平穏を願う




生暖かい液体が己にかかる

噎せ返るほど濃い鉄の匂い

それが血だと解った

そしていつもの笑顔でクルオが笑う

「…」
カズハは眼を覚ましゆっくりと起き上がる。
まだ夜深く、濃い夜闇に閉ざされて音もない。

変な時間に起きたとカズハは溜息をつく。

動けるように成っているのでもう付き添いは居ない。むしろ付きそうと言っていたエルヴィンやハンジを部屋で休めと頼み込んだのだ。
エルヴィンは苦笑して居たがハンジはやや落ち込み気味で戻っていったのが気がかりだった。
こつりこつりと軽い音が此方へ向かってくる音が聞こえるのに気付く。
規則正しく響くその音は医務室のこの部屋に向かって近づいてくる。足音なのだろう。そしてこの医務室の前で立ち止まりそっと扉が開く。
気落ちしたハンジが着替えを抱きしめ此方へ来るのが見えた

「ハンジ。」
そんなハンジにカズハは声をかける。
「っ!か、カズハ、起きてたのかい?」
体を跳ねさせ驚く。
そんなハンジに苦笑を浮かべる
「起きてたと言うより、ついさっき目が覚めたから。」
「そっか…。」
そう答えハンジは服を抱きしめ視線を足元に落とす。
あの時まであった元気が今は見る影もない。
自分より同期を目の前で失ったのだからとカズハは思った。
「ハンジ。」
「う…?」
カズハはハンジを呼ぶと、当のハンジは首をかしげカズハをみる、するとぽすぽすとカズハはベッドの自分の横を軽く叩き。
「そこで立ってないで、おいで。」
と手招きをすると顔がほころび大きく頷き足早に近づいて来て、いそいそと招かれるままベッドに潜り込む。
カズハが小さいので二人で横になってもそこまで狭くない。
「カズハ、足、痛くないかい?」
「痛くはないよ。」
カズハが優しく微笑むとハンジは嬉しそうに笑う。

ふとカズハがハンジの方を向き頭部に手を伸ばしてを抱き寄せ、耳を己の胸に当てる。
「か、カズハ?!」
カズハからこうしてくれることは無く、それにより顔を赤くしてわたわたと慌てるがカズハの穏やかな鼓動が聞こえ、大人しくなる。
優しくカズハがハンジの頭を撫でると、ハンジはカズハの胸に顔を埋めるように向かい合いカズハを抱きしめる。
そして嗚咽を漏らす。
そんなハンジの頭をなで続けている。
しばらくあやすように頭をなでていると
「へへへ…、カズハ温かいね。」
そう照れたような声で言うハンジ
「寝る時は体温高いからね。ハンジは冷たくなってる、寒くない?」
「寒くないよ。カズハ。」
ぎゅうっと抱きしめてカズハの温かさを肌で感じカズハのつけている花の香を感じる。
「カズハ、いい匂いする…。香り袋の匂いだっけ。」
「うん、あと石鹸とかも同じだね。」
「カズハ器用だよね…。」
そうつぶやくハンジの頭を撫で続ける。
「小さい頃からやってきたことだから。」
「薬以外にも作るの?」
「薬を作る技術の練習にはもってこいだからね。」
そんな話をしつつハンジは頭を撫でられ次第にうとりうとりとする。
「ねぇ…カズハ…。」
「ん?」
「カズハ…死なないでよね…。私も……頑張るからさ……。」
そう言ってハンジは寝落ちてしまう。
それに苦笑しつつ
「大丈夫、そう簡単に死なないよ。だから、頑張りすぎないで。」
そう呟く。

どうか、どうか、どうか

カズハは言葉無く祈る。

目の前の友人で器用なようで不器用で甘え下手な人物の平穏を。
この祈りが届かないのはわかっている。
世界は残酷だからだ。
ならば、この友人の泣き場所で居たい。

願い、望んで、祈る。

どうか、どうか

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