。不思議なことに、第二の人生を手に入れた自分の体はその指示が指す意味を理解しているらしく、迷う間もなく耳を澄まし始めた。聞こえたのは耳鳴りに似た、しかし耳障りではない高音域。
 聞いていて心地が良いものだからそのまま暫く聞き入っていた。ら、肩を押されてその場から退場せられた。

「吸収する力は良好だが発散が上手くいかないようだ」
「それでは導師は務まらん」
「また廃棄、か」

 隣の小部屋に押し込められて、何の説明もなく扉を閉められた。あー……私、アイツ嫌いだ。

「目障りだから端に寄ってくれない?」

 立ったまま扉を見上げていた自分に、言葉がかかったか。
 ゆっくり振り返ると、そこには二度目の生を受けた私と同じ顔の子がいた。五人も。

「聞こえなかったの? “六番目”。邪魔だから僕の視界から消えなよ」

 自分と同じように粗末な衣服を着せられている彼は、他の子らとは違いしっかりとした目をしていた。他の子は皆虚ろな目をしている。

「ねえ、聞こえないの?」
「いや、聞こえているよ」

 でもその前に状況を把握したい。
 ぐるりと見回せば物は何も無く、本当に私達六人しかいなかった。成る程、“六番目”とは私が六人目と言う意味か。

「……アンタ、自我があるのか?」

 先程私に話しかけた子が驚いたように言った。

「人格があるのかと言う意味での問いであれば、答えは是だ。自我がある事は変な事なのか? 見た感じ、私達くらいの年代ならあっても良い年頃だろう」
「馬鹿じゃないの? 僕らはさっき造られたばかりなのに自我なんてあるわけないじゃん」
「では私と君は異例と言う事だな、おめでとう」
「全然めでたくない。感覚を理解している分この後に経験する痛覚が鮮明だ」
「君は今から私達に起こる出来事を知っているように喋るんだね、まるで予言のようだ」
「……」

 相手が急に黙りこくってしまった。黙るだけには飽き足らず、なんとなく睨んでいる気がする。意味が分からない。

「どうかしたか?」
「……僕が預言スコアを、ね」
「すこあ? ああ、楽譜の事か?」

 余りにも苦々しそうにするものだから何事かと思えば。音楽が好きなのだろうか。

「預言の別名。まさか知らないなんて事無いだろう? この星が死ぬまでの道筋なのに」
「ふぅん? それはあれか? 運命と言われるものか?」
「それに近い意味ではある」
「生憎私は運命とやらを信じていなくてね。予言も然りだ。あれは当たるも八卦当たらぬも八卦が売り言葉だろう?」
「はあ? アンタ本当に馬鹿? 預言<スコア>はそんな曖昧な物じゃない」
「……君は何処かの宗教団体に属しているのか?」
「属してない。属するとしても不可抗力だ」
「……? なんだか話が噛み合っていないようだね」

 目の前の子と話せば話すほど相互理解ができなくなっている気がする。
 相手もそうなのだろう。眉を潜めて何かを考え始めた。

「ところで少年」
「何その呼び方」
「そう、それ」
「は?」
「君の名前を教えて欲しい。いつまでも“君”では呼ぶのに不便だ」
「……」

 また黙りこくった。どうしたのだろう。

「……そういうアンタは名前があるの?」

 成る程、名前を聞くならまず自分から、というモットーの持ち主か。

「ああ、死ぬ前まではセトと呼ばれてた。……ん? この場合は生まれる前か?」
「ワケ分かんないこと言わないでよ」
「まあ理解するには確かに時間が足りないな。で、君は?」

 彼は渋った。私の問いに対する答えは持っているものの、それを口にするのを嫌がっているようにさえ見える。

「……シンク」
「シンクか、良い名前だ」
「……セトって名前はなんだか変だけどね」
「心外だな」





 これが私の第二の人生の始まり。中々珍しい体験だった。
 生まれた瞬間から他人とコミュニケーションがとれる場合があるとは思わなかった。
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