恋せよ男子高校生

 水上さん、好きな人いるってホンマですか?
 隠岐の何気ない一言が隊室に響いた。ギターを構えたまま勢いよく振り向くイコさん、ガタンと音を立てて立ち上がるマリオ、猛スピードで駆け寄ってくる海。そして全員が口を揃えてこういった。
「誰!?」
「いやまず肯定すらしてないんやけど」
「否定もしてないやん。で、誰や?」
 頑なやなイコさん。隠岐もニマニマとこちらを見ている。マリオなんかものすごい目を輝かせて、そんなに興味があるのか。
「あー、まあいます、けども」
「えっ誰やろーイコさん思いつく人おらんの?」
「女の子みんなカワエエもんな」
「そういう話ちゃいますって」
 俺に聞いておきながら全員があーでもないこーでもないと意見を飛ばしまくる。ついには男なのでは、もしや王子か、なんて言葉まで。やめろ鳥肌たったわ!
「ちゃいますちゃいます」
「観念して言ってくださいよ水上さん!」
「えー言うても知らん人やと思う」
「でもボーダーの人なんやろ?」
「まあ」
視線が刺さる。観念して俺は口を開いた。
「三枝さんって人」
「…………」
「誰や?」
「そらみたことか! B級特殊部隊一ノ瀬隊のオぺ子さんや!」
「一ノ瀬、あ! エキシビションマッチの!」
 誰も三枝さんの顔すら知らないようである。一ノ瀬隊は特殊な立ち位置なのでメンバーすら知らないなんていうこともザラにある。これ幸いと俺はそれ以上の言及を避け、 みんなは三枝さんを調べることでいっぱいいっぱいのようだったのでそっと隊室を抜け出した。

「あら。水上くんじゃない、奇遇ね」
「三枝さん!」
 そうしてしばらくぶらぶらと本部を歩いていると、噂をすればというか、三枝さんに会うことができた。ラッキーや。ちなみに俺の些細な恋心はもちろん本人には言っていない。というかこの人はバッドエンドが好きとかいう意味わからん趣味を持っているから、誰かと結ばれるなどの思考はなさそうなのだ。破局前提やんそんなの。
「こんなところで何してはるんです?」
「うふふ、なんだと思う?」
「えーっと、一ノ瀬さんたちを待ってるとか?」
「残念、ハズレよ」
 正解はね、と三枝さんは俺に微笑む。真っ白な肌、真っ黒な髪に真っ赤な口紅がよく映えている。思わず見つめる、唇が動く。
「ここにいればあなたに会えると思ったのよ。女の勘、当たったわね」
「な」
「どう? ときめいてくれたかしら。私に恋する水上くん」
 にこりと笑った三枝さんはすれ違いざまに俺の肩に手を置いて、そのまま手を振り去っていく。
「な、あ……ちょおそれどういう意味ですか! 三枝さん!!」
 追いかけなければ。直感がそう告げて、俺は思わず駆け出した。


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