探求者との出会い 悪魔との再会

私は兵団に志願した。

両親は反対をしなく苦笑して笑い私が後悔しなければ良いとそう笑った。

だけど今まで以上に強い負の感情を感じた。

”魔女”の名はどこまでもついてきていた。
私が背負うべき総称であるように。

畏怖、恐怖、憎悪、嫌悪。
そんな感情を肌に感じていた。

でも同時にこの学舎は得難い出会いと再会をもたらしてくれた。



訓練兵団入団初日、夕食がおわり思い思いの時間を訓練兵たちは過ごしていた。
カズハもその中のひとりでぼんやりと雑魚寝する部屋で教本を読み過ごしていた。
「ちょっといいかな。」
焦げ茶の髪を短めに切りそろえ、眼鏡をかけ好奇心が旺盛な瞳を輝かせた少年のような少女のようなどちらとでも取れる子がカズハに話しかける
「なにか御用でしょうか?」
やや戸惑いつつも応えるとその人物はさらに眼を輝かせ
「君”魔女”なんだろ?」
あまりにも好奇心とまっすぐにそう言われ、きょとんとしつつも
「そう、呼ばれていますね」
苦笑をして応える。
「いろいろな薬学とか詳しいって聞いてさ。君のこと凄く気になっててね。」
誰かに聞いたのか解らず首をかしげて話を聞く。
よくわかっていないようなのに気づいて笑い理由を口にする。
「昔、金色の髪の子から君のことをたくさん聞いたんだ。それでね?」
おどけたように笑顔で言う。
「あぁ、ユリアですね。」
カズハは笑顔になって一番に思い描くのが幼馴染のユリアだった。
「そうそう、ユリア・フリーダって子。君を魔女と言って蔑む奴らにガツンって言ってたの聞いたことあるよ。」
「あ、あの子は何をしているんですか…。」
思わず頭を抱え唸る。
そんなカズハの様子にきょとんとしたあと笑い。
「しかし予想外に表情豊かだね。さっきはあんなに強張った顔だったのに。」
「えっとその…緊張してたので…。」
恥ずかしそうに言う。
「緊張はほぐれたかい?今日からここで過ごすんだ、仲良くしよう、ねっ。」
と言って手を差し出す。
「えぇよろしくお願いします。ユーリが…ユリアが言っていたかもしれませんがカズハ・トォウフォスです。カズハで構いません。」
「よろしくカズハ!私はハンジ・ゾエ気軽にハンジって呼んでよ。」
「はい、よろしくお願いします。ハンジさん。」
「なんでさん付けなんだい?同じ部屋だし同じ歳なんだから呼び捨てでいいよ?」
そう気軽に言われ「いや…その…」というと「だめかい…?」と言われ「いえ、そういうのじゃなくて…」というやり取りをした後。
「さぁ!さんなしで!」
わくわくとした表情でカズハに言うハンジ。
困ったような顔をして顔をふせ恥ずかしそうに「…ハンジ…。」と呼ぶ。
嬉しそうに笑い。
「恥ずかしそうに言うね。かわいい、かわいい。」
満足そうな笑顔でカズハの頭を撫でる。
「ユーリ以外は慣れてないんです…慣れれば平気なのであまりからかわないでください…。」
カズハがぼやくとハンジは何も言わず笑顔でいる。
そしてワンテンポ遅れて。「ついでに敬語なしでいいからね?」と言われる。
それには「わかりました…」と応えるしか無かった。



ハンジとカズハが他愛のない話をしていると、先程のやり取りでカズハの険しさが払拭され、話しかけてくる同部屋の少女が一人増える。
名前はリコ・ブレツェンスカ、銀髪でメガネをかけやや眠たげな印象を受ける少女だ。
「うん、たしかにカズハ、君は笑顔のほうがいいねぇ。」
ふとハンジはそうしみじみという。
「何言ってるのかな…、ハンジ…。」
口元が引きつりつつ、言うカズハににやりとリコとともにハンジは笑う。
「ユリアちゃんがべた褒めだったからねぇー、学校で居たアホが「辛気臭い”魔女”の顔を墨だらけにしてやろうぜ。」とかいうバカに「カズハは辛気臭くなんて無いよ!!」って言って「ころころ表情変わるの可愛いんだよ!!」って大声で主張してたよ。」
「ユーリ…あの子は…。」
テーブルに肘をつき顔を両手で覆うカズハ。
「いやぁ、べた褒めだったよね。」
ニヤニヤと笑いながら隣りに座っていたリコと笑いあい。
「ああ、すごかった。まさに「壁内の中心で、愛をさけぶ」状態だったから。」
とそういう。それに顔から両手を離して。「り、リコまで…。」と脱力して言う。
「しかし、ほんとにカズハ緊張してたんだな、まるで刃物みたいだったよ。」
「だよね、だから遠巻きで見るしか無かったけど、思い出してよかったよ、ユリアくんのあの演説。」
「演説ってなんなの…、演説って…。」
顔を片手で覆い答えているカズハにニヤニヤして言う二人だった。



厳しい訓練が続くが、幸いカズハは友人に恵まれ日に日に強く成っていった。
「しかしカズハは、ブレードが苦手だね。」
立体機動や対人戦闘、座学は得意なのにと、準備運動をしている際にハンジに言われる。
「多分癖がぬけないんだと思うよ、それにもともと得物が短槍だから…。」
「ん?えもの?」
リコとハンジがその言い回しがわからなかったのか首を傾げてるのを見てカズハは「あぁ、得意な武器ってこと。」と言う。
「へぇ。あれ、でも使わないね?」
いつも使うのがブレードを模したものだったのを思い出し言うリコに頷くハンジ。
「うん、動きを修正したいから。どうしても短槍とくらべて、動けなくて気持ちが悪いし…。」
カズハにとって短槍は自分の手足の延長であり、己が幼い頃から親しんだものの一つだ。
それ故他の武器もそのぐらいに扱えないと動きのブレが気になってしまうので鍛錬を重ねつづけている。
「カズハは凝り性だよね…。」
「あなたほどではないと思うよ、ハンジ。」
そんなじゃれ合いのようなやりとりを繰り返す。





そんな日々が続き
2年め後半になったある日。





「本日より憲兵団、駐屯兵団、調査兵団の幹部の方々が、視察でやってくる!より一層、気を引き締め訓練を行うように!」
みなで敬礼を教官へ返し解散する。
「視察なんて、あるんだねぇ。」
「私、うまくできるか自信がないよ…。」
机に突っ伏すハンジ、リコに苦笑を浮かべ二人の頭を撫でるカズハ。
「カズハは余裕だねぇ…。」
「いや、緊張はしてるよ?でも、3人で培ったものを出すだけでしょ?」
頑張ろ?と言うように笑顔で二人に言うカズハにやや照れが入りつつも幹部がやってくるというのを思い出し二人はまたぐったりとするのだった

訓練兵団の兵舎の一角にある会議室に憲兵団、駐屯兵団、調査兵団の上位幹部が集まっていた。
分隊長に位置するものとその部下でが二人ついている。
「今期はなかなかに粒揃いのようだ。」
「はい、上位10位になれないものもかなりの成績かと。」
そう視察団に報告をする。
「しかし東洋人で”魔女”とは…不吉な人物が入ってきたものだな…。」
憲兵団の分隊長に位置する人間が忌むように言うと隣りに座って居た部下が頷く。
そんな言葉に調査兵団の席に座る一人の金色の髪の青年が配られた一枚の書類に視線を落とす。
そして”魔女”と呼ばれていた、書類の名前【カズハ・トォウフォス】をなぞり名前を口に小さく転がす。
「エルヴィン、気になる訓練兵でもいたかい?」
そんな青年 エルヴィン・スミスに気づいた茶髪の男性が小さく声をかける。
「グラーヴェ分隊長。」
小さく返事のように上官である彼 グラーヴェ・トルヴェールの階級と名前をつぶやく、グラーヴェはエルヴィンが見ていた書類を見て
「”魔女”がきになるのかな?」
グラーヴェにそう聞かれ小さく頷き「えぇ…。」と応える。
するとグラーヴェもカズハの書類に目を落とす。
「医学、薬学などが得意か…これはぜひともうちにほしいね……。」
「えぇ、そうですね。」
エルヴィンはそう答えふと手のひら側にあるもう目立たない古傷に視線を落としその部分を撫ぜた。





「しかし今日の立体機動の訓練がツーマン・セルだとだれが予想していただろうか、しかも殺傷訓練つき…。」
「まぁそのうち来るとは思ってたけど。」
「今日やるとかさすが教官だと思ったよ…。」
「ははは…。」
ハンジはぼやきながらい言い、カズハは予想できてたと頷くとさらに重ねて安易に”鬼”だと言うハンジに苦笑するカズハ。
いつものように集まってそのままツーマン・セルを組もうと言う話になりいつも通りともにいるのだ。
なおリコはすでに別の人間とペアを組んでいる。
「まぁ、気にせずに。」
「いつも通りだね。」
そう言って2人で笑い合った。



立体機動装置という翼を使いカズハは木々を縫うように滑るように飛ぶ。
そのあとに追随するようにハンジが飛ぶ。
「ははっ!相変わらずカズハはきれいに飛ぶねぇ!」
「ハンジこそ。」
そう軽口を叩きながら森を進む。
ちらりと視線だけ動かすと遠くの方から並走し自分達を見ているのを2人は気づく。
「しかし見られてるねぇ、私達モテモテ?」
「そういう視察なんだから、モテてるというわけではないとおもうよ?」
「で、どのへんにあると思う?」
「手前のは全部倒してあったし、奥だと思う。」
「それもそうだね。」
「ハンジは先に行ってて。私は上から場所を割り出す。」
「ん、わかったよ、カズハ。」
そう言ってハンジは先に進みカズハは大きな巨木を伝い垂直にあがり高く飛び上がる。
そして落ちる猶予を使い先を見て、ハンジとまた合流する。
「さっすがだねぇー。」
いつの間にかに並走していたカズハに口笛を吹き迎えた。
そして目標へ一直線へ向かい殺傷訓練のための的を見つけハンジ、カズハという順番で斬りつける。
ハンジよりやや浅くはあるが規定には達していてホッと一息をつく。



そんなカズハの動きを遠巻きに立体機動で並走し見ていたエルヴィンはため息をつき。「まったく、無茶をする…。」と呆れたような声色でつぶやく。
しかしその口元は上弦の月のように弧を描く。
その鋭く冷たく冴えた目に映るのはハンジとハイタッチをするカズハだった。





調査兵団の視察者のために与えられた部屋の扉をノックする。
「おや、エルヴィン、おかえり。」
そう目の前の大きな机に座るグラーヴェはエルヴィンを微笑み迎え入れた。

それに敬礼をし「只今戻りました。」と応える。
「さぁ、君から見た”魔女”の報告を頼むよ?」
と彼の眼はねを定めるようにエルヴィンを見つめ口元は楽しげに弧を描いていた。
そのグラーヴェの言葉に先程まで見ていた身のこなしなどを報告する。
「へぇ…それはなかなかだね。団長が喜びそうだ。」
報告を聞いたグラーヴェはにやりと笑うと、彼の補佐の黒髪の髪青年が一枚の書類を持ってきてグラーヴェへ渡す。
「よくともにいるハンジ・ゾエもなかなか優秀のようです。。」
書類を受けとりつつエルヴィンに報告を促す。
「ハンジ・ゾエもほしいね…しかしあまり評価されていないのは彼女が”魔女”で魔女と距離が近いからかな…?」
「その可能性はあります。ですが”魔女”である彼女は殺傷訓練は苦手のようです。」
そう報告を付け加え思い浮かぶのが殺傷訓練のときのカズハがブレードの振りとそのときの表情だった。
立体機動とは違いややテンポが遅かったのと、まるで言うことの利かない両腕を無理やり動かしているような表情だったのを。
そんなエルヴィンの話を聞いて「苦手…?」とそれは困るなという響きが声に含まれていた。
「いえ、苦手というより何でしょう、身体が追いついていない、というのでしょうか。どこか動きがちぐはぐなんです。」
それに思考しつつ「原因はわかるかい?」と聞く。
エルヴィンは「いえ、私には。」と困ったような表情で答えたのだった。

「エルヴィン、明日君は”魔女”に接触し交流して来ると良い。」
しばし思考していた上官がそう口を開く。
「交流…ですか…?情報収集ではなくてですか?」
「あぁ。頼んだよ。」
「ハッ!」
そう敬礼しエルヴィンは部屋を出て行く。
「グラーヴェ分隊長。」
「あぁ、情報収集は任せるよ?。」
というとそう言われた青年は無言でグラーヴェに敬礼を返した。





早朝
まだ夜も開けきらないそんな時間にカズハは目を覚ます。
両隣で眠っているハンジとリコを起こさないように静かに寝床から抜け出し着替えて部屋を静かに出てその足は迷わず兵舎の外へ向かっていった。

外に出て井戸の水で顔を洗っていると兵舎とは反対の方にある寮からコック服を着た白髪交じりの男性が歩いてくる。
「訓令兵の魔女ちゃん、おはよう。」
顔についた水滴を手ぬぐいで拭った後に。
「おはようございます、料理長さん。いつも美味しい料理ありがとうございます。」
と言い礼をする。「はは、私の仕事だからね。」笑いながらそう温和な笑みを浮かべて言う。
「あ、お水、水瓶に入れておきますね。」
「ありがとう、だが毎回毎回いいのかい?」
「えぇ、いつも言ってますが、鍛錬にもってこいですし。それが役に立つのなら。」
笑顔で言うカズハに料理長は苦笑して「じゃぁ、いつもどおりお願いするよ。私は仕込みをするから。」と言って兵舎の厨房へ入っていった。
軽く準備運動をしたあとに厨房にある水瓶に井戸の水を満たすため、両手に水が満たされたバケツを持って往復する。
そんなカズハを仕込みをしつつ見守る料理長の顔はまるで孫を見守るような顔をしていた。
しばらく往復していると水瓶が満たされるそれを確認して蓋をした後に「水瓶に満たし終わりましたよ。」と料理長に言うと「ありがとう、助かったよ。」とカズハに礼を言う。
「いえ、今日も食事楽しみにしてますね。」
と言って、運動場へ走って行くカズハに苦笑しつつも、より一層気合を入れて料理に取り掛かるのだった。



運動場につき、先程より念入りに準備運動をした後に軽やかに走り出す。
強弱をつけたり、障害物があると仮定し、て飛び跳ねたり、潜ったりとそんな動きを繰り返す。
ある程度呼吸が弾んできたところでブレードを模した模擬刀を持ち立って目を瞑る。
ブレードは巨人との戦闘で立体機動装置と同じく大切な体の一部になる。
しかし自分ではそこまで至っていない。辛うじて短槍がそう動かせることができるだけだ。
そのために、武力での強さの象徴である”母親”の動きを思い描く。
兵団に入ると話したときに「覚えな」と言われ言われるがままに覚えた、二刀流の剣舞を思い出しそれになぞるように動く。
対人戦闘だが己にこの二本の刃を手のように操るためには、己が幼い時から母親から薫陶されてきたことをなすのみだとカズハはわかっていた。
愚直に母親が見せてくれたその一つの動きをなぞり続ける。
切り結び離れ、間合いをつめ斬る。躱し飛びまた切り結ぶ。



それを続け、ふと動きを止め宿舎側へ続く道の木の方をみて「どちら様ですか?」と声をかける。
「邪魔してすまない。見かけたので思わず見学してしいた。」
と出てくるのは金髪の髪の青年 エルヴィンだった。
それに驚くように目を見開くが紋章を見て自分の上官だと言うのを思い出し敬礼をする「上官の方でしたか、申し訳ありません。」
温和な笑みではなく凛とした表情で言うカズハ。
「楽にして構わない。今はまだ自由時間なのだろ?」
エルヴィンは優しい笑みを浮かべ、カズハにそう言うと「え、あ、はい。」カズハは迷いつつも敬礼を解く。
ゆっくりと近づく自分をじっと見つめてくるカズハに思わず警戒している子犬が思い浮かんでしまい苦笑しつつ。
「俺を覚えてるかい?何年か前に男に切られた手を手当してもらったものだよ。」
エルヴィンがそう言うとカズハは頷いて。
「えぇ、覚えてます。お兄さん。」と嬉しげに笑う。
カズハの笑みに釣られるようにエルヴィンも微笑み。
「あのあと医療班の人間に見せたら、適切に処置されているからすぐ治ると太鼓判を押されてね。そこまで時間がかからず治ったよ。」
もううっすらとしか見えない手のひらの傷跡を見せる。
「良かったです。綺麗に治ってて。」
その手を取ってもう消えかけの古傷を見て嬉しそうに言うカズハに笑みを深める。
「あっ、し、失礼しましたっ。」
カズハは慌ててエルヴィンの手を離して言うので思わず面白くなりくつくつと笑ってしまう。
それに頬を染め恥ずかしそうに体を縮めているカズハの頭をあの時、幼いカズハにやったように優しく撫でる。
恥ずかしげにしているカズハに笑みを深めつつもカズハの髪の毛の感触を楽しむ様に思わず撫でていく。
「立体機動見せてもらったよ。」
エルヴィンは頭から手を話しふと思い出したように言う。
「もしかしてあの時の視線は…。」
顔を上げて恐る恐る言うカズハに笑みを浮かべ頷く。
「とても良く飛んでいた、ガスもそこまで吹かしていなかったね。」
「きょ、恐縮です……。」
褒められて恥ずかしそうにするカズハに微笑み。
「それを浮き彫りにするようにブレードの扱いの違和感がな、見かけたからお礼のついでにその話を聞こうと思ったしだいだよ。」
そのエルヴィンの言葉に納得し「なるほど。」と言うカズハ。
「話したくなければ構わないよ。」
エルヴィンは笑みを浮かべ言いたくなければ言わなくていいと言う。
「いえ、そんなこと。話しても問題ないことですので。」
カズハはそう否定し友人であるハンジやリコに言ったことと同じ事をエルヴィンに伝える。
「えっとですね、得物、もともとの私の得意な武器が短い槍なんです。それでちょっとした違和感があるんです。」
すこし離れたところに立てかけて置いてあった棒をもって長さはこのぐらいですと言って持ってみせる。
「でも今は母が見せてくれた動きを一通りできるようになりました。だから大丈夫です」
誇るように言う、ころころと表情が変わりまだ幼さが残るカズハの様子に思わず頬が緩む。
「そうか。」
「えぇ、どうしても幼い頃からやってる方に引っ張られてしまいます。けどもう少しすりあわせていけば大丈夫です。」
そういい敬礼するかのように握った拳を心臓あたりに持っていく。
カズハの眼には強い自信と誇りが宿り強い光を宿している。それにふと眩しそうに目を細めてしまう。
「…君が良ければ、俺と手合わせしてくれるかな?」
「え、よろしいんですか?」
「あぁ、俺では役不足かもしれないが。」
「いえ、そんなことないです。ありがたいです。」
苦笑を浮かべ言うエルヴィンにカズハは慌ててそう否定する。
「あぁ、俺の名前は、エルヴィン・スミスという。君の名前は。」
エルヴィンは自分の名を名乗っていないことを思い出しそう言う。
書類で知っているがカズハから直接に名前が聞きたかったという思惑があった。
「あ…、そう言えば私お兄さん、エルヴィンさんに名乗ってませんでしたね…。」
はっとカズハは恥ずかしそうに頬をかきつつそういうと「あぁ。」とエルヴィンが応える。
「カズハ・トォウフォスです。よろしくお願いします、エルヴィンさん。」
「あぁ、カズハ、よろしく。」





空が明るく成る頃合いに目が覚めるハンジとリコ。
間に居たはずのカズハの姿がないことに気付く。
「しかしカズハはいつも早起きだね…もう居ないよ…。」
「いつも通りの鍛錬かな…。」
「運動場に居るだろうから、呼びに行こうか。」
「そうだな。」
そう言っていそいそと着替えカズハを呼びに静かに部屋を出た。



運動場に近くなると硬い木がぶつかる音が聞こえハンジとリコは首を傾げる。
カズハはこの時間の自主トレーニングはだいたい一人なので空を切る音しか聞こえないはずなのだ。
「なんか。音違わないか?」
「ホントだ、なにしてんだろ。」
急ぎ足で行くとカズハが二人には見知らぬ人物であるエルヴィンと鬼気迫る表情でふたりとも模造刀を打合せていた。
そんな様子に争いごとをしているように見え慌て更にカズハの相手が正規兵で自分たちの上官ということで二重に慌てる。
「か、カズハ?!」
「な、何してるんだ?!」
そう二人はカズハに言う。そんな二人にカズハとエルヴィンは視線でハンジ達を目視したあとに視線が合い苦笑をし鍔迫り合いから力を抜く。
「ハンジ、リコおはよう。」
振り返ってカズハはにこやかに挨拶するのに二人は唖然とする。
そんな二人を気にせずに鍔迫り合いをしていた距離からカズハは二、三歩離れる。
「エルヴィンさん、ありがとうございました。」
「いや、私も勉強になったよ。」
とにこやかに会話をするのでハンジとリコは顔を見合わせる。
「もしかして」
「手合わせしてたのか?」
二人して言うとカズハは頷き
「うん、そうだよ。」
嬉しそうに二人に報告をする。
「そ、そうか…。」
「カズハ、嬉しそうだね…。」
「だって勉強になるからね。」
とまっすぐ言うカズハ。エルヴィンはそれに目を細めつつ。
「そう言えば君たちの名前は?」
エルヴィンがそういうとはっとするように。
「ハッ!リコ・ブレツェンスカといいます!」
「ハンジ・ゾエといいます!」
と敬礼込みで挨拶をする。
「楽にして構わない。」
苦笑しながら言うと二人して「了解です。」と言う。
「私はエルヴィン・スミスだ、よろしく。」
二人に苦笑交じりでそういうエルヴィン。
そんな三人を楽しげにカズハは見守っていた。



他愛のない話をして行き、自分たちの志望する兵団の話をしたり得意なものや、アドバイスをエルヴィンに求めたりとリコとハンジは話していく。
そしてふとエルヴィンはハンジとリコがここに来た理由が気になり。
「そう言えば君たちはどうしてここに来たんだ?」
「あ、話楽しくて忘れてた。」
二人はエルヴィンのその質問に「あっ」となり。
「カズハ、そろそろ戻らなくちゃ、みんな起きてくるよ。」
ハンジがそう言うと。
「そうですね。戻らないと。」
と言い立ち上がる。
「そうか、話に付き合ってくれてありがとう。」
「いやいや!むしろ私達の話に付き合ってくれてありがとうエルヴィン!」
「ハンジ!エルヴィンさんは上官だぞ!」
リコがそう注意すると「あっ」と今思い当たったと言うように反応をする。
「はは、公の場や教官がいるところでは駄目だが、自由時間である今や正規兵になってしまえば仲間だ。」
エルヴィンは軽く笑いそういう。
「わぁ!ありがとうエルヴィン!」
そう輝く眼で言うハンジに苦笑して、「ほら、行きなさい。」と三人に言う。
「ありがとうございました。」
三人でエルヴィンに礼をして駆けていくがカズハは立ち止まり、またエルヴィンに礼をして二人のあとについていく。
カズハ達が見えなく成るまで見つめていると昔に惹かれて見続けたカズハとその母親を思い出す。
敬礼ではなく思わず心臓あたりに手を持っていき強く握りしめる。



「エルヴィン。」
ふと背後から聞き慣れた声を聞き振り返って敬礼をする。
「グラーヴェ分隊長。おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
グラーヴェがいつのまにか背後に立っていたので内心慌てるしかない。
良くわからないプレッシャーを感じ嫌な汗が頬を伝う。
「”魔女”との逢瀬楽しめたかい?」
エルヴィンはそう言われ思わず目を細める。
「…グラーヴェ分隊長…、見ていらしたのですか…?」
怒りを含んだ声が出てしまう。
しかしグラーヴェは「ふふふ。」と笑うだけだ。
エルヴィンを誂うのが楽しいと言葉にしなくてもわかる。
「…。失礼します…。」
頭を冷やすついでに着替えるために与えられた部屋に向かう。
エルヴィンの姿が見えなくなったところでグラーヴェはそっと長く息を吐く。
「強くおなり、エルヴィン・スミス。」
楽しげに笑いつつもそうつぶやいた。
そしてしばらく間が空いた後に思い出したように。
「大切なモノをこぼれ落とさないために。」
と小さく自傷的に笑い部屋へ向かった。

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