未来を託す

 一瞬のことだった。未知なる近界民の攻撃は緊急脱出を封じるものだったらしく、トリオン体に致命的ダメージを受けた巽と空閑はその場で生身に──空閑はそれでもトリオン体なのだが──なった。相手は判断を間違えなかった。この場で驚異になりうるのは空閑の方だった。そんなこと、巽も丸わかりだったのだ。
「空閑──」
 次の瞬間、巽の腹部に大きな穴が空いた。感じたことのない衝撃、いや、むしろもう何も感じない。致死ダメージとはこういうものなのか、と巽はどこか冷静になっていた。冬島からもらっていたテレポーターを空閑に叩きつける。
 巽は最後まで、最前の未来を見据えて生きていた。予知なんかできない。それでもこの場で生き残るべきは、自分ではないことは確かだった。心の中で顔も朧気な父と母に謝りながらも、後悔の念はひとつもない。よくはないが悪くもない最後だ。さようなら、空閑。いつか誓った長生きを、お前はきっと叶えてくれ。そう願うばかりだ。
 最後に見た友人の顔は、なんだかひどく歪んで見えた。それが可笑しくて、巽は笑ってしまった。


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