思いがけない真実

「え? 二宮? ああ、そうだけど。あれ、言ってなかったっけ?」
 きょとん。この瞬間に音をつけるならばそれがいいだろう。目の前にいるこの男、一ノ瀬秀一。俺たち一ノ瀬隊の隊長で凄腕の射手。そして二宮さんとはB級一位二宮隊の隊長で、これまた凄腕の射手である。

 ショウが師匠である辻と今日も稽古に励んでいて、それをたまたま見ていた俺と犬飼。その個人戦のモニターを眺めながら特に身のない話をしていたら、犬飼がそうだ、と小声で俺にこんなことを聞いてきた。
「ねぇ富田、二宮さんと一ノ瀬さん……ぶっちゃけどう思う?」
「は? なに、どう思うって。仲良いとは思うけど……まあなんつーの? よきライバル的な?」
「だよねぇ……いや実はさ、俺、見ちゃったんだよ」
 勿体ぶったように話す犬飼にイラッとして、早く言えよと促した。そうしたら犬飼はじっと俺の顔を見てからこう言った。
「二宮さんと一ノ瀬さんがスーパーで二人で買い物してそのまま同じ家に入ってったの」
「…………いやいやいや、あれだろ? 鍋パとかだろ? そのあと東さんとか諏訪さんとか来たんだろそうなんだろ!?」
「そう思って俺も確認しました。えー、恐らく二人きりです」
 うっそだろおい。いや、でもまだ決まったわけじゃないよ。仲睦まじいだけかもしれないだろ。そう言っても犬飼は「いやーあの空気感はアレ」とか言って聞かない。おいおいマジなのか。どうやら辻が隣町のデザートバイキングに行きたくてそれに犬飼と氷見が付き合って行った帰りにスーパーから出てくる二人を見かけてあとをつけたらしい。いやなんであとつけたんだよ。
「隣町の……ってことは隊長の家だろうな……」
「え、一ノ瀬さんって隣町に住んでたんだ」
「実家が三門らしい。一人暮らししたくて昔引っ越したんだと」
「うーん、じゃあ一ノ瀬さんの家に二人で行ったってことか。尚更やばい」
 犬飼は首をひねった。何かを思い出そうとしているようだ。そして、あ! と声を上げる。
「そうだよ、だって二宮さんが鍵取り出して入ってたんだよ!」
「はい!?」
「うわわわすごいもの見ちゃったんだな」
 やばいことが判明してしまった。
 辻とショウがブースから出てくる。同じ話を犬飼がショウに聞かせるとショウはしばらく固まったあとに辻を見た。辻は首を横に振る。
 俺たちは誰もそのことに関して嫌悪感とかを持っているわけではない。ただ、めちゃくちゃ驚いているだけだ。とはいえこれはあくまで俺たちの推測であって事実とは限らない。
 そこにタイミングよく、いや悪くなのか、隊長が通りかかった。どうすべきか。
「あっ一ノ瀬さーん!」
「うん?」
 勇気あるな犬飼!
「ズバリ聞くんですけど一ノ瀬さんって二宮さんとお付き合いしてたりします?」
 こいつ! という目で俺もショウも犬飼を見た。強すぎるだろ。辻は額に手を当てて天を仰いだ。いつもこうなのか。
「え? 二宮? ああ、そうだけど。あれ、言ってなかったっけ?」
「初耳ですけど!?」
 うちの隊長こういうところあるからな。今度は俺が頭を抱えた。マジか、今度から二宮さんのこと直視できないかもしれない。
「あの、いつからお付き合いを?」
 ショウ、そこ突っ込むのか。隊長は指折り数えている。
「んー、二宮が十七の時からだからー、三年前か」
「それって二宮さんが入隊して間もない頃では」
 今度は辻が突っ込む。確かにそうだ。あの人の入隊は三年前。十七ということは高校生、隊長は十九歳……犯罪では? ショウは隊長をエッという顔で見ている。隊長は気にしていない。本当にいろいろと感じさせない男だ。
「隊長、なんかさらっと付き合ってるとか言いましたけど。それ言っちゃっていいんですか? 二宮さんそういうの気にしそうですけど」
「え? うーん、まあ平気じゃないか? 多分」
「この人! あんたって人は!」
「うわー薮蛇だったかなーこれ」
「二宮さんには言わない方がよさそうですね、犬飼先輩」

 次の日、一ノ瀬さんがその頬に真っ赤なもみじをつけてきたのはまた別のお話である。


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