交わる平行線

交わる平行線

 息が白い。ついこの前まで諏訪が暑い暑いと騒いでいたような気がするが、最近は時の流れが早まっているようだ。コーヒーももうホットを買う季節になっている。缶から俺と同じように白い息が零れた。
「あら、まるでトリオンが漏れてるみたいね」
 振り向くとあたたかそうなコートを着た三枝がいた。トリオンとは、この湯気のことを言っているのだろうか。それとも、俺の口から零れているこの息か。ほう、と三枝も白い息を吐く。
「私なんてほとんどトリオンがないから、これじゃあすぐに死んじゃうわ」
「縁起でもないことを言うなといつも言ってるだろう」
 あらごめんなさい、なんて反省の色を全く乗せない言葉が届く。俺たちはいつも平行線の上にいる。
「でもそうね、私が死んだら風間くんは泣いてくれるかしら?」
「……そうだな。柄にもなく大泣きする。大声で」
「まあ、死んでしまうのがもったいないくらい面白い絵面ね。見てみたいけれど見るには死ぬしかないなんて、悲しい娯楽だわ」
「ふ、そうだろう」
 三枝は俺の持っていた缶コーヒーを取って口をつけた。甘いのを飲んでるのね、なんて笑う。返された缶の口には赤い口紅がついていた。
「たまには違う色も見たい。明日は桃色でもつけてきてくれ」
「あらあら、まるで彼氏ね風間くん。でもいいわ、あなたに求められるのは嫌いじゃないもの」
 どうせなら髪型もネイルも変えてこようかしら、と思案する三枝は、いつもよりどこか楽しそうだった。


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