幼き魔女は後に悪魔と呼ばれる少年と踊る

幼き魔女は後に悪魔と呼ばれる少年と踊る
私は物心がついたときから

”魔女”

と揶揄されていたり、恐れられたりした。
ーでも私はそれを嫌に思ったことは無かった。
だってかあさまが”東洋の魔女”と呼ばれていたから。
そう私が言われるたびにかあさまは悲しい顔をしてたけど
私はそこまで気にしていなかった、かあさまとおなじ呼び名で嬉しくもあった。
でも


ー寂しかったのは同じ年の友達がいなかったことと世界が怖かったことだ



少し経って少し年の離れた女の子と出会った。
私の黒髪や黒い目とは違う金色の髪で優しい琥珀色の瞳の女の子が友達になってくれた。
すごく嬉しかった。



私はその子にいろいろなことを教えた
ー私はその子にいろいろなことを教えてもらった



薬草のこと
ー明るく笑顔で挨拶すると私が”魔女”でも返してくれるということ



お茶の入れ方
ー明るく元気に喋ると”魔女”でも怖がられないということ



ちょっとした怪我の治療
ーなにより両親とは別の温かさを誰かとともにいるという喜びを



だから私は一層かあさまからの様々な薬草の知識を、とうさまからは医学の知識を。
そして自分の身を守るすべを。
かあさまもとおさまも厳しかったけど
力がついていくのが楽しくて夢中になってた。
普通に過ごすならいらない力。
でも誰かを守れる力、誰かを救える力。
だから私はそれを求めて追い続けた。



そんなある日に私はあの人に出会った。
これは私があの人に出会ったときの記憶。





良く晴れた日の昼下がり幼いカズハは母親の頼みにより街に繰り出した。
腰まである長い黒髪を母親と同じように頭の後ろで結い上げまるで長い尻尾を揺らし歩く機嫌の良い子猫や子犬のように。
彼女を見るのはあまり友好的な視線が多いわけではないどちらかと言うと否定的なものが多いが、それでも友好的な視線もある。
そういう人には彼女は明るく挨拶を返していくのだ。



「あ、おじさん、おばさん、こんにちわ!」
カズハは目的地の場所である店先に居た男女にそう挨拶をする。
「おお、小魔女さんなにかな?」
「えらいね、おかあさんのお手伝いかい?」
「うん!そうだよ!」
出迎えたそういう夫婦はこの店の主人とその奥さんだ。
「はい、おじさんとおばさんに頼まれたおくすり!」
「おお、ありがとう、」
「ちぃ魔女ちゃんありがとうね。」
カズハの頭をなでお礼を言う二人に嬉しそうに笑う。
この二人はカズハやカズハの母親に対して友好的な人間でカズハを孫のように思い接している。
「ちぃ魔女ちゃん私達の休憩につきあってくれるかな?」
「時間があれば、でいいのだけどね。」
「大丈夫!あ、かあさまとね!お菓子作ったの!」
そう言って出すのはきれいに作られた物と少し不格好な焼き菓子だ。
「おやおや、これは美味しそうだね。」
「魔女さんのお菓子は体にいいしうまいからねぇ。」
店先においてある椅子とテーブルに腰掛け仲良く3人でお茶をする。
他愛もない話をしているところに悲鳴が響きカズハはスイッチが切り替わるかのように先程の穏やかな雰囲気を取り払って立ち上がって通りの中心から、冷静な目で悲鳴が聞こえた方を見る。
すると老婆から荷物を奪い取ろうとする男と揉み合いに成っている様を見つける。駆け出し老婆の元へ行こうとするが他に2人の男が現れ1人は老婆を突き飛ばしもう1人はバランスを崩して尻もちをついた男を助け起こして走り出す。
それと同時に老婆の元にカズハはたどり着く。
「ああ!私の荷物が!」
「おばあさん怪我ない?」
「あぁ、怪我は大丈夫だよ!それより荷物が!」
カズハにそう必死になって言う老婆。
その時カズハを追ってやって来ていた店主と店主の奥さんに
「おじさんは憲兵団へ!おばさんは、あのおばあさんを保護して!!」
カズハはそう言って走り出す。
「あ、ああ!」
身体に鞭を打ち店主は憲兵団の治安のための駐留場所へと急ぐ。
遠くなるカズハの背中に店主の奥さんは慌てて声をかける。
「ちぃ魔女ちゃんはどうするんだい!?」
「あいつらを追いかける!」
「危ないよ!!」
「見失うほうが駄目だと思うから!だからお願いします!!」
カズハはそう言って更に走る速度をあげて行った。





薄暗い裏路地を3人分の走る音と軽やかに地を蹴る足音が響く。
男3人組は裏路地を走っていた、それに追随するのはカズハ。
「おい!なんか追ってくるぞ!」
「ガキ一人だけだ」
「ガキ一人?!なら追い払えばどうとも…っ」
最後の男は振り返ってカズハを見たのだ。
男の顔に恐怖が宿る。
「ひぃっ」
息を呑み引きつる声に他の二人も後ろを向きカズハを見た。
しかし彼らはカズハを幼い少女とは見えず。
冷たく鋭く自分たちを見つめ追いかける狼に見えたのだった。
「に、逃げるぞ!!」
「お、おう…!」「あ、あぁ…!」
3人組は裏路地を縫うように走っていくカズハはそれに見失わないようについていく。
「くそう!まだまけねえのかよ!」
「なんつう体力してんだあのガキ!」
「ひぃっ殺されるっ!」
ふとカズハの視線のに金髪の少年が目に映る。
その少年は茶色のジャケットに服の上からハーネスと腰布をつけている見るからにどこかの兵団に所属しているのだろう。
こちらに気づいてないのでカズハは大声でその少年に言う。
「兵士のお兄さん!道を塞いで!」
大声で言うと視線が交差すると頷き、男たちの進路を妨害するように前に自分たちの前に陣取った。
男たちはその少年に気づく。
「邪魔だ!どけえ!」
そしてナイフを抜き斬りかかる。
少年はナイフを持つ手を受け止める膠着状態でしばし居たが、ふと力を抜きそれに男が状態を崩す。
その力を利用して状態を崩した男を寝転がしナイフを叩き落とす。そのまま動けないように手刀で首の後ろを叩き意識を落とさせる。
だが少年がその時に作ってしまった一瞬の気が緩みがすきとなってしまい、別の男のナイフが迫る。
が、その男の懐に潜り込みみぞおちあたりを殴り男は気絶する。
「すごい…。」
思わず眼が輝きそうため息の様なつぶやきが口から漏れ出る。
そんなカズハのすきを察知したのか残された男が狂乱状態でカズハに走って向かって来る。
「君!危ないぞ!」
少年がそう叫んだときには男はカズハに向かってナイフを振り下ろす瞬間だった。少年はカズハの元に駆け出すが目を奪われる。
「あぁ、大丈夫だよお兄さん。」
そう不敵に笑うカズハは振り下ろされたナイフを避け背中に背負っていた棒を男の足に振り抜く、そして倒れたところを更に頭と叩かれ男は気を失ってしまう。
見た目が幼い少女が繰り出すにはあまりにも強く鋭い振り抜きに少年は目を丸くする。
「ふー、お兄さんありがとうございます。助かすかりました!」
そういって人懐っこい笑顔でカズハが言うとハッとしたような顔をして優しく微笑み「いや、怪我が無いようで良かったよ。」と応える。
少年のジャケットには訓練兵団の紋章が書かれ彼が所属してるのが訓練兵団だと判明する。
「あ、お兄さん怪我してる?!手当しなきゃ!」
「え、ああ、大丈夫だよこのぐらい。」
大慌てのカズハの剣幕に苦笑を浮かべそういうがカズハはそれにむうっとしつつ。
「駄目!化膿したら大変なことになるから怪我見せて!」
「あぁ、わかった。」
苦笑をさらに深め切り傷のある方の手を差し出す。その手をとり真剣に傷を見るカズハ


そして恐る恐る言うように口を開く
「あのね」
「ん?」
「おじさんたちのナイフそこまで良い物じゃないし結構刃こぼれもある感じだったから、心配だっただけなの」
「そうなのか。」
「うん、んー…切り傷以外の損傷や異物混入はなし。深くは無いけど結構大きめに切られてる、消毒と軟膏をぬって包帯巻いておけば平気かなぁ。おくすりつけますね。」
と言って棒をひっかけていた紐と一緒にたすきがけしていた袋の中から小瓶を2つ取り出し。
「しみるかもなので我慢して下さーい。」
「あぁ。」
くくくと忍び笑いをしつつ返事をし手際よく手当をしていくのに関心しつつ楽しげにカズハを観察する。
やや不格好だがそれでも丁重に包帯を巻き終わる。
「ちゃんと手当できたけどちゃんとお医者さんにみせてね。お兄さん!」
カズハがにこっと笑うと少年も釣られて笑う。
「あぁ、ありがと。」
少年は言って頭を撫でる。
「あ、おばあさんの荷物を回収とおじさんたちを拘束しておかなきゃ!」
と言っていそいそと男たちを後ろでに縛るカズハに苦笑して手伝うのだった。





カズハと少年は手をつなぎ路地を歩く。
「お兄さんあの人よかったの?」
「あぁあいつも俺と同じ非番だったからな。」
「ふーん?」
そう少年は先程来た訓練兵団の仲間に先程大捕り物をした男たちを任せ、カズハが戻りたいと言ってたので送りに来ていた。
「あ!かあさま!!」
そして店の近くに来るとカズハは走って行き同じような髪型や服を着た女性に抱きついた。
見た目的にカズハそっくりでカズハの母親だというのが容易に想像できる。
店の主人は憲兵を呼びに行ったその足でカズハの母親を呼びに行ったのだろう。
「カズハおかえり。」
「うん!ただいま!」
「しかしカズハ危ないことは控えろといわなかったかい?」
といいカズハの頬を笑いながら広げるようにひっぱる。
「いひゃひ」
「危ないことは駄目だと私は言ったよねぇ?」
「ごへんなひゃい」
しょんぼりとするカズハに苦笑するカズハの母親
「まぁお前は私の子だから信用はしてるけどねぇ…でも無茶をするから…。」
「ごめんなさい…。」
かわいそうになるぐらい落ち込むカズハを荷物を取られた老婆が「まぁまぁ」と良いカズハをかばう
「”魔女”殿、そのぐらいで…ちい魔女さんは私の荷物を取り返しに行ってくれたのですから…。」
「あぁそうだね…。カズハ偉かったよ。」
「えへへ…。」
そう微笑みカズハを優しく撫でると照れるようにカズハは笑う。
「婆さんなにか体の不調がでたら、言っておくれ、旦那を向かわせる。」
店の主人と奥さんに礼をし老婆にそういう。
「あぁ、ありがとうございます。」
「あんたも、娘のおもりありがとね。」
「お兄さんばいばい!またどこかでね!」
そして少年に向き直りそう二人で礼を言い。
手をつなぎ帰路につく。
そんなふたりの姿に惹かれるように見つめ少年が居た。

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