捨てられない思い




「俺の副官を頼みたいんだ。」
その言葉を言うのにかなり強い緊張が強いられた。
まるで恋を告白するような緊張で、己の鼓動がうるさい。
だがそう言った俺にカズハは他に優秀な人間も居るという。
それでは駄目なんだ。
ミケは自分より年上でガタイがよく目立つ。なおかつ片腕であり友人だ。
ならば目立つように副長として置くのが良い。
だが目の前の小柄なカズハは目立たない、むしろカズハ自身が目立たないように立ち振る舞う。
最初の壁外調査の時は目立っていたが、彼女を利用しようとした者や害そうとした者は外部協力者である彼女の母親にいつの間にか矯正されカズハを恐れるようになったのが記憶に新しい。
それ以降は目立った功績は班の補佐をだれと組ませてもこなすことだ。
他の分隊が彼女を欲しがっても自分が蹴ってきたが、副官としての任命を断られればカズハは他の班や分隊に移動させられる可能性がある。
彼女を手放したくない。だから己の側に置きたい。

彼女を己の側に置くために副官に任命する。
そんな自分に苦笑をしてしまう。
権力乱用すぎるとも思うがだがそうしてでも手放したいものなのだ。
夢とは別に手放せないもの。
それがカズハだ。



カズハがおもむろに右手を左胸、心臓の上辺りに乗せ。
「了解です。あなたがそう望むのなら。」
そう穏やかに微笑んで言うのに安心してしまい脱力してしまう。
明らかにほっとした息が出てしまう
そして手を差し伸ばすと微笑み己の手にその小さな手を重ねてくる。
愛おしくてたまらない。



己の側に堕ちてきた彼女を長く長く捉えておきたい。
鉛のように重くどす黒い欲望。
誰にも抱いたことのない感情。



自分の心を救ってくれた君に捧げられる感情が思いが、重くどす黒い執着で申し訳無いと思う。
だが捨てられないものなのだ。



もし



君を失っても



捨てられない



感情になるだろう。

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