魔女の福音来たりて

カズハが訓練兵団に入り3年目
本日は訓練兵団に新しく新兵が入団してくる。
その中にカズハの幼馴染でありこの出会いと交流のきっかけとなったユリアが入ってくることをハンジは思い出した。
「カズハ、そう言えば今期生だっけユリアちゃんくるの」
「そうだよ。」
「いやぁ、楽しみだなぁ!」
「合同もあるんだな。」
「うん。」
兵舎の廊下をハンジとリコ、カズハの三人で歩きつつ、ユリアをともに入れて訓練しようなど様々な話をし、そのうちに自分たちの通過儀礼の話になる。
「そう言えば通過儀礼びっくりしたよね。」
「うん、びっくり、いきなり怒鳴られるからな。」
しみじみ言う二人。
「通過儀礼…私されてないなぁ…。」
とふと思い出した様子で言うカズハに「あー…。」と二人同時に言う。
「二人してなんで「あぁ、だよね」っていう反応してるんですか…。」
妙に納得して言うのでややジト目で二人を見つつそういうと。
「いや」
「だって」
「ねぇ?」
もう3年目になる交流から息がピッタリと合う二人。
それにカズハは「むぅ…。」と腑に落ちない表情でいる。
そんなカズハの様子に自分たちより低い身長のカズハの頭を二人して撫でる。
「拗ねない、拗ねない。」
「拗ねてないですよぅ。」
「拗ねてるな。」
「拗ねてないですって。」
まるで拗ねている子供を宥めるかのように言う二人にカズハはますます腑に落ちない顔になる。
身長が二人とはかなり離れなかなか伸びないのを気にしているカズハはむっとした顔で撫でられるが拒否はしなかった。
「そう言えば今日は午前は個別実習だから、通過儀礼聞けるかな。」
「見学ってありだっけ?」
「一応後輩を入れて行動をしなくてはいけない実習もありますし。見学も可能だと教官いってたはずです。」
そう最近説明された、教官の話を思い出し言うカズハ。
これは自分との相性の良い後輩を見つけフォーマン・セルの動きをするための練習や下期兵は上期兵と行動し軍としての動きをするためのもので、上期兵は率いるものとしての訓練という意味合いがある。
しかし実はあまり使われなくなり、基本同級兵で固まるのが多い。
リコやハンジはまだしも、カズハはその異名により発言力がある者たちに畏怖され憎悪され避けられている。
しかし、同室の人間はそこそこ交流している、だが表立っては彼らになにかされるからと謝られたが、カズハは全然問題視していなく毒気を抜いたのだった。
故にそれを全く気にしないハンジと行動することが多く大体がツーマン・セルでの行動になる。
のでカズハが信用を寄せるユリアや畏怖や恐怖されない可能性がある下期兵が来ることは大いにありがたい事なのだ。
なおひとつ下の下期兵が話題に出ないのはハンジやリコからしたら”論外”判定をされている。
明らかに憎悪や嫌悪を含んだ言葉を投げかけ、挙句の果てにはカズハを害そうとしたからだ。
ちなみに言葉は全く気にもとめず、害そうとしてきたやつは無効化し教官に突き出していたりする。
ハンジもリコも同室の人間も憤ったがカズハが気にしないので何も言えない状態だ。
なのでユリアはかなり歓迎ムードである。





「貴様は何者だ!」
「ハッ!私はユリア・フリーダです!」
「貴様は何しにここへ来た!!」
「カズハを追ってきました!!」
一斉にユリアに唖然とした視線が向かう「何言ってんだこいつ」という風にそれぞれの顔に書いてある。



一方見学としてやや離れたところに居た三人はハンジ、リコ、カズハという順番で横に並び新兵たちを見ていた。
「ぷふっ!」
「ぷくっ!」
とハンジとリコは吹いた。
「ゆ、ユーリ…何言っているんですか…あの子…。」
もうどうしてそうなったと遠い目になるカズハ。
「ユリアちゃん期待を裏切らないね…っ!」
カズハの肩に手を置きながらぷるぷると笑いで肩を震わせるハンジ。



「お前…せめて建前でも巨人を倒すためとか言おうか…。」
と教官が呆れた声を絞り出すように言う。
「いえ!十分立派な動機です!」
「そ、そうか…。」
あまりのユリアの気迫により完全に飲まれる教官。
「はい!調査兵団へ入るカズハを手助けしたい!彼女の医学と薬学の知識は人類の役に立つと信じてるからです!!」
と声高らかにユリアは宣言した。





「いやぁ…ほんと壁内で愛を叫ぶだね…。」
しみじみとにハンジは言い、さらにニヤリとしながらカズハを見るハンジとリコ
「出会い当初言ってた話を蒸し返さないで下さい…。」
そんな二人から片手で顔を覆い顔をそらすカズハ。
リコはそんなカズハの頬をつつきいじりそれを嫌がるカズハ。
ハンジは遠くに居るユリアを見つめ。
「しかしユリアちゃんほんとに飽きなくて興味の唆る子だよね。」
と楽しげに口元を歪めさせて呟いた。

しばらく月日が流れ新規生との合同演習の日
「いやぁ、楽しみだねぇ。」
「なんか凄く楽しみにしてたな。」
ハンジはこの日が来るのを指折り数え待っていたのをリコとカズハは知っている。
「そりゃぁ、ちょいちょい話題にユリアちゃん上がってたし、あの印象が強いからねぇ。」
実は同室内でユリアの話題がでてて、壁内で愛を叫ぶ事件やら通過儀礼のことやらが赤裸々に語られカズハは恥ずかしさでうずくまっていた。
「ハンジ、お願いだから蒸し返さないで…。」
本当にもう辞めてと懇願するようにそう言うカズハに楽しげにハンジとリコは笑う。
「だってカズハいじるの楽しいからな。」
「そうそう。」
と楽しそうにいうリコやハンジに複雑な顔をし合同演習の集合場所へ向かうのだった。





合同練習集合場所につき、駐屯兵団に同じく希望している子と班を作るリコを見送り、ハンジとカズハで談笑をしている。
談笑と言っても立体機動の時のバランスの振れの修正や振れの少なくするにはどうすれば良いのかという話なのだが。
そんな話をしていると
「カズハー!」
後ろからカズハは抱きしめられる。
「ユーリ、抱きしめる必要あるんですか…?」
「私にはある!」
「そうですか…。」
どう言い募っても離れないだろうなということをわかっているのでそのままにしていると
「ユリア!なにしてんだよ!先輩に!」
優しそうで苦労人の様な茶色い髪の少年がユリアの後を追ってくる。
「おや、カズハを見て先輩ってすぐわかるってすごいね、大体は同期生にみるのに。むしろもっと下かな?」
そうにやにやしながら言うハンジに
「これ以上伸びない身長でいじるのは辞めてくれませんかね…。」
と思わず敬語で返すカズハ。
「ハッハッハッハッ、でユリアちゃんを追いかけてきた君の名前はなんだい?」
そんなカズハの反応に笑って名前を聞く。
「ハッ!モブリット・バーナーです!」
と敬礼をするモブリットに興味深げな視線を隠さずに
「へぇ、モブリット、東洋人に嫌悪感ある?」
「無いですね。」
「フォーマン・セル組まない?ユリアちゃんは組む気だろうけど。」
「もちろん!モブリットも一緒に組もうよ!」
「えっ、ですが…。」
ちらりと会話に入ってなかったカズハを見る。
「カズハも問題ないよね?」
カズハは否定する気がないのを悟っていたがハンジが確認するようにカズハに確認する、
「えぇ、問題ありませんよ、嫌悪感が無い方が嬉しいですから。」
そう笑ってカズハは答えた。
「え、っとそれじゃぁよろしくお願いします…。」
「うん、よろしく!」
「えぇ、よろしくお願いしますね。」
「私はハンジ・ゾエだよ、気軽にハンジって呼んでね。でユリアちゃんに抱きしめられてるのが、」
「カズハ・トォウフォスです。カズハで構いませんよ。」
「わかりました、ハンジさん、カズハさん。」
人懐っこい笑顔でそういうモブリットだった。



いつも通り柔軟体操をし、装備を身に着けた後ユリアとモブリットの装備を確認した後
「カズハいつも通り殿(しんがり)を任せてもいいかい?」
「構わないけど、ルート把握はどうする?」
ハンジに言われそれを聞く。
いつもはカズハが高く飛び上がり周囲を確認して落ちてきて合流するということをしているが、前もって知らせてない後輩二人が居る。
「ふたりとも驚くだろうし。私がやっておくよ。二人のフォローお願いするよ。」
ちなみにハンジが初めてそれを見た時カズハに「なんで、どうして、どうやって。」と詰めより興奮したまま問いただしていたのもある。
「ん、解った。」
「ユリアとモブリットは私の後ろでカズハの前ね。」
「了解!」「了解です。」



カズハとハンジは人数が増えても合わすぐらいの力量はあったため難なくこなしているのだが。
ユリアとモブリットは陣形を取りつつ立体機動をするのがほぼ初めてであり、緊張していた。
しばらくそのまま立体機動で進んでいるが。
「あっ!」
ユリアの少し先を進んでいたモブリットのアンカーが上手く木に刺さらずバランスを崩しそのまま落ちる。
「モブリット?!」
ユリアは近くの木の枝に止まり助けに行こうとするが戻ってきてたハンジに止められる。
「ハンジさん止めないで!モブリットが!友達が!」
「落ち着くんだ、ユリア。」
「だって!」
「大丈夫だから。」
そう落ち着き払ったハンジの声に納得行かない顔をするユリアにハンジは苦笑をする。


アンカーが穿たれる音が反対側から聞こえた後にワイヤーが巻かれる音が近づく。
ユリアがそちらに視線を向けるとカズハとそのカズハに抱き抱えられている状態のモブリットが反対側の枝に降り立つ。
「モブリットさん、お怪我はありませんか?」
「は、はい、ありません。ありがとうございます。カズハさん。」
「どういたしまして。」
モブリットの頭をカズハはぽふぽふとなでる。
「カズハさすがだね。」
「ユーリを止めてくれてありがとう。ハンジ。」
ハンジがカズハに言うと、カズハはハンジにお礼を言う。
「カズハ、ありがとう…。」
「問題ないよ。ユーリ。後ろで二人のフォローするが私の役目だからね。」
申し訳なさそうにユリアがしょんぼりとしながら言うがカズハは笑顔で答えた。
「とりあえずモブリットとユリアが落ち着いたらいこうか。」
「そうだね。」
ハンジがそうカズハに言うとカズハもそれに同意する。
それに慌てるのがモブリットとユリアで
「だ、大丈夫です!いけます!」「だ、大丈夫だよ!いけるよ!」
とモブリットはカズハに、ユリアはハンジに異議を申し立てる。
「少し一呼吸落ち着いてからで大丈夫だよ。ね、カズハ。」
「うん。そこそこいいタイムで進めてたから。問題はないよ。」
「だから、ふたりとも深呼吸して落ち着いてから行こうか。」
そうハンジとカズハは言い、お互いに近くにいる後輩の頭を撫でた。





ゴール地点に到着するとモブリットとユリアは隅の方で寝転がってぐったりとしていた。
「ユリア…。」
「なに、モブリット…。」
立体機動後でそのあと全力疾走してゴールに行くのだがその全力疾走で力尽きて洗呼吸のまま二人縦に並んで横になっていた
「立体機動ってこんなに神経使ったけ…。」
「一人だとそんなに気を使わないのにね…。」
二人はちらりとタイムを測っていた教官にタイムを聞いているハンジとカズハに視線をやる。
「なんであの二人呼吸変わらないんだろ…。」
「カズハは昔からおばさんについて鍛錬してたけど、ハンジさんは知らないなぁ…。」
と話をしていると
「いやぁ、お二人さんお疲れ様。」
「ユーリ、モブリットさん、お疲れ様。」
タイムを聞いていたハンジとカズハが戻ってくる
モブリット横になっていた体を起こす。
「タイムどうでしたか?」
心配そうにいうモブリット。
「問題なんてないよ。ね、カズハ。」
「はい、こんな感じでしたし。」
とタイムを書かれたノートを渡されそれを見てモブリットはぽかーんとカズハとハンジを見る。
そんな固まってるモブリットに気づかず体を起こし。
「なになに?タイムでた…の…」
覗き込むと絶句するユリア。
そこにはタイムロスしたのにきっちりと規定時間以内だったタイムが書かれている。
「あれ…あそこで結構タイムロスしてたのにあれ?」
「だから言ったじゃないか。平気だって。」
ハンジが胸を張って言う。
「ハンジにつられて早くなってたんだと思うよ?」
カズハは思い当たる理由を言う。
そんな和気藹々と四人が会話していると



「魔女が良い気になりやがって。」



カズハを忌む言葉がその雰囲気に水を差す。
モブリットは”魔女”が誰を示すかをユリアに聞いていたので他三人の顔色を伺う。
カズハは苦笑をしているだけで、ハンジは口元は笑っているが目が笑っていないのに気付く。
そしてユリアは怒りの形相でいた。
モブリットは初めてみるそのユリアの表情にぎょっとするのだった。



「何か怪しい薬でとりいったんじゃねぇか?」
「または体かもな!あんな小さいなりで。」



と下世話なことを言うのにユリアは我慢ならず、抜刀しようとするが鉄が軽く当たる音のみ4人の中で聞こえる。
モブリットはなぜかと思いユリアの手元を見るとカズハにその手を抑えられているのが解った。
しかしカズハはそれほど力を入れてるわけではないのがわかる。
「カズハっ!なんで止めるのっ!」
そう押し殺したような声でカズハにユリアは抗議する。
「嗚呼言う輩には言わせておけば良いんです。」
カズハはなんでもなさそう言う。
「ハンジ。」
「わかってるよぅ。」
軽く窘めるようにカズハが言うとハンジは肩をすくめる。
「ユーリ、私のために怒ってくれて嬉しい、けどその激情のままに抜き、傷つけようとしたならあなたが悪者に成ってしまう。」
そうカズハは真っ直ぐユリアに言う。
「でも…っ、だって…っ!」
「大丈夫だから…。抑えて、ね?」
「うぅう…。」
ユリアは泣きそうになりながら堪え持ちてから手を離す。
「ありがとう、ユーリ。」
それにカズハは、背中に手を回してぽふぽふと撫で礼を言う。
「貸し一だからね……。」
「うん、借りとくね。」
カズハは離れてユリアとは反対のほう。ハンジが先程から見つめる先に視線をやる。
ユリアとモブリットは一瞬だけぞわりと背筋が凍るがすぐそのプレッシャーは消える。
なんだったんだろうかとハンジとカズハを見るがハンジは笑ってごまかしカズハは微笑むだけだった。


- 6 -