翼を背負う者達



自殺志願者の集まり。
そう揶揄される集団。
調査兵団。
自由の翼を背負う者たち。





シガンシナ区壁外に通じる門の前に自由の翼を背負う調査兵団が居た。
それを見送る一般市民達の顔には不安、憤りなど様々な感情が渦巻いていた。
その調査兵団の中に新兵でカズハやハンジ、そしてその同期たちも居る。
カズハは左翼側の前側に近い班に配属された。
「ぅぅ…、私生き残れるかなぁ…。」
「ミュール、お前は相変わらずマイナス思考だな…。」
「だってクルオぉ…。」
「カズハなんて、いつもどおりだぞ。」
「流石に私だって緊張してるけど…。」
そう、緊張しないやつと言われたカズハがジト目で右手側に居るクルオと言われた少年に言う。
そのクルオの奥側にいるミュールと呼ばれた少女はくすくすと緊張が解れたのか笑うのにカズハとクルオは顔を見合わせて笑う。
ふたりともカズハやハンジ、リコと同期であり同室の仲間だ。
「先輩たちがいます、大丈夫ですよ。」
「そうだな。」「そうだね。」
笑顔で二人に言うカズハに二人もカズハに返した。
そして真っ直ぐ前を見るのだが、カズハは緊張を解すために深く呼吸をする。
ふと視界外の左側が気になり、そちらを向く。
群衆外から己を見る短槍を持った黒髪の長身の女性と並んだ銀髪の男性。
「かあさま…、とうさま…。」
眼を見開き思わず呟くと母親である女性と父親である男性がカズハに笑いかける。
そして二人がそれぞれ口元を指差し動かす。
「いってらっしゃい、気をつけて行くんだよ。」
父親の唇がそう動き
「必ず生きて帰ってきな。できるだろう?」
母親の唇がそう動く。
その唇を読んでカズハは頷く。
「これより第XX回壁外調査を開始する!」
そう宣言が聞こえたのにハッと前をカズハは向く。
全体が動くのだろう。
今一度両親の方を見て
「いってきます。」
そう唇を動かし前を向いた。
その後はもう両親たちの方は見ずに真っ直ぐ前を見る。
「全員!前進!!」
その号令で調査兵団は全員壁外へ旅立った。





出立を見守っていたが群衆が解ける前にカズハの母親であるカグラと父親であるソルスティスは先に路地を歩いていた。
「僕達の娘はあそこまで大きくなっていたんだね。」
「あぁ…。子供の成長は早いね。」
そうしみじみソルスティスが言うとカグラがそう答える。
無言で家に辿り着き、家の中に入って扉を閉める。
リビングに向かいお互いに椅子に座る。
「ねぇ、カグラ。」
「なんだい、ソルス。」
「僕はちょっと後悔している。」
娘を兵団に入れたことをとソルスティスが言葉無く呟く。それにカグラは「そうか。」とだけ答える。
「カグラは後悔してる?」
「早く巣立たせたことには後悔してるね。」
まだ慈しみたかったそう意味を込めて呟くカグラ。
「だけど、あれはあの子が選んだ道だ。どんなに困難でも進むだろうね。」
「そうだね。」
窓から見える空をカグラは見つめていた。





調査兵団は巨人がいたらすべて相手取り進んでいた。
まずは壁外拠点と成っている古城へ向かっていた。

「へへっ先輩たちや兄貴が言ってたけど、そこまでじゃないな…!」
「そうだね…!」
とミュールとクルオがそう言っているのだがカズハは言い知れぬ不安が胸にあった。
「ふたりともなんか胸騒ぎがする…だから警戒を。」
「何言ってんだよ、不安に成るようなこと言ってさ。」
ミュールは不意を疲れた様にきょとんとしクルオは不服そうにカズハを見るのだが。
いつも不敵で飄々としているカズハがこわばり鋭く強い眼光で前を見ていた。
その表情にミュールとクルオは顔がこわばっていくのが解った。。
「お、おい、冗談でもそういうこと言うなよ、なぁ!」
「そ、そうだよ!カズハちゃん!」
震えた声でカズハに言う二人だがそんな二人にカズハは冷静に
「冗談なら良かったですけどね…。杞憂ならあとで文句はいくらでも聞きます。なので警戒を。」
「わかった、文句じゃないが。あとで俺の父ちゃんの自慢聞かせてやるからな!」
「それもう耳にタコできてるやつだ!」
そうミュールやクルオも気を引き締め進む。



拭えぬ不安を抱きつつカズハは進んでいた。
すると紫の線が空に向かっていく。
「紫の信煙弾…!」
「おい、嘘だろ?」
紫の信煙弾は緊急事態を知らせるものだ。
後ろへの伝達のためにカズハは冷静に紫の信煙弾を発撃させる。
そしてその現場に近づくと無数の巨人とそれに食い散らかされ居る兵士達が遠目に見えた。
それにミュールとクルオの二人は口元を抑える。
「ミュールさん、クルオさん。」
「こんな時になんだよ!」
クルオは吐き気を堪えカズハが名前を呼ぶのに答える
「伝達をお願いします。左翼はほぼ壊滅と。」
「カズハちゃんはどうするの…?」
「私は今戦闘している方々の補助に入ります。」
静かに言うカズハにミュールはそう疑問を投げかけるとカズハは真っ直ぐ戦闘地帯を見据えて言う。
「そんな!無茶だ!」
「押し問答している暇はありません。伝達お願いします。」
「おい!カズハ!」「カズハちゃん!」
カズハを止めようとする二人だったがカズハは馬を走らせその戦闘地帯に突入していく。
「ミュールいくぞ!早く戻って助け連れてこよう!」
「うん!」
そう言って二人は後方へもどって行った。





「うわああああああああっ!」
足を食いちぎられ悲鳴をあげる男性とそれを助けようとする男性だったがはたき落とされてしまう。
「畜生!畜生…っ!」
叩き落された男性は巨人に掴まれ、足を食いちぎられた男性と同時に口に運ばれていく。
だが二人の男性は重量にそって地面に落ち己を喰らおうとした巨人の両手が削ぎ落とされているのが解った。
ガスの発射音が上から聞こえ上を向くとカズハが急降下し巨人の項を削ぎ落とす。
降り立ったカズハがブレードを鞘に治めつつ男性の元へ近づく。
「負傷状態を教えてください。」
「俺は打撲程度だ、痛みはあるが骨は折れてない。だけどこいつは…。」
そう行って足を食いちぎられた男性を見る。
「左脚部欠損…止血します。馬は無事ですか?」
「俺の方はな。」
「染みますからこれを噛んで下さい。」
と言って足を欠損した男性に布を咥えさせる。
処置をしていくそれに染みたのか強く布を噛みしめる。
「補給拠点についたらちゃんと見ますのですみません…。」
「いや…助かった…。」
布を口から取り欠損した男性がそう弱々しく礼を言う。
「配属医療班ですしコレが役目ですから、でもお役に立てたのなら良かったです。」
「痛み止めはあるか?」
「えぇ、ありますよ。夕食までは効いてると思うので、夕食前に医療班に取りに来て下さい。」
そう言って打撲程度と答えた男性に問われ二人分の痛み止めを渡す。
「私はこのまま戦闘地帯の中央に行きます、お二人は後方へ行って本隊と合流してください。」
「あ、あぁ!気をつけて行くんだぞ!」
カズハは馬を走らせ戦闘地帯の中央へ、男性達は本隊へ合流しに後方へ下がっていく。

カズハは巨人を倒しつつ負傷者を助け後方へ行くように指示し、負傷していないものはカズハとともに激戦を繰り広げる中央へ向かう。
そして戦闘地帯の中央に近づけば近づくほど兵士の死体が増えていく。
複数の巨人と奇行種が負傷者達を貪り食っていた。
そのためにその一帯は血で赤黒く染め上げられている。
伝え聞く地獄のような光景が眼前に広がっていた。
「これは…。」
「俺たち以外ほぼ全滅か…?」
そう震えるように男性が呟く。
そこに劈く様な女性の悲鳴が聞こえそこへ走るとほぼ女性兵士だけ固まっていた。巨人が囲み女性兵士達に襲いかかっているのが見て取れる。
「助けますよ。」
「応!」
そう、カズハの声に答えた。
「あの方々を助けるのに確実に巨人の動きを止めた後に項を削いでください。ですが、無理はしないでくださいね。」
「わかってるさ」「おうよ。」
とカズハの言葉にここまでついてきてくれた男性兵士たちが笑って答える。
だが奇行種が女性兵士たちの方へ向かうのが見え顔がこわばる。
「皆さんはあの方々を!私が奇行種を迎え撃ちます。」
「無茶だ!」
「あのまま合流させるほうが危険です、助けだしたら。フォローお願いします。」
「わかったよ!!気をつけて行けよ!」
「はい!」
カズハは青毛馬を走らせる。
そしてわざと己を巨人の前に晒し信煙弾発射機を掲げると奇行種はカズハに狙いを定め追ってくる。
「話に聞いたとおりこれを見て追いかけてきますね…。」
奇行種と交戦中と言うのを知らせるために黒の信煙弾をそのまま撃ち上げた。





時は少し遡りクルオとミュールが必死に馬を走らせ報告をした後
「エルヴィンの班とフレールの班に左翼側の救出に行ってほしいんだ。」
その2つを統括する分隊長であるグラーヴェがそう言う。
「お言葉ですがそれは我々に死ねということでしょうか?」
とフレールと呼ばれた青年がそういう。
「危険は相応だろう?」
グラーヴェはさもなんともなさげに言う。
「ですが私の班は新兵が多く所属しています。」
「その新兵達を死なないようにするのが君だろう?フレール。」
グラーヴェは蔑むようにフレールを見つめる
「それともエルヴィン班だけに任せろと?」
「それは…。」
「グラーヴェ分隊長。救出は我々だけでも問題ありません。」
「スミス…っ」
そう敬礼しつつ言うエルヴィンに面白そうに笑うグラーヴェに忌むように睨みつけるフレール。
「そういうことならフレール、君はもうさがると良い。」
「っ…はい…。」
「君はちゃんと新兵たちを守るんだよ。確実にね?」
と言って追い払うようにグラーヴェが言いそれに敬礼をした後に機微を返し自分の班に戻る。
「ああ、言う言い方はどうかと思いますグラーヴェ分隊長。」
「まぁ言い加減うるさかったしね…。本当に彼女は試金石として申し分にないね。」
そう楽しげにいうグラーヴェに苦虫を噛み潰したような表情をするエルヴィン。
「フレールは期待はずれ、ってことでルッツ、君の班に任せるよ。」
「判りましたグラーヴェ分隊長。」
「エルヴィン、君にルッツを貸そう。ルッツ、君はエルヴィンの指示をよく聞くんだ。コレは私からの命令だ。」
「御意。」
「さぁ、エルヴィン、コレは試練だ”魔女”を見事に救ってみせなよ?」
「はっ」
敬礼をしエルヴィンとルッツはグラーヴェから離れる。



「エルヴィン!カズハが危険だって本当なのか?!」
班単体で動くためそれを班員に伝達しているところにそうハンジがエルヴィンを目ざとく見つけ駆け寄る。
「あぁカズハとともにいた物が此方へ伝令に来た。」
「私も行きたいけどフレール班長がなんか荒れてるし、みんなが助けに行きたいと言っても駄目っていうから無理みたいなんだ。」
「そうか…。」
「だからエルヴィン、カズハを頼んだよ!でもエルヴィンやエルヴィンの班のみんなも無事で帰ってきてほしい。」
「あぁ。ありがとうハンジ。」
そう言って己の班に合流するハンジを見送るとルッツが自分の班員をつれ戻ってくる。
「エルヴィン君。」
「ルッツさん、準備は大丈夫ですか?」
「えぇ、此方は滞りなく。そちらは?」
「私の方も大丈夫です。」
「では、エルヴィン君。君の指示に従いましょう。」
「はい、では激戦と成っている左翼側へ出立する!」
そう宣言し激戦と成っている左翼側へ馬を走らせた。





道中治療された兵士達に出会う。軽傷者は重傷者を馬に乗せて本隊へと言う指示をカズハにされ一同がカズハに救われたと言っていた。
「すごいですね、彼女の手当は的確だ…。」
エルヴィンに並走するルッツは言葉少なげにカズハを賛称する。
「討伐補助数も討伐数も新兵にしては快挙だ。」
「そうですね。」
「浮かない顔だねエルヴィン君。」
「いえ…。ただ。」
「ただ?」
「彼女に目をつける人間が増えるなと。」
そうぼやくエルヴィンは先を見続けた。
ふと後ろからミケが追いつく。
「エルヴィン…!」
「なんだ、ミケ。」
「この先に強い血の匂いがする。そろそろだ。」
「そうか。」
ミケがそう言いしばらく馬を走らせた先は多くの兵士たちのち血が大地を赤く染めていた。
「ミケ匂いでわからないか?」
「血の匂いが濃すぎてわからない…すまない…。」
「いや、……。カズハ…。」
歯を食いしばり周辺をエルヴィンは見渡す。
だが影も形も無い。
「エルヴィン班長、ルッツ副長、あれ!」
そう色素の薄い金髪の中性的な少女 ナナバが指差した先を二人は見る。
黒い線が空に向かい伸びていく。
「黒の信煙弾…!」
それに全員が気づき急いで馬を走らせる。
やや走らせると
「前に複数の巨人に囲まれた左翼隊がいます!」
とルッツの班員が言う。
「判りました。掃討を初めますよ!」
「了解!」
ルッツがそう号令を出すと班員は答える。
「我々もいくぞ!」
「応!」
エルヴィンも鼓舞するとエルヴィンの班員もそう答えた。



次々と囲まれた生き残りを救うために巨人を倒していく
そして倒しきった後
エルヴィンやルッツの顔を見て安心した男性兵士達がぐったりとする
「あはは…た…助かった…。」
「おい、しゃんとしろよ…。」
「お前の方こそ…。」
軽口を叩き己等の生還をよろこ似合う男性兵士。
「状況を説明して下さい。」
それにルッツは頬を緩ませ見守りつつ聞く。
「”魔女”により囮にされ危機的状況になりました。」
そうやけに身ぎれいにしたリーダー格の女性兵士が言うと口々に他の女性兵士が「”魔女”が逃げた」や「”魔女”のせいでほかが死んだ。」と言い出す。
「何言ってやがるんだてめぇら!」
「あの嬢ちゃんはな俺たちの仲間を手当してこっちに向かってきたんだぞ!そんな事できるわけねぇだろ!」
「それに今こうしてルッツ副長とエルヴィン班長が間に合ったのだって彼女のおかげなんだからな!」
それに怒ったのは男性兵士達だった。
「本当です、”魔女が”!!ルッツ副長…エルヴィン班長…怖かった…。」
そうなよなよしくしなを作り甘い声で言う女性兵士。
「はぁ…めんどくさいですね…。」
ルッツがそう心底めんどくさいと小さく言う。それにその女性兵士は気づいていないようだ。
「馬は無事ですか?」
エルヴィンがそう問いかけると
「私達の馬はもう…。」
もじもじとしなをつくり言うリーダー各の女に追随するように他の女性兵士も言う。
それに思わずルッツは舌打ちをする。
「あ、俺達は馬は大丈夫です。」
女性兵士達の発言に苛立っているルッツに怯えつつも男性兵士が言う
「そうですか、良かった。」
そんな男性兵士ににこやかにルッツは言う。
スルーされたリーダー格の女性兵士は明らかに苛ついているのがわかる。
「すみません、ルッツ副長!エルヴィン班長!私たちは嬢ちゃんの助太刀に行きたいと思います!」
と無精髭を生やした男性兵士が敬礼をしつつ言う。
それに追随する男性兵達。
「いえ、あなた達はこれより本隊が着ますので、私の班から3人つけますので彼女らを連れ本隊へ戻って下さい。」
「私の方からも三人つけましょう。」
そうルッツの言葉にエルヴィンが続ける。
「え…。」
「諒解いたしました。」
と髭を生やした男性兵士が返事をする。
そしてルッツの班員が3人ほど付き添い女性兵士達と男性兵士たちと本隊へ下がる。
途中女性兵士達がごねたが二人づつ乗れるように男性兵士が馬を譲ったので渋々と下がった。
「ふぅ…、よく我慢しましたねエルヴィン君。」
そんな女性兵士達の様子に心の中で減点をつけたルッツがそうエルヴィンに言う。
「いえ、何かに使えるでしょう。」
冷めた目のままで言うエルヴィンにルッツは苦笑を浮かべる。
「とりあえず行きますよ、彼女はこの先に巨人を引き連れて行ったそうですし。」
「えぇ、そうですね。」
ルッツの言葉にエルヴィンは同意して残り全員でカズハの元へ急いだ。



まだ負傷者が居ると思いカズハは死体の山から奇行種であろう巨人を引き離し、平原にてを縫い付けていた。
「まったく、泥沼化してますねっ!」
そう言っ奇行種の両腕を切り離し馬に乗るとまたその奇行種の腕は生えて来る。
驚異的なその再生力は最初見た時は度肝を抜かれたがたしかにこれは百戦錬磨の先輩兵士たちでも苦戦をするだろうとカズハは認識した。
ガスもブレードも負傷者たちから譲り受けたものを各人員でわけたが、すでにガスは無く、ブレードはもう使い物に成らない。
そんな絶望の中カズハはまだその瞳に強い光を宿していた。



一体の奇行種が執念的に青毛馬を追っているのがエルヴィンやルッツそして班員達の目に入る。
その青毛馬の背にはカズハが乗り巨人のその腕を縫うように走り抜ける。
「なんであの子飛ばないんだ…。」
「ガスもブレードも底がついたんでしょう。」
ナナバの呟きにルッツが言う。
青毛馬がこちらに向かってくるが人影がなく、背には立体機動装置のみ残されているのにハッとし全員が巨人の範囲内をみるとそこにはいつのまにか棒状のものを持ったカズハが立っていた。
それを見てエルヴィンが馬で駆け寄りる。
カズハは持っているそれで巨人の手を牽制し、食らいつかれようとしてくれば目に何かをなげる。
巨人が目を押さえ怯んだところで足を切り落とす。
「カズハ!」
大声でカズハの名をエルヴィンが叫ぶように呼ぶと振り返りエルヴィンを見て目を見張る。
そして口元が穏やかな弧を描き笑う。「項、頼みます。」と唇が動く。
「カズハ!手が!!」
迫りくる手がカズハに迫るが、その手に持った短槍で切り落とす。
「大丈夫です!それよりエルヴィンさん!項をお願いします!」
巨人はカズハを執拗に狙いを定めエルヴィンのことは眼中になく。無防備だ。
また巨人がカズハに向かって手を伸ばしたが、その巨体はカズハに大口をあけ倒れ込む。
しかしそれを掠め取るようにエルヴィンが立体機動装置を使いカズハを救出した。
そしてカズハをエルヴィンは己の前にし馬に乗る。
「無茶をする。」
「無茶のしどきだったので。」
呆れて言うエルヴィンにカズハは笑みを浮かべ言う。
それにエルヴィンは苦笑をして頭を乱暴に撫でるとカズハは「わーぁーっ」と声を上げる。
「エルヴィン!カズハ!」
「こっちだ。」
エルヴィンを追っていたミケ達とルッツ達の双方と合流する。
「カズハ、無茶しすぎ!」
「いや、うちの子の疲労も考慮してだったので。」
詰め寄るナナバにそう言われたじたじになりつつそれしか方法がなかったと言う。
「カズハ・トォウフォス。」
「はっ。」
「よくやりましたね。あなたのおかげで助けられた人員が多く、そして遺体は無理ですが遺品は回収できました。」
「良かったです…。」
ほっとするカズハにエルヴィンやルッツたちは本隊へ馬をゆっくりと走らせつつ話を聞くことにした。

「なるほど、信煙弾発射装置を見て追いかけ、再生能力の強い奇行種ですか…。」
「はい、度重なる戦闘でブレードもガスも、あの奇行種を相手取るときには一対と残りわずかでしたから。」
「なるほど。ですがともに赴いた彼らと助けた女性兵たちと協力すればよかったのでは?」
「素早く動けるかわかりませんでしたから、それに混戦状態のところにあの奇行種が乱入したら最悪の結果にしかなりません。」
そうカズハが言うのにルッツは何も言えなくなる。
カズハは混戦状態のためのパニックで全滅が思い浮かんでいるが、男性兵士は健闘するだろうがあの緑の目の女性兵士が足を引っ張るだろうとカズハ以外が思う。
「それに、一緒にここに赴いた方々も重傷者ではない、と言っても軽傷を負っていましたから。無傷の私がやるべきことだと判断しました。」
そうカズハは真っ直ぐルッツを見て言う。
「なるほど、立体機動装置を馬に乗せたのは?」
「生存率を上げるためです。」
「ほう?」
「私の得物、得意な武器がこの短槍と呼ばれる武器なので。馴染んでいるこれなら幾分かは良いだろうと言う判断というより賭けですね。」
「その賭けに見事に勝ったわけですか…。」
と呆れたように言い「凄まじいですね。」と言う言葉を飲み込む。
「全く無茶をする…。」
「その言葉さっきも聞きましたよ。エルヴィン班長。」
「カズハはできるって決めるとホント聞かないね。」
「そうだな。」
「ナナバやミケさんまで!」
そう言葉で軽くじゃれ合う四人をみてルッツたちは頬を緩ませ見守った。
無事に本隊に合流できカズハに助けられた兵士達は再会を喜んだ。
だがそれを面白くなさそうに見る女性兵士たちが居た。

「かずはあああああああ!よかったああああああああ!」
そう古城の中でハンジとクルオミュールに抱きつかれ身動きの取れないカズハが居た。
「ちょ、三人共!」
「無茶しやがって!この野郎!」
「私は野郎じゃないですが…。」
「カズハ、ううう、よかったあ、ふええええ。」
「ミュールそんなに泣かないで下さい…。」
「かずはああああ、うえええええええ!」
「ハンジそんなに号泣しないで…。」
わたわたと慌てるカズハを見てナナバは意地の悪い笑顔で見ていた。
「ナナバ、助けて…。」
「ぇー?心配してたんだから大人しく抱擁を受けるといいと思うよ?」
にやにやと笑いながらカズハの頬をナナバはつつき困った顔になるカズハ。
しばらくそのままにすると三人が落ち着いたらしくやっとカズハは開放される。
「いやぁ、良かったよ。」
「おう。」
「ぐす…うん…。」
ハンジの言葉にクルオとミュールが同意する。
それに苦笑で返すカズハ。
「あ、医療班に行ってもう一度容態を見なきゃいけない人達がいるので行ってきますね。」
とカズハが言うと
「一緒に行く!」
そう3人に言われて困った顔になりナナバに視線をやると。
「良いんじゃないか?手伝って貰えば?」
そう笑顔で言われため息をついて
「手伝って下さいね?」
カズハが言うとそれぞれが返事を返した。

「軽傷者はこちらへどうぞ〜。」
そう間延びする声をハンジがだして軽傷者の手当をする。
カズハは重傷者である人間を見て回っていた。
それぞれの傷に合わせてきぱきとこなしていく。
ミュールは他の医療班の人間についてカルテを取り、クルオは患者を運んだり荷物を運んだりしている。
ナナバも軽傷者の手当をしていた。
処置をすべて終わらすとカズハの後ろから声をかける青年が居た。
「いやぁ、さすがあの人達の娘とその友達だよね。一人はうちのだけど。」
リシオがカズハの両親と面識があるのは彼が医者としての研修を受け持ったのがカズハの両親だからだ。。
それに他の医者が出向きで来ない調査兵団に着てくれるのがカズハの父親であるソルスティスぐらいなのだ。
もう一人シガンシナ区で来てくれる医者である、グリシャ・イェーガーという男性もいるが彼は中央からもお呼びがかかるので基本的にソルスティスが出向きでくる。
ので調査兵団は知見があるのだがソルスティスの妻でありカズハの母であるカグラは基本ローブのフードを深くかぶりソルスティスの後ろに控えているので容姿が知られていなかったりする。
「リシオさん。おつかれさまです。」
「あぁ、おつかれ。」
そう行って医療班の待機室である部屋へ入る。
「こちらがカルテです。」
カズハはそう言い重傷者それぞれの傷の容態や処置を書いたものを医療班の先輩である茶髪の青年リシオに渡す。
「いやぁ、助かるよ。流石にこうも忙しいとカルテ書いてられないからねぇ。」
「リシオ、軽傷者の方終わったよー。」
とひらひらとカルテを振ってリシオへ渡すハンジ。
「あぁ、ありがとう。ハンジ君」
そう言いハンジの頭を撫でる扉を背にしたリシオに後ろから扉を開けつつ。
「おい、兄貴荷物運んでおいたぞ。」
「あぁ俺の愛しい弟は可愛いなぁ。」
「おいこらやめろ!」
猫可愛がりするようにクルオの頭をリシオは撫でる。それにクルオは明らかに嫌がる。
クルオとリシオは並べてみるとそっくりな顔立ちをしている、ただクルオはやや目つきが鋭くリシオは優しい目つきをしているという違いがあるのだが。
そんなリシオとクルオのやり取りを見て重傷者も軽傷者も緊張の糸が解れ笑う。
「こっちもおわったよ。」
とナナバとミュールがやってきて支えてる状態のクルオを部屋に押し入れつつ扉を閉じる。
「あぁ、ナナバもミュールちゃんもありがとね。」
リシオはそうナナバとミュールの頭を撫でる。
それにナナバは「子供扱いするな…。」と恥ずかしがり、ミュールは照れたように笑う。
その時医療班の待機室の廊下側の扉がノックされる。
「どーぞー。」
「失礼します。」
間延びした声リシオが言うとエルヴィンが入ってくる。
「おー、エルちゃんどうしたん。」
「……その呼び方どうにかなりませんか。」
リシオにそう言われため息をついて物申すエルヴィン。
その呼び方にナナバとハンジが吹き出しナナバは肩を震わせ耐え、ハンジは爆笑している。
クルオとミュール、カズハは呆れた顔に成っている。
「いや、エルちゃんはエルちゃんだし?」
「お願いです…辞めてください…。」
けらけらと笑いつつ言われエルヴィンは肩を落とした。
「おい、バカ兄貴、エルヴィン班長が可哀想だろ…。」
「リシオおにーさんのあだ名の付け方って変だよね…。」
「我が愛しの弟とミュールちゃんにすってきなあだ名つけてあげようか?」
とにこやかに言われ、「結構です!」と同時に答える。
「なにバカなことやってるんですか、バカシオ。」
エルヴィンの後ろからそうルッツが不機嫌そうな顔で言う。
「お、るーちゃんも、今日は千客万来だねー。」
「怪我人の方が多いけどね。」
「小魔女先生のお友達の言うとおりだけどね〜。」
そうリシオはハンジに言う。
「なんでカズハは先生なんだ?というか小魔女って…。」
「だって今ここに居る人間で一番医学や薬学の知識は断然小魔女先生が一番だよ?あと小がついてるのはこの身長だね!」
クルオの言葉にぺふぺふとカズハの頭を軽く叩きつつリシオが答える。
「辞めてくださいこれ以上縮んだらどうするんですか。」
この中で圧倒的に身長が低くそのせいで兵士に見られなかったりすることが多いカズハなのだ。
「とりあえず…ルッツ副長、どうかなさったんですか?」
話が脱線したところをカズハが戻す。
「カズハさんありがとうございます…、いつもリシオは話を脱線させるので。」
と目元をもみほぐしていた。
「いや、今回は兄貴が悪いんじゃなくて俺が気になったから…。」
そうクルオが恐縮して言うとルッツがにこやかに笑い。
「大丈夫です、うしうしと脱線させたのはそこの馬鹿シオですから。」
「えぇえ?るーちゃんひどい!」
「とりあえず、カルテをよこせ馬鹿シオ。」
「ははーっ。」
敬語を常に使っているルッツがイラつき思わず乱暴な言葉に成ったのでリシオがまるで献上するようにカルテを渡すと受け取った後、リシオの後頭部を叩くルッツ。
「いでっ」
「痛くないでしょうが、この石頭。」
と冷たい目でルッツが言う。
「てへぺろ?」
「可愛くねぇよ兄貴。」
「じゃぁ、ふんべろりぃ。」
「この兄貴うぜぇ。」
「そんな!ひどい愛しの弟よ!」
「やめろ!ひっつくな!きもちわりぃ!」
そんな兄弟のじゃれ合いを背後にルッツはカルテを流し見する。
「ふむ…怪我が悪化での死者は今回は居ないようですね。」
「うん、これも小魔女先生のおかげだね〜。小さいときからの薫陶は馬鹿にならないよ。」
リシオはクルオを解放し視線を作業机の上の物に落とす。
それにルッツやエルヴィン、ハンジ、ナナバが興味深げに同じものに視線をやる。
「それは?」
「小魔女先生説明して下さい!」
「丸投げですか。リシオさん…。一応医療班班長なんですから…。」
「ぇー?」
「…わかりました…。僭越ながら説明させていただきます。」
「お願いします、馬鹿シオは気にしなくていいので。」
そしてその置いているものが止血剤であったり、止血しさらに傷口を保護できる布であったり、痛み止めや消毒液などなどというのを説明する。
報告にそういうものを仮導入したいと要請があったのをルッツは思い出す。
「それは…たしかに生存率が高まりますね…。」
「ですが四肢という部分の欠損にしか役に立ちません、さすがに胴体を欠損した場合は…。」
「それこそ”魔法”ですか。」
「えぇ、私や母は”魔女”という言われ方をしていますが、実際にそういう物が使えるわけではないのですから。」
できないことの方が多いと言葉無く続ける。
説明するためにエルヴィンや、ルッツの近くに居たカズハの頭をエルヴィンが撫でる。
それをルッツが苦笑してみてエルヴィンが頭を撫でるのをやめるとまた話しかける。
「ですがコレのおかげで圧倒的に救える人員が多く成ってます、ので作り方が秘するものでなければ教えてほしいのですが。」
「むしろ、秘するものではないので教えるつもりでした、効果は家族やよく来てくれる方は知ってますが。実際どうなのかとなりますから。」
「なるほど、ある種の実地実験だったわけですか?」
「実験というわけではありません。いくら父や母が医者や薬師が効果を保証しても、効果は見ないと信じられないでしょう?」
「それもそうですね。」
そう言い会話が終わる。
「とりあえず作り方はこれになります。」
とカズハは懐から紙の束をルッツに渡す。
「良いのですか?」
「私は作り方叩き込まれてますので。」
「ではお預かりします。」
そうカズハからその紙の束を預かる。
「エルヴィン君、再編成の話し任せましたよ。」
「わかりました。リシオあなたも作り方わかってるんですから来なさい。」
「るーちゃん、引っ張らないで!普通についていくから!」
「早く行きますよ。」

ルッツがリシオを引っ張り足早に部屋を出ていく。
「さい」
「へん」
「せい?」
とクルオとミュール、そしてカズハが同じ方向に首を傾げつつ言う。
それにハンジとナナバが吹き出して肩を震わせる。
エルヴィンが喉をわざと鳴らし
「あぁ、左翼側が君たちと数人の兵士たちだけになってしまったから、壁内に戻るために再編成が行われてね。」
「そうですか。」
「あぁ、重傷者は中央の補給班とともに、その後に軽傷者、そして右翼側だったものが取り囲み進むことになる。」
「クルオとミュールはフルーレ班で伝達係に成ってくれ。」
「ハッ!」
「カズハは俺の班に入ることになった。よろしくな。」
「え、あ、はい。」
「よろしく、カズハ。」
「よろしくお願いします。ナナバ。エルヴィンさん。」
「ナナバ!エルヴィン!ずるい!」
そういうやり取りに不服そうにハンジが言う。
「団長とグラーヴェ分隊長が決めたことだ。」
「ぐぬぬ…でもなんかずっこいぞ!」
「もう決定されたことだからな。」
「むぐぐ…。」
ハンジは悔しげに押し黙りおとなしくなりつつカズハに抱きついた。

ふとエルヴィンは数十分前の出来事を思い出していた、エルヴィンやルッツが此方に来る前を。
エルヴィンはグラーヴェが待機している部屋に呼び出されていた。そこにはルッツがも居た。
「カズハを私の班にですか?」
「あぁ、彼女を潰したい人間と取り込みたい人間が目に見えてきてね?君の班なら問題ないだろ?」
そうグラーヴェがエルヴィンに言う。
「団長からは?」
「私に一任するそうだ。だから”魔女”を君にあげようと思ってね?」
エルヴィンはそのグラーヴェの言葉にぴくりとする。
「”魔女”に執着している君だ。彼女を活かそうと思るだろ?」
「…そうですね…。」
「彼女は君の頭脳と同じくこれからの先必要と成るだろう。だから食い潰されるわけにも、腐らせるわけにも行かないからね。」
そういうことを言っていたのを記憶の海から引き出していると思考に浸かる時間が長かったのかカズハに心配そうに呼びかけられていた。
はっとし呼びかけられていたカズハを見る。
「大丈夫ですか?」
心配そうにエルヴィンの頬に触れようとしたところで止まっていた。
身長が低い彼女がそれをするために椅子を使ってエルヴィンに触れようとしたのが窺い知れる。
「あぁ。」
「疲れでも出ましたか?」
「いや、どうかな…。みんなは?」
「野戦食を取りに行ってますよ。」
そう言いつつ離れたのにやや寂しく思うエルヴィンの後ろにカズハは別の椅子を持っていく。
「カズハ?」
「エルヴィンさん座って下さい、休める時は休まないと。」
「…ありがとう。」
柔らかく微笑み言うそれに照れたように笑い返すカズハ。
エルヴィンはその椅子に腰掛けカズハを観察し、カズハは翌日のための包帯や薬などの準備をする。
穏やかな静けさが二人にはあった。
そんな静けさがしばらく流れているとそれぞれ違う足音が遠くから聞こえてくる。
「おや。戻ってきましたね。」
そうカズハのつぶやきが静かなその中で意外と大きく聞こえる。
カズハは準備を終わらせてテーブルを拭く、すると強く扉が開かれる。
「ハンジ、少しは大人しく扉を静かに開きましょうよ。」
と呆れた声でいうカズハに悪びれずに「ごっめーん!」とハンジが返す。
ふと野戦食を持ってきた、ハンジやナナバ、クルオとミュールの4人の様子がおかしいのにカズハとエルヴィンは気付く。
「どうしたんですか。4人共。」
それに体を跳ねさせ驚く4人は口をそろえて「なんでもない!」とカズハに答えた。
「それなら良いのですが。」
「ミュール、クルオ、カズハの手伝いで負傷者に配ってきてよ!」
「そ、そうだな!」「そうだね!」
そうハンジが言うとミュールとクルオはよそよそしく返事をしてカズハを引っ張り負傷者たちに野戦食を配りに行った。
そんな三人を見送り
「で、なにがあったんだい?ナナバ、ハンジ。」
残されたエルヴィンがそう二人に問う。
「カズハの悪口を声高らかに言っている人が居てさ。」
「それを信じてる人も居て気分が悪かったんだ。」
思い出すだけで腹立たしいのかハンジは前髪を掻き上げ、ナナバは腕を組み伏せ目で言う。
「心配なのが単発的に行動しようとする奴らかな。」
「そうだね…、壁外調査中なら大人しいだろうけど。」
「そういう人間が行動に移すか…。」
ナナバとハンジ、エルヴィンが頭を悩ませそう言う。
「その時はその時で正当防衛で黙らせますけど。」
と後ろからそんな風に言われて弾くように背後にある負傷者たちが休んでる部屋に通じる扉を見るとカズハが何でもな下げな顔でそう言っていた。
「カズハ、いつの間に…。」
「私の悪口を言っている人からですかね?」
「始めっからじゃないか!」
「薬も配らなきゃ行けませんし包帯なども変えなきゃいけない人も居るので、そのために戻ってきたらそういう話をしていましたから。」
そう困った笑みを浮かべ言って必要なものを保管しているところへ行き使うものを取り出していく。
カズハのその横顔には特に憤りも何も無いのに3人は心配になる。
しばらくカズはが包帯や薬を取り出す音だけだったが。
「カズハ、怒っても良いんだよ?」
とナナバが言うときょとんとして3人の方を見る。
「本当に気にしてないんですけど。そんなに心配ですか?」
「心配に決まってるだろ?」
ハンジがカズハにそう返してエルヴィンとナナバは頷く。
「私を見て認めてくれている人が居る、私はそれで満足で満ち足りています。」
そう笑顔を三人に見せて「失礼しますね。」と良い隣の部屋へ戻るカズハだった。
「…それでも心配なものは心配なんだよ。カズハ…。」
とハンジが呟いてナナバとカズハをどうやって一人にしないかを話し合う。
ふらりとエルヴィンはカズハたちがいる部屋へ行くとカズハは負傷者と話して居るのをエルヴィンは壁に背を預け見つめていた。
ミュールやクルオが野戦食を配り終わってもカズハは負傷者達の診察を続けていた、リシオや他の医療班の人間が戻ってきて会話した後に戻ってくる。
「エルヴィン班長?」
「戻ろうか。」
「え、あ、はい。」
そう言ってさっきまで集まっていた部屋に戻るとクルオとミュール、ハンジとナナバがカズハをお帰りと迎え入れる。
「カズハおつかれさまー。」
「俺腹減った…。」
「私もお腹すいた…。」
「とりあえず待機する部屋行こう。」
「さんせーい」
そんな流れるように会話がされ、エルヴィン班とフルーレ班の一部が使う部屋に移動するのだった。

夕食を終え、のんびりと寛ぐ。
やはり初めての壁外調査でいくら訓練で体を鍛えていたといえどもクルオとミュールそして他の同期たちははもう夢の中の住人になっていた。
ナナバとハンジは何か夢中で話している。ミケは明日に備え眠り。カズハは己の持っていた剣の手入れをしていた。
ふとカズハの隣に陣取っていたエルヴィンが疑問に思いカズハに近寄り。
「カズハ。」
「なんですか?」
「私達が行った時使っていた槍はどうしたんだ?」
「あぁ…これですよ?」
そんなもの持っていなかっただろう?とエルヴィンが疑問に思いカズハに聞くと手入れをしている剣を見せる。
確かにあの時に見たいつも使っている短槍の矛より長く見えるが紛れもない剣なのだ。
「剣だと思うのだが…。」
「あぁそれはこうして使っていたので。」
そう言ってもう一つ連結された分断された棒を取り出し組み立てると棍になり、そこに鞘をつけたまま剣を金具で固定すると短槍になった。
「強度は大丈夫なのか?」
「えぇ、問題ありません。母が仕込で持つのと同じものですから。」
だがあっという間に分解してしまうのでエルヴィンはそう思えなかった。
手入れをしている剣に反射した光がカズハの目に射し込みカズハの瞳の色が深い青に変化する。
その手入れをしているさまは真剣そのもので、いつも柔らかく微笑むカズハとはまた別に視線を奪われ見続けてしまう。
エルヴィンは何も言わずにカズハのその手入れの様を見守り続けていた。
しばらくするとカズハが真剣な眼差しのまま剣を鞘に収める。と溜息の様な息をつく。
エルヴィンはカズハから視線を剣にやるとあまり飾り気が無いのだが、鍔の部分と鞘のカズハの手に隠れていた部分に見たことのない花の細工や絵描かれているのに目ざとく気付く。
「カズハこの花は?」
そうエルヴィンは言って指で示す。
「私の名前の由来の花ですね。あと香り袋の香りの元の花でもありますよ。」
そうジャケットの内ポケットから小さな袋を取り出し、それをエルヴィンは借り匂いを嗅ぐとたしかにカズハの香りだった。
「良い香りだな。」
「ですよね。私好きなんです。」
「そうなのか。」
カズハが笑顔で言うと思わず微笑みまたか香りを楽しむ。
気に入ったのかそのまま袋の布の感触も楽しむように弄ぶ。
「気に入ったのなら予備差し上げますが…。」
「いや、こちらのほうが良いんだ。だめかな?」
「別に構いませんけど…良いんですか…?それで。」
長く愛用していたのかやや布の色が落ちているが目立った汚れもほつれもない。
「あぁ、これが良い。」
「ならほつれたり、香りがしなくなったら教えてください。」
と言って予備を取り出し内ポケットへ入れる。エルヴィンも同じく己のジャケットの内ポケットに香り袋を入れた。
「ありがとう、カズハ。」
そうエルヴィンは笑みを浮かべ礼を言うのにカズハは照れ笑いで答える。
そしてお互いに眠るためにエルヴィンは陣取っていた位置へ戻り横になり、カズハもランプの灯りを弱くし横になって瞼を閉じる。
先程より幾分も機嫌が良さそうなエルヴィンにカズハは嬉しく思う。
同時にハンジやナナバは無論エルヴィンにも心配をかけて申し訳なくなり、自分は頼りないのだろう。とも思う。
明らかに自分は他の団員に比べ身長が低く。平時であると兵士として見られることが無いのだ。
たとえ幼い頃から母親に武術を叩き込まえていても、母親の様に身長が伸びることも筋肉がつくこともなかった。
故にカズハは母親よりも力に頼らない戦い方を模索してきた。素早く、鋭く、正確に。
力でぶつかれば圧倒的に己は不利なのだから。
瞬発的ならば押すことは可能だが、続ければ力負けするのは火を見るよりも明らかなのだ。
ふと枕元に置いた剣を自分の体の上に乗せ抱きしめる。
「剣の重みは、命の重み。」
「その剣は、そなたの生であり、死である。」
「それを抜く時は、自分の命をその刃に託したことと覚悟せよ。」
この剣を授けられた時にそう母親が己に言ったことを思い出す。
翌朝壁内へ帰るのだろう。
「…明日は…これを抜くことがなければいいな…。この剣を抜く時は危機的状況下だから…。」
「無事に…みんなで…壁内に……。」
うわ言の様に呟き剣を抱きしめ、抵抗すること無くそのまま眠りに落ちた。
そんなカズハをエルヴィンは見守りカズハが眠りに落ちたのに気づき自分も目を閉じ眠りにつく。
どうかカズハの祈りが届くようにと音無く口で言葉を転がしながら。







この残酷な世界では



その祈りは



その願いは



余りにも儚かないものだった

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