どうやら夢を見ているらしい。だって私の背は縮んでるし、目の前にはあまり見覚えのない公園があるし。だいたい十一歳ってところかな。公園に目をやるとそこには楽しそうに遊ぶ兄弟と思われる男の子が二人いた。どうせ夢なんだろうし、と近づくと大きい方の男の子がこちらに気づく。その時、私の目に「情報」が映った。これは。
「……富田先輩?」
「ん? なんか呼んだ? お前誰?」
富田葵、十二歳。隣にいるのは富田凛太、九歳。正真正銘富田兄弟だ。弟さんを、ご両親を亡くす前の、富田先輩。
「俺、富田葵。こっちは弟の凛太! お前は?」
「えと、井伊。井伊遥、です」
「遥な、よろしく。一緒に遊ぶ?」
敬語とかいいよー、と無邪気な先輩の笑顔。顔立ちは確かにあまり変わらないが、私に向かって笑いかけるなんてことないからなんだか変な感じだ。ナチュラルに名前で呼ばれて少しギクリとする。昔の先輩ってこんな感じだったのかな。
何となく誘われるがままに遊びに加わった。公園で遊ぶなんていつぶりだろう。これが思いの外楽しくて、時間も忘れて三人で遊んだ。まだ街に警戒区域も破壊された建物もボーダーの基地もない。平和だ。
しばらく遊んでいると空が赤くなっていく。夕焼け。もうそんな時間なのか。同じことに気づいたらしい富田先輩は腕時計を確認してから弟さんに声をかけた。そしてくるりとこちらに向き直る。
「遥さ、最初全然本気で笑ってなかっただろ」
「え?」
「なんか、こう、警戒? してたって言うか。うーん、上手く言えない。なあ凛太」
「おれね、遥おねーちゃん好きー!」
「凛太お前、一丁前に告ってんじゃねーよ! マセガキだなこのこのー」
本気で笑えていない、か。まあそれもそうだろう。だって私はこの兄弟の、先輩の行き着く末を見ている。仲睦まじい兄弟。これも一年後にはすべて、先輩の目の前で失われるというのか。世界は残酷だ。こんなに優しくて綺麗なカタチを欠片ひとつすら残させてくれないなんて。
「……ねえ、富田先輩」
「んー? なんだよ先輩って」
「私、富田先輩のこと好きですよ」
いつも拒絶される私の本心。なんとなくそれを今の彼にぶつけてみたくなった。先輩は一瞬考える素振りを見せる。
「俺も遥のこと好きだぜ。でももーちょい素直になれよなー俺はそっちの方が多分もっと好きだ!」
なんかこれ照れるな! と先輩ははにかんだ。ずるいぞ、富田先輩。
「っておい! 何泣いてんの!? ちょ、おいおい!?」
「あー! にーちゃん泣かせたー」
「ううううるせぇ! 俺今何した!?」
狼狽える先輩が面白くって、私は泣きながら笑っていた。先輩が困惑して私を見るその表情は、私の知っている富田先輩の顔と何一つ変わらなかった。意識が薄くなっていく。結局これは夢だったのか、なんなのか。
「ねー富田先輩、私富田先輩のこと大好きですよ!」
「またそれかよ。俺は嫌いだねお前のこと!」
「……いつか私が素直になれたら、またお返事聞かせてくださいね」
「はあ? お前が素直に? はっ、そんな日が来たら考えてやるよ!」
ああ、同じ顔だ。私はなんだか少し、安心した。