反対側の似たもの同士

「えっと……お前大丈夫か?」
 本部の廊下で爆音のアラームが鳴り響いていた。驚いて見に行くと、そこには慌ててスマホを叩く男の姿。
「あ、あのっ、助けてくださーい!!」

「ほんっとうにありがとうございました……!」
 いや急に鳴りだして叩いても止まらないし、なんて言うから俺はぽかんとその顔を見ていた。
 谷崎倫理と名乗ったこの男はどうやら防人支部のオペレーターらしい。オペレーターなのにスマホのアラームが止められずに困っていたというのか。歳は十七で六頴館の二年、好きなものは祖父と芋けんぴと囲碁だそうだ。聞いていないのに教えてくれた。見るからに良い奴そうだな。
「いや、別にいいよこれくらい。俺は富田葵。B級一ノ瀬隊の攻撃手だ」
「一ノ瀬隊ってあの!? わーすごい本物初めて見ました!」
「お前の中で俺らは一体なんなんだ? 芸能人か?」
 防人支部なのにうちの隊を知っていることに少し驚く。そうしたら谷崎は「司さんに聞きまして!」なんて言った。司、って辻崎さんのことだよな。曰く、再従兄弟なんだとか。再従兄弟ともなると似ないもんだな。これ聞かれたら今度こそ締め出されるか殺されるかしそうだ。
 防人支部はトリオン量が多いが故にトリオン兵に狙われた所を助けられたり第一次大規模侵攻で大きな被害を受けた、というようなスタッフが多いと聞く。どうやら身寄りのない人を受け入れそのままスタッフになることが多々あるらしい。つまり、この谷崎もそうだということなんだろう。
「……変なこと聞くけどさ、防人支部ってことはお前もその、何かあったのか」
「あ、えっと、はい。祖父以外はみんな殺されちゃって……」
「そっか……あ、あのな。俺もなんだ。家族がみんな殺されて、それで……お前は、すごく明るいみたいだから、なんかな」
 我ながら何を言っているんだろうと思う。頬をかいた。でもこれは率直な感想というか、暗い過去を感じさせないような眩い光が谷崎にはある気がする。それが気になって、俺はついこんな話をしてしまったのだ。それは俺にはないモノのように感じたから。
「明るくいようって思ってるんです」
 谷崎は先程とはまた別の笑顔を浮かべた。落ち着いたような優しい顔だ。
「だって僕が悲しそうにしてたら、お父さんもお母さんもみんな心配しちゃうし。それって悲しいことですよ! それに今の生活も周りのみんなもすっごく優しくて楽しくて……だからついつい笑っちゃうっていうか」
 谷崎は恥ずかしそうにはにかんだ。
 ああ、なんて眩しいんだろう。こいつはきっと俺にないものをすべて持っているんだ。俺は結局すべて自分のためだけに生きていて、目の前でぐちゃぐちゃになっていった家族から目を逸らしていた。みんなが俺を責めるような悪夢にうなされて、それに怯えて眠ることも怖くて、そうやって生きてきたけれど。
「……お前、すごいな。ほんとにすげぇよ」
「えっやだなぁ調子乗っちゃいますよ! それに富田さんだってスマホのアラーム止められますし、何よりあそこで僕に声かけてくれたの富田さんだけでしたからね? 富田さんもすっごく優しくて素敵な人です!」
「はは、あはは! いやー適わねぇわ、俺お前のそういうとこ好きだぜ谷崎。これからも大事にしとけよー」
「ええ? 僕なんかおかしいこと言いましたか!?」
 オロオロとする谷崎。こいつにとってはこれはすべて素であり本心なんだろう。
 今すぐには無理でも、きっといつか。俺もこうやって前を向いて歩いていくことができるようにと未来に小さな希望を抱いた。


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