死を背負う者達






陣形でエルヴィン、フルーレそして他の幾つかの班は負傷者達の護衛として任についた。
その中にカズハに悪評をつけようとした女性兵士たちの姿もある。
警戒を怠らず進みもう少しで壁が見えてくる頃合いだった。
カズハは先程から隊から右側をしきりに気にし、それを班の全員が気にしていたのだが。
ミケがハッとし
「右舷から巨人の匂いがするぞ!」
そう声を上げるとフルーレが鼻で笑う。
「匂いで判断なんてできるわけ無いだろ。」
ミケの能力を信用していない者はそう笑う。
だがその能力を信用しているものやミケという人物を知っている人間は警戒を強めた。
「巨人なんてもう来ないだろ。そろそろ壁内だ。さっさといくぞ。」
とフルーレが言い終わったあとに地響きを全員が感じた。
「なっ…!」
土埃が立ち上っているのを確認できる。
「クルオ、ミュール伝令を!」
「許さないぞ!その二人は俺の班員だ!」
「なっ!二人は伝令役だろう!」
エルヴィンの指示にフルーレが割り込み言う。
それにエルヴィンが反論するがフルーレは喚き立てる様に許さないという。
「そうやって俺の班員を減らして俺を殺す気だろう!」
終いにはそう喚く。
どんどんと近づく巨人の数が余りにも多いのが確認できる。
それに溜息をエルヴィンはついてナナバの方を向き。
「ナナバ、済まない代わりに伝令役を。」
そう言うとナナバは頷き後方に居る本隊へ馬を走らせた。

軽い狂乱状態に陥っているフルーレにエルヴィンは舌打ちをしてしまう。
「負傷者達を本隊の方へ!」
「いや!負傷者は囮にする。」
エルヴィンの声を遮りフルーレが言う。
「何を言っているんだ…お前は…。」
それに唖然としてフルーレに聞き返すが、フルーレはにたりと笑い答える。
「役立たずを抱えてられるわけないだろう?」
エルヴィンとフルーレが睨み合っていると馬が高く鳴き負傷者を乗せた馬車がかなり近い距離に来た巨人たちに突っ込んでいく。
馬車に乗っていた負傷者たちはフルーレを信じられないという顔をして見つめていた。
そしてまるで待っていましたと言うように巨人たちは負傷者を掴み己の口に運んでいく。
動けない負傷者はもがくだけでそのまま巨人たちに喰われ、辛うじて動ける負傷者は逃げようとするがやはり捕まってしまい喰われてしまう。
御者は逃げたのかと思ったのだが逃げていなくぴくりとも動かず巨人に食べられてしまう。
自分たちのうしろであり負傷者の馬車が待機している方をみるとカズハを悪く言っていた女性兵士たちが馬車の御者を殴り馬を走らせているところを目撃する。
「君たちは何をしているんだ!」
「フルーレ班長の命令に従っています!」
笑顔で女性兵士が答える、そのまま女性兵士はカズハと目を合わせてにたりとカズハを嘲笑った。
それにカズハは馬を駆け出させようとするがミケに止められる。
血で彩られた地獄が作り出されていく
断末魔があたりに轟く。
引きちぎられる音、噛み砕かれる音、飲み込もうとする音。濃い血の匂い。
それに吐き気を催すのは当たり前だった。
カズハも例外ではなく口元を抑える。
そして涙が頬を伝っていく。行きに救えた命が己を優先した者達によって指の間からぼれ堕ちていく。
「さぁ!奴らは餌に気を取られてる新兵共!行けぇ!」
そうフルーレが言い自分の班の新兵達にそう言い向かわせようとする。
だが進まない新兵に業を煮やし一人の新兵の乗る馬を蹴り強制的に走らせる。
馬が暴走し自由が利かなく巨人たちの前に放り出されてしまう、そして全員の目の前で四肢を引き裂かれ食べられていく。
「さっさと行かねぇと次、ああ成るのはお前たちだ!さぁ!行け!」
そうフルーレが言うと新兵達は馬を走らせる。その中にミュールやハンジが居た。
新兵達は一様に恐怖に顔をひきつらせ巨人たちへ向かっていくしかなかった。
「フルーレ!!」
エルヴィンがフルーレに馬で近寄りつつ怒鳴り、フルーレは気が触れたかのように笑う。
そのときフルーレから甘ったるい匂いがエルヴィンの鼻に届く。
「おい、エルヴィン、そこの新兵も奴らに向かわせるんだ。そうすればもっと食いついて俺達が有利になる。」
カズハとクルオに視線をやりそうフルーレが嫌らしい笑みを浮かべエルヴィンに言う。
「断る。フルーレ、君は落ち着いて、早く新兵を呼び戻せ。でなければ全滅する。」
「はっ、代わりなんていくらでもいるだろうが!」
とまたフルーレがエルヴィンを怒鳴り散らす。
「エルヴィンさん!」「エルヴィン!」「エルヴィン班長!」
カズハとミケそしてクルオの叫び声が同時にエルヴィンの耳に届く。
「体勢を低くして!」「体勢を低くしろ!」「体勢を低く!」
その言葉どおり体勢を低くすると巨人の手が横斬りフルーレを掠め取りそして口に運んで喰らったのが見えた。
潰れる様な音があたりに響く。
前を見据えると前に行った新兵達から抜けてくる巨人たちがこちらに走って来ている。
エルヴィンは目の前でフルーレを喰らった巨人の項を削ぎ落とし
「此方にくる巨人を撃破せよ!後ろには負傷者はもう居ない!抜けてもどうにかするだろう!」
そう号令をかけて戦闘が開始された。



カズハは焦っていた。友人達を失いたくないと。
その機械仕掛けの翼を使い巨人たちを殲滅していく。
だが雪崩のようにこちらに来る巨人が多く分厚い壁として立ちはだかる。
巨人の項を削いでいくのだが届かない。
そんなカズハの視線の先でまた一人友人が食い殺される。
「っ!!」
音にならない悲鳴が口から漏れる。
母親であるカグラに言いつけられている「どんなときにでも冷静であれ。」という言葉がゆらぎ箍が外れそうになる。
必死に感情を押し殺したのだが目の前でミュールが貪り食われたのをカズハは見た。
目を大きく見開き。吼える様な声を上げる。
カズハは己の中で何かが切れたのを感じた。
怒りに任せてブレードを振るう。
それでも巨人は減らない。
体が何処かで軋んだような音が聞こえる。
しかしカズハはそんなことは知らない、というようにブレードを振るう。
体のどこかに負担がかかり痛みを感じる。
しかしカズハはそんなことを感じない、というように飛び続ける。
いつもの冷静であるカズハだったら気付く巨人の手に捕まりそのまま大地に落とされる。
「かっはっ!!」
受け身は辛うじて間に合ったが背中を強打し上手く息がつまり呼吸が上手くできなくなる。
「カズハ!!」
誰かの叫ぶような声がカズハの耳には遠く聞こえる。
ふらふらとカズハが立ち上がり、構えようとするのだがカズハの足に激痛が走り呻き声をあげる。
先程巨人に掴まれ叩きつけられた時に負傷したのだろう。
だが立ち上がる
しかし
眼前に大きく口を開けた巨人が迫る。
その光景がゆっくりと流れる。
避けれない。
そうカズハは思った
その瞬間何かに横に押し倒される。
「このバカ!バカカズハ!」
クルオがそうカズハを罵倒する。
「あぁ…っクルオ…腕が…!肩がっ!」
そんなクルオをカズハが見上げると右側の腕と肩があるべき場所が空白だということに気付き。
目を見開き震える声でカズハが言うのにクルオが苦笑する。
「へへっ、へまっちまった。」
ニッと歯を見せるように笑う、クルオが問題ないとみんなにいう時に良く見せた笑顔なのだ。
「カズハ動けないんだろ。守ってやるからな。」
「無茶だ!クルオ!逃げるんだ!」
「ばーか、意地ぐらいはらせろよ。」
そう言ってカズハを守るようにクルオはその片腕で巨人の腕を切り裂く。
カズハも立ち上がり参戦しようとするのだが激痛により動けない。
「なんで動かないですか!今動かないと意味がないのにっ!!」
血を吐くようにカズハは言う。
そして片手でもクルオは中型の巨人に勝利を収める。
そんな時
「カズハ!後ろだ!」
エルヴィンの声が届き後ろを見ると小型の巨人が口を大きく開け突っ込んでくる。
「っ!!一矢は報いる!」
そう言ってブレードを抜き放ち自分を食わせてでも巨人の項を狙う。
だがそんなカズハ黒い影が覆った。
濃い血の匂い。そして生暖かい液体がカズハを濡らす。
「へへ…カズハ…大丈夫か…?」
「クルオ……なんで……っなんで庇ったんですか!!」
クルオの左脇腹を食いちぎる小型の巨人はクルオのブレードによって項を削ぎ落とされる。
その御蔭でカズハとクルオの周りには巨人が居なく成る。
雑踏が大きくなり遠くで多くが戦っているのがわかる、本隊が合流したのだろう。
クルオはこれで大丈夫だと思い、そのままカズハに覆いかぶさるように体勢を崩す、そんなクルオを抱きとめ。
カズハは止血しようと触れるが大きく腹部を欠損しているのに気付く。
内蔵も傷ついているのだろう、どうしようもないというのはカズハは解った。
「意地ぐらい…張りたかったから…さ…。」
「意地ってなんですか!」
それでも傷口を地面につけないようにしつつゆっくりと横たえ、止血のための布を取り出そうとするカズハをクルオが止める
「俺の…怪我の…状態解ってんだろ…。」
「わかってます!!だから応急処置をっ!」
「ばーか…、もう…致命傷だって言うの…自覚してんだよ…。俺の…兄貴は…医療班の…班長だぞ…。」
「ですが、助かるかもしれないでしょ!だからっ!」
「助からねぇよ…、冷静の判断必要なんだろ…。ちゃんと見ろよ…。助かるか…?」
「…っ!」
「助からねぇだろ…。」
「どうして…庇ったんですか…。」
カズハの涙がこぼれ落ちクルオの頬を濡らす。
めったに見れないカズハの目が瑠璃色になるところを見れクルオは嬉しくなって笑ってしまう。
「意地だって…言ってるだろ…。」
「カズハ…クルオ…。」
あくまでもカズハに対してその意地を言わずに居るとカズハの後ろからエルヴィンが声をかける。
「エルヴィン班長…俺はもうだめみたいす…。」
「そんなことないですっ!戻ればきっと……!」
助からないとわかっているだがクルオを救いたいと言う風に動くカズハをエルヴィンは辛そうな顔で見つめる。
「エルヴィン班長…、頼みます…。」
「あぁ。」
そうクルオが言うとエルヴィンはカズハに手刀を落とす。
「どうし…て…。」
「生きてほしいに決まってるだろ…バカカズハ…。」
気を失ったカズハをエルヴィンは大切に抱き上げる。
悲しげなしかし安心した笑みをカズハに対して浮かべる。
「最後に聞いてもいいか?」
「なん…です…。」
「なぜ庇った。君だけでも助かったはずだ。」
そう冷静に言うエルヴィンにおかしそうに吹き出し。
「男が…、好きな女を庇うのに…、理由はいらないでしょうが…。」
「そうか…手強いライバルだな。」
「班長に勝てる気がしないですけどね…。」
”だった”など過去にするのではなく、そう言うエルヴィンに嬉しそうにクルオは笑う。
「エルヴィン班長…カズハを…頼みました……。兄貴には…弟は意地を通したと…伝えてください…。」
そう言った後クルオは大きく息を吸った後
その少年らしい好奇心旺盛な光をいつも宿していた明るい茶色の瞳から光が失せ、瞳孔が大きく開き呼吸が無くなる。
そして体の力も全て抜け動かなくなる。
多くの同胞を見送ってきたがやはり慣れるものではない。とエルヴィンは思う。
そしてカズハを片手で抱き上げつつ遺品にクルオの肩章と髪の毛を回収する。
「あぁ…リシオには伝えよう。」
エルヴィンは小さくクルオに言った。







嗅ぎ慣れた薬品の匂い、布が揺れる音。
そういうのを感じカズハは重いまぶたを開く。
「あれ…ここは?医療室…?」
ゆっくりと起き上がり視界内に注意を向けると調査兵団本部にある医療室だと言うのがわかる。
体に負担に成らないよう、病衣を着せられているのもわかり戻ってきたんだなとも思う。
床に足をつけ立ち上がろうと体重をかけると痛みによってバランスを崩し倒れ込みそうになるが誰かに抱きとめられる。
「まったく…無理をする……。」
後ろからそうエルヴィンに抱きすくめられる。
「エルヴィン…班長…?あれ??」
苦笑しつつ疑問符を出しているカズハを抱き上げベッドに戻す。
そしてサイドテーブルにおいてあった水差しからコップに水を注ぎ入れ、薬を渡しカズハが薬を口に含んだあと水を渡し飲ませる。
ずっと左手側の方に座っていたのだろうか、本が幾つか置かれているのがわかる。
「カズハ、君の父親が心配していたよ。かなり体に負担をかけていたようだね?絶対安静だそうだ。」
医療班が足りないのが恒例なので外部協力の医者としてカズハの父親が出向いている。
カズハも重症の方だったので早めに見て病室に放り込まれたのだった。
なお着替えさせたのは彼に護衛として付き従っていた母親なのだが、フードをすっぽりとかぶっているので性別は女性に見えてもどんな関係性なのかは知られていなかったりする。
「そう…ですか…。」
顔を俯かせ右手で左手をぎゅっと掴む。
「カズハ。」
「なんですか…?エルヴィン班長…。」
そんな姿にエルヴィンは苦笑しカズハの顔を両手で包み、カズハの顔を此方へ向かせ固定し己の顔を近づける。
それにカズハは驚いて逃げようとするがそれをエルヴィンは許さない。
エルヴィンの澄んだ蒼穹の眼にカズハが写り。
カズハの光により瑠璃色になったその眼にエルヴィンが映る。
「カズハ、君は良くやった。」
「エルヴィン…班長…。」
なぜ褒めてきたのか解らずカズハは目を瞬かせる。
「君とクルオが巨人を倒していたお陰で、全滅には至らなかった。ハンジや他の新兵も助かった。」
その言葉にカズハは目を瞬かせる、そしてみるみる瑠璃色の目は涙で滲み揺れる。
光の屈折でさらに青みが強く引き立ちまるで湖や本で知った海のようだとエルヴィンは思う。
「エルヴィン…さんっ……っ」
カズハの目から涙ががこぼれ落ち、カズハの頬とエルヴィンの指を伝う。
「でも…私…私はっ!…クルオも…ミュールも……っ…!」
はらりはらりと透明な涙が落ちてシーツを濡らしていく。
宝石のような目から流れ落ちる宝石のような涙にエルヴィンは強く心が惹きつけられる。
「ハンジや他のみんなが生きているのは嬉しいっ…!けど…!」
エルヴィンはそのカズハの涙を優しく拭う。
それでもはらりはらりと流れ落ちる涙。
その言葉以降カズハから言葉が漏れず静かに泣き続ける。
しばらくしエルヴィンはカズハの目尻に唇を寄せ涙を舐めとる。
それにカズハは面食らって固まる。
「涙止まったみたいだな…。これ以上泣いたら、眼が溶けてしまうと思ってね。」
いたずらっ子のような笑みを浮かべそういうエルヴィンに顔を真赤にし、するりと拘束から抜け出て布団に潜り込むカズハ。
その様子に思わずエルヴィンは笑い声を上げクククッと笑う。
「こういうことは、どこぞのお姉さま方にしてください…っ!」
「恥ずかしがるカズハに俺はしたいなって。」
「こんなちんちくりんにして何が楽しいんですか…!」
「照れたカズハが見れて楽しい。」
「エルヴィンさんのたまにあるいじめっ子…!」
「可愛い子をいじめたく成るのは普通だと思う。」
と言うエルヴィンに思わずカズハはため息をつく。
「カズハ。」
「なんですか…。」
「クルオの死に意味を持たらすのはカズハ、君だ。」
そう言って潜り込んだカズハの頭を撫でる。
「はい…。」
「カズハ、後悔するな。」
低く静かな声が耳に届く。
「後悔の記憶は次の判断を鈍らせる。そして決断を他人に委ねようとするだろう。そうなればあとは死ぬだけだ。」
その言葉に言葉は重く強い。
それはエルヴィンが目の前で見てきたものなのだろう。
「結果など誰にもわからない。ひとつの決断は次の決断の材料にして初めて意味を持つ。」
まるで突き放す様な言葉だがカズハにはそうは思わなかった。
むしろ己の母が言っていた言葉と酷似する。
「母と同じことを言うんですね。」
そう布団から顔をだしたカズハが笑っていう。
「母も、「後悔はするな。後悔は意思を刃を鈍らせる。だが後悔の原因は反省しろ。それが糧と成る。」とよく言ってましたから。」
「そうなのか。」
泣き疲れと薬、怪我のせいで眠そうにするカズハの頭を撫でる。
「はい、…でも私は先程の通り、まだその境地に至れていないですけど…。」
「カズハ…。」
うとうととうわ言の様にそういうカズハ。
「これからも大事なものがすり抜けて、立ち止まると思います。」
眼をつむりそう続けるカズハになでる手が止まってしまう。
そして目を開いて視線が合ったカズハの瞳には強い意思を感じさせる光が宿っていた。
「でも先には進みます、進んでみせます。それが死した人たちのクルオやミュールの手向けや意味と成るなら。」
その光に圧倒されつつカズハの言葉をエルヴィンは静かに聞く。
「私がなせることをなします。」
そう言い終わるとまたうとうととするカズハの頭を微笑みながら撫でる。
「あぁ、俺は見ているよ。」
「エルヴィンさんが見ているなら…頑張れそうです……。」
へにゃりと嬉しそうに笑いうとうととする。
そんなカズハの頭を優しく撫で続けているとそこへノックが聞こえエルヴィンは返事をする。
「失礼するよ。」
「ソルスティス先生。」
「とうさま…?」
その男性の声にカズハはぴくりと反応する。
ソルスティスはそのままエルヴィンの向かい側であるカズハの右側へ。
そしてカズハも顔をだす。うとりうとりと船を漕ぐような状態をみてソルスティスは苦笑を浮かべ、脈拍を図るためにカズハの手を取る。
エルヴィンはそんな父といわれたソルスティスを盗み見る、たしかにその顔立ちにカズハは似ている。
一番似ているのは纏うその雰囲気だが。
「あぁ、眠そうだね…。大分痛みは無いかな?」
「体重をかけようとすると痛い…。」
安心しきった顔で言うカズハに微笑みを浮かべるソルスティス。
若く見える彼は父親に見えず思わず嫉妬をしてしまう。
「じゃぁしばらくベッド生活だね。カグラと同じく回復力高いからすぐ治るだろうけど。」
「ん…。」
うなずくとその時黒い影は走り抜けカズハの右手側にぼすりと何かが飛び込んでくる。
「ハンジ…あぶないよ…?」
そう走り込んできた黒い影であるハンジへカズハが言う。
「カズハぁ…。よかった…生きてた…ぁ。」
そのままカズハの胸に顔を埋め泣き出す。
そんなハンジの頭をうとうととしつつも手を伸ばし撫でる。
「…ここは病室なんだけどねぇ…。あとカズハはけが人…。」
「まぁまぁそう言わないであげてよ、カグラ。」
不服そうに言うフードを深く被った人物がそういうとソルスティスはその人物 カグラを宥めるように言う。
「エルヴィン・スミス。」
「なんでしょうか。」
「上司が呼んでいたよ。行ってくると良い。」
と愛想無く言う、それに警戒状態のカズハがだぶりつつ返事をする。
「そうですか、判りました。」
「また来るならおいで。」
そうソルスティスが言うと礼をしエルヴィンは部屋を出る。







からりと静かに人気のない医療室の扉が開かれ、一人の女性兵士が入ってくる。
彼女の顔はまるで能面の様な表情のままカズハの元へ行く。
静かに呼吸をするカズハに能面だった表情が笑みを浮かべる。
「悪い”魔女”は退治しないとだめよね?」
みるみると笑みが醜悪なものに変わり闇に冷たい光を放つナイフが抜かれる。
女性兵士はそのままカズハへナイフを振り下ろした。
澄んだ金属音が聞こえ女性兵士ははっとした顔をしみる見る顔を憎しみの表情に変化させる。
振り下ろしたナイフをいつも持ち歩いている剣で受け止めたカズハが居たからだ。
「さすが悪い”魔女”ね!!」
そう言いまたナイフを振り上げた後に振り下ろそうとするが。次の瞬間何かに女性兵士は吹っ飛ばされた。
「ごふっ!」
勢い良く廊下側の壁に叩きつけられた。
激しく咳き込みつつ顔をあげると石突の部分を肩に当てられる。
「なにすんのよ!」
フードを深く被った人物に石突の部分を当てられ先程吹っ飛ばされたのもこの人物だとわかり激しく怒りを見せる。
「それはこっちのセリフだ、なんでナイフをカズハに振り下ろした。」
ソルスティスが怒りを見せ言うと女性兵士は楽しそうに笑う。
「悪い”魔女”の退治なのだから問題ないもの。」
ケラケラと女性兵士は笑い続ける。
「依存性の高い危険な薬物を与えフルーレ班長を死に追いやったのはその”魔女”だから!!」
と今の騒ぎで駆け込んできた兵士たちの前でそう女性兵士は声高らかに言う。
「だから悪の”魔女”を退治しないと!」
野次馬の兵士たちがカズハに視線をやるのに満足気に女性兵士は笑う。
その中にエルヴィンやルッツやリシオがいるのにほくそ笑む。
「そういうことは余り言わないほうが良いよ。メンティーラ・リューゲ。」
フードをかぶった人物がそう言うと女性兵士メンティーラが体を跳ねさせる。
リシオが呆れた声色で続ける。
「あの時物資の薬は僕達、医療班が検品したからね?そんな危険な薬入れるわけ無いじゃないか。」
「グラーヴェ分隊長の命により、私も見ていました。」
「そもそもカズハが身につけていた応急手当ようの鞄は僕が預かっていたものだし、カズハの荷物は医療班預かりだったからね?」
そんなもの持ち運ぶことなんてできないとリシオは続ける。
「あとその発言は、僕達医療班を悪にする言葉なんだけどそれも承知かな?」
笑顔でリシオが言うとみるみる顔色が悪くなり。
「え、そんなことないです!」
「そんなことあるだろう?それに医療班は彼女自身の監視でもあるんだよ?”魔女”と呼ばれている人間の人となりとかね?」
そうリシオが笑顔で言う。
メンティーラはその言葉に目を見開き驚く。
医療班全員とカズハは仲がいいところしかみたことないのだ。
エルヴィンも驚きそしてそのままルッツを見るとルッツが頷く。
本当のことのようだとエルヴィンは把握しつつもう一つ否定材料を落とす。
「それと、カズハには不可能だ。」
そう冷静にエルヴィンが言う。
「そもそも、カズハはフルーレとの交流はないのだから。」
そのエルヴィンの言葉でざわめきが消え一気に静寂に落ちる。
「う、嘘よ…。」
「嘘ではないよ?では君以外に聞こう、そこの”魔女”と呼ばれている彼女が今回問題を起こしたフルーレとともに居たところを見たというものは居るかい?」
ルッツがそういうと「そう言えば見たことがない」と口々にその場に居る他の兵士たちが言う。
しばらくするとまた静まり返りメンティーラを周りが見つめるのだ。
そして静かななかに
「それに、なぜその薬が依存性が高く危険なものだと君は”知っている”んだ?」
エルヴィンのその落ち着いた声は大きく響いた。







数時間前。
壁内に帰還ししばらくした後。
「いつから調査兵団は毒物を服用するようになったんだい。え?」
唐突に入ってきたフードをかぶった人物が団長の目の前の机を両手で叩きつけそういう。
この部屋に来ていたエルヴィンやリシオ、ルッツ、副官であるキース、そして団長であるマリクが居た。
「いきなり来て不躾だな…君は…。」
「不躾にもなるさね。」
不機嫌そうにいう女性をキースや他の分隊長が引き離そうとするがピシリと固まり動けなくなる。
エルヴィンとリシオ、ルッツにもその人物から眼が離せなくなる。
本能的に危険と感じたのだ。
まるで刃物を突きつけられている感覚をここに居る人間は一様に感じただろう。
声からして女性だろうとも思うのだがいかせん身長が高いと離れたところに居たエルヴィンやルッツは思う。
リシオは固まって呆然としている。
「殺気を出さないでやってくれ。」
マリクが静かにそして呆れて言う
「なら話を聞くと約束するんだね。」
「約束しよう。そして君のストッパーのソルはどうした。」
「そろそろ。」
「カグラ!いきなり走ってどうしたんだよ!」
「来たようだね。」
「そのようだな。」
とマリクは明らかにホッとしたような顔に成る。
「カグラ、また殺気ばらまいたの?駄目じゃないか。」
呆れて言う銀髪の青年のように見えるソルスティスが言う。
「理由は今から言うよ。」
「我々が毒物の服用をするようなったのか、と言っていたがそれかい?」
「あぁ。」
そう返事をしなぜこういう行動を取ったのか説明する。
持ち帰られた一部の死体からその毒物独特の匂いがしたことと他の兵士数名からもその匂いがすることをカグラは言う。
それは依存性が高く服用した時は安心感を得られるが効果が切れれば不安感を増大させそれしか考えさせられなくするという効果がある毒物だと言う。
不安感を拭うためにまた摂取するのだがそれは前回に服用した量より多くなるとも。
さらにある種の催眠効果があるともつけ。
そしてその特徴的な匂いはかなり甘ったるい匂いだとカグラと呼ばれたフードをかぶる人物が言う。
その言葉にカグラが嫌悪を表しながら不躾にここに来た理由をここに居るカグラを知っている人間は納得し
エルヴィンはその毒物の特徴にはっとする。
壁外調査をしているときのフルーレの香りが甘ったるいものだったのをミケとともに話していたことと、問題を起こした時に強くその甘ったるい匂いを感じたことを。
「あんた、心当たりあるね?」
そのエルヴィンの様子に気づいたのかエルヴィンの方を向くとフードから覗く黒い瞳とかち合う。
「えぇ。」
そう言いフルーレの話をする。
そして話はカズハを目の敵にしている女性兵士の話にもなり、それを聞いていたソルスティスが目を細める。
「そいつは出向きだね?」
「あぁ、憲兵団を目指していたが10位以内でなく、駐屯兵団に所属。そのあと出向きで調査兵団に流れてきた人間だ。」
カグラはそうマリクに確認するように言うとマリクは頷いてそう続ける。
「名前は?」
「メンティーラ・リューゲ。」
「リューゲ…リューゲ商会の娘か。」
とマリクが言うと納得が言ったと言うように呟く。
「リューゲ商会か。どんなところか知っているのか?」
「あぁ?敵さね。」
にぃっとその白い歯をむき出しにして笑うように言う。
「何をやったんだリューゲ商会は……。」
「金儲けならなんでもやるさ、人攫いやらなんやらね。」
そう冷笑しているが狩る側の表情をカグラはしていた。
「まぁリューゲはカズハを調査兵団を辞めさせて自分の方に取り込みたいんだろうけどね」
「何のために?」
簡単に想像できるがマリクはそう確認するように言葉にする。
「そりゃ”東洋の魔女”の”弟子”で”娘”だそりゃ良からぬことを考える馬鹿には欲しいだろうね。あとコレクターとかね。」
血が珍しいだけで狙われそして知識もとなるとどうなるか、しかも良からぬことを思う人間にはどう映るか。
そうカグラは言う。
それにエルヴィンは無論話を聞いている全員が不快感を感じた。
「…まるで他人事の様にいうな、”母親”だろう。」
「だから他人事の様に言うのさ。」
「やっぱり魔女先生かよ!!来るとは思ったけど!」
「馬鹿弟子、復活が遅いよ。」
やっと再起動したリシオがそう叫んでカグラに言う。
マリクとカグラのやり取りでカグラという女性がどういう立場なのか知らない者はわかり当たりをつけていた者にとっては答えだった。
「カズハの母親」
「そうさ、こんな状態で居るのは東洋人だからだよ。」
エルヴィンのつぶやきに答えフードを外すとカズハに顔立ちがそっくりだがやや精悍な顔立ちをしている黒髪と黒目の女性だということがわかる。
纏う空気はカズハが警戒している時にしか感じない張り詰めた空気だ。
あまりにも温和と言い難い。
「いいのか、姿を晒して。」
「ここに居る人間はマリクあんたの後継者であるキースとアンタが見込んだやつだけだろ?問題ないね。」
「カグラにそう言ってくれるとありがたい。。」
と頷き言う。
「でカグラどうする気だ。」
「カズハを囮に使うかね。」
その言葉にエルヴィンは固まる。
「いいのか?」
「あぁ、問題ないよ。私は控えている。」
カグラは元からそのつもりで居たのがわかる。
「それにアンタはそこの若いのを置いておくだろう?」
と顎でエルヴィン、ルッツ、リシオを示す。
それにマリクは頷き。
「あぁ。」
「なら間違えは無いさね。」
そう言ってカグラはフードをかぶり直す。
「まぁ囮にしなくても、カズハを狙うと思うよ。」
リューゲの娘なら想像は容易だと続けた。





メンティーラの目的や罪状をはっきりさせるためにわざとカズハだけにした医療室にメンティーラは来たのだった。
それはカズハを害するという目的が明白で、外部の協力医師のカズハの父親が居るそのため殺すことはできなくても、調査兵団からは排除することはできると考えたのだろう。
エルヴィンのなぜ知っているのかという言葉に答えられなく顔を俯かせるメンティーラ。
そんなメンティーラに石突を当てたフードを深くかぶっているカグラは溜息をつき。
「”トラヘレ”」
という言葉を発するとメンティーラが弾かれたように顔をあげる。
「幸福感を一時的に得られるが、その後不安感を強く抱くようになる。」
「依存性が高く、摂取量が回数を重ねると増えていくのが特徴。」
「トラヘレは花や甘いものとは別種の甘ったるい匂いがトラヘレ自体と摂取者からするのがする。なによりもう一つの効果は」
「催眠効果があり、暗示を施すためのに裏社会で良く使われる。」
「そして一度芽吹いたところから移動させることができないのが特徴。大規模な農場や人員がなければ作ることができない。」
すらすらとカグラはそう言っていく。
リューゲ商会はたしかに大きな農場を持っていると、メンティーラが自慢していたというのを覚えている、それ故メンティーラへの不信感を持った視線が強くなった。
それにメンティーラは明らかに動揺するが。
「そんな証拠ないわ。いくらでも言えるもの言うだけなら。」
「いいえ?ありますよ。」
メンティーラは勝ち誇った顔で言ったがルッツが即答で切り捨てる。
そしてリューゲ商会の印が入った袋と手紙。それを届けたらしい小太りした男がメンティーラの斜め前に突き出される。
それにメンティーラは明らかに動揺する。
「否定しても構わないが、憲兵団に連行は決まっていることだ。」
もうすでに決まっているとルッツは言い。
「さぁ特別室へ二人を案内してくれ。」
この話は場所を変えて続けようと言葉無くルッツが指示で答える。
己の部下に命令をだし部下はその命令により二人を連れて行こうとする。
そしてエルヴィンはカズハが心配になりカズハの元へ行く。
呆然とし連れて行かれそうになっていたのだが。
エルヴィンが微笑みカズハに話しかける。
「…何なのよ…!何なのよ!」
それをメンティーラは見てそう喚き散らす。
「なんで信じないのよ!私が正しいのに!正しいのに!」
錯乱したように大声でうわ言の様に繰り返し暴れる。
しばらくもがいていると拘束から抜けカズハの方へ走り込む。
その途中転がっていたナイフを拾い上げる、エルヴィンがそれを止めようと動こうとするが。
「動くんじゃないよ。」
そうカグラの指示が飛びエルヴィンは止まる。
叫び声を上げて迫るメンティーラの死角から持っていた短槍で振り抜く。
鈍い音が聞こえ今度は逃れてきた方へ打ち出されるメンティーラ。
咽ているメンティーラに近づきナイフを持っていた右手を踵で蹴り、手が緩んだのでつかさずナイフを奪う。
それにリシオは思わず「うわっ魔女先生容赦ねぇ」と見ている全員が思っていることを口に出した。





カグラはメンティーラがまた逃げたら堪ったもんじゃないと言い、ルッツの案内でメンティーラを引きずるように連れて行く。
リシオは報告で団長であるマリクの元へ向かった。
ソルスティスは他の患者である兵士の元へ行き
エルヴィンはこの部屋に残った。
カズハが心配だったのもあるがここに居たいというのもあり、心配していたソルスティスに頼まれたのが丁度よかったのだ。
「エルヴィンさん、部屋に戻らないのですか?」
「あぁ、騒がして、すまないね。」
「問題ないです。怪我人ではありますが病人ではないですから。」
そう笑みを浮かべ言うカズハの頬に手を伸ばし触れる。
目元に隈がないか確認するように親指の腹で撫でる。
「ちゃんと寝れていたみたいで良かった。」
「飲んだのが母お手製の薬ですからね。」
苦笑して言う。カズハの頬を撫でる。
「エルヴィンさん、戻らないならどこで眠るんですか…?」
「あぁ、リシオさんに聞いたら、仮眠用のベッドがあるからねそこで寝るから心配いらない。」
そういうのだがカズハは余りいい顔をしない。
「それとも、俺が居るのが嫌かい?」
やや悲しげな顔をして言う。
「ち、違いますし!」
そんなエルヴィンに慌て否定するカズハに笑みを浮かべる、それにカズハはむっと言う顔をする。
「私はただ、壁外調査後ですから、自室に戻ってゆっくり体を休めて欲しいのに…。」
カズハが拗ねるような物言いで言うのだが。
それに楽しげにエルヴィンが笑うのに仕方がないなぁ、とカズハは苦笑をする。
「カズハ、君は早く寝なさい。」
「了解です。」
とエルヴィンに言われベッドへその体を横たえる。
「エルヴィンさんもちゃんと寝てくださいね?」
「あぁ。」
「おやすみなさい。エルヴィンさん。」
「おやすみ、カズハ。」
お互いに言い、カズハは目をつむる。
そしてエルヴィンは置いてある本を取り読み始めた。



静かに規則正しい呼吸を繰り返し眠るカズハを本から視線を外し見守る。
カズハの穏やかな時を祈りつつもエルヴィンは己の方へ堕ちることを願う。
エルヴィンのその口元はゆるりと弧を描き、澄んだ蒼穹の瞳は淀み狂気が滲んでいた。

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